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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第四章 曙光差すとき
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第五十二話 札付き衆

 ドミニクはそれから数日、建物の隙間で寝てそこらをただうろついていた。


 フェイチェスターのスラムに比べて、ここの住民はさらにまともではない気がした。無論、聖岩によって瘴気が入り込むことはないが、この地自体が遺物の影響か何か知らないが、人々の精神を冒す何かに蝕まれている感じだ。


 この地の騎士たちは発掘した遺物で武装しており、他の地よりも容赦がなかった、〈黒犬〉に近い感じもする。警告なしで悪党に向けて、大きな銃を向けて放つのをドミニクは見た――銃弾ではなく、謎の青白くまばゆい光線が発射される銃だ。それを浴びた者はひときわ輝いて、跡形もなく消えた。騎士たちが皆それを背負っているところを見ると、どうやら一そろいでかつて大量に発掘されたか、あるいは順次見つかっているのか、いずれにしろ当局はそれを独占しているようだった。


 セントカルラという領邦からやってきた冒険者の一団がいた。ドミニクはそれがどういう場所なのか知らなかったが、彼らに言わせるととんでもなくひどい都市らしい。冒険者を弾圧しており、高い税金を払わせているという。


 何度か会ったが冒険者のリーダーは常に二日酔いで、まるで生まれる前日すらも母親の腹の中でしこたま飲んでいたかのようだった。その部下たちも皆、冒険者っぽくなかった。フェイチェスターのオリヴァーやストレイといった腕利きや、ギルドにたむろしていた木っ端冒険者のほうが、よほど勇ましい顔つきをしている。こいつらはどちらかというと、スラムにいたどうしようもない人々に似ていた。早めにドヤ街に向かい、誰にでもできる簡単な仕事に従事すべきとドミニクは思っていたが、彼らはこの地でなら一山当てることができるとなぜか確信していた。


   ■


 ある日、インチキくさい初老の男が酒場の外でドミニクに話しかけてきた。


「おう、小僧、どっから来たんだ?」


「フェイチェスターの方からです」


「ああ、フェイチェスターな、懐かしいもんだぜ、俺は昔あそこにいたことがあんだよ。そこで何してたんだ、おめえは」


「色々です、冒険者とか騎士の手伝いとか、あと大学で研究に協力してたり」


「大学な! ああ、俺も前はフェイチェスターの大学にいたんだよ」


「本当ですか?」


「本当だって、本当に決まってるじゃねえか、嘘なんか吐くはずがねえよ嘘なんて。本当だとも」


「ラヴジョイって人に協力してたんですが、知ってますか?」


「ああ、ラヴジョイな、もちろん知ってるよ! 俺ぁ彼にいろいろ世話してやったもんだ!」


「彼? ラヴジョイは女性ですよ」


 ドミニクは、さあどうするのか、と思った。ちょっとした見ものだ、言い訳の方法は色々ある。「ああ、そっちのラヴジョイか! 二人いるんだよな」とか「姉貴のほうか、弟かと思ったぜ!」とかだ。しばらくの沈黙の後、


「いや、俺のときは男だったよ」


   ■


「ドミニク、まだここいらをぶらぶらしてたのか?」キールが、サンドイッチを食べているドミニクの所へ来た。「勇者として穢れ岩とか魔物をどうにかしてくれたりはしねえのか、なんだってそう浮浪者の真似事を――いや浮浪者そのものか、お前さんは」


「ものごとには時期というものがあります」ドミニクは言った。「それを見極めずに動くと、あなたのように半分トカゲになってしまうわけです。勇者としてもっとも適切な時期になるまで、ぐっと動きたい衝動を堪える、その自制心が僕には備わっているのです」


「あのセントカルラとかから来たって奴らと何を話してんだ?」キールはドミニクの自賛に言及せず、話題を変えた。


「彼らの愚痴を聞いていたんですよ、いかにろくでもない場所から来たか」


「そうかい、俺は行ったことはねえが、今に向こうがいかに恵まれた場所かを実感するだろうさ」


 キールはなぜか嬉しそうだった。あの余所者たちがひどい目に合うのを期待、いや確信している風だ。


「おいキール、それと〈たかり鬼〉」大股でどかどかと入店して来たのは、賞金稼ぎギルドの奴らだ。先頭に立つのは風生まれの女戦士、ラファーガだ。その左腕はうねうねと動く触手の束に変化してしまっている。


「〈札付き衆〉がこの領邦へ入ったってニュースだ。挑んでみるか? イカれ野郎どもにさ」


 ラファーガたちは注意喚起に来たらしい。手配書の束をどさりと置く。それは徒党を組んで悪事を行うならず者たちのものだ。各地で手配されていた奴らが、ある時どこぞで一緒になり、手を結んだらしい。ドミニクは悪人面が並んだそれらを眺めていく――ブライドワースの殺人鬼〈人斬りロイク〉。エルフの辻強盗〈一つ目ケット〉。騎士を詐称する泥棒〈棘無しギーゼラ〉。オークの殺し屋〈脱走者モウソ〉。そして勇者との繋がりがあると偽り、金銭を各地で騙し取っている詐欺師〈勇者仲介人〉アルヴィン。


 キールは大して興味がなさそうにそれらを見ていたが、ドミニクとしてはこのアルヴィンなる男に義憤を覚えた。いずれはこういった輩が現れるとは思っていたが、まさか自分の滞在している領邦に流れて来るとは。見つけ次第、悪党仲間ともども枯れ木に変えて焚火にくべてやろう。

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