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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第四章 曙光差すとき
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第四十九話 シーカーズベイの三日月

 ドミニクはフェイチェスターを出た後、隊商や冒険者の部隊に便乗させてもらい――快く承諾しない人々もいたが、無断で乗り込んだ場面も数多く――シーカーズベイという領邦へ落ち着いた。そこに至るまでの間に、彼が勇者であったり、また何ともムカつく小僧であったりということがたびたび明るみに出て、しかしそれによって発生した諸問題についてドミニクはこれまでと同じく、以下のプロセスを踏んで解決した。


 一、自分は間違っていない。常に正しい。

 二、よって自分が間違っているという相手がいた場合、その人物が必ず間違っている。


 これまでと同じく、ドミニクが自信満々であること、彼が勇者としてすさまじい力を持っていることから、この不遜な少年を頼ろうとする人々が何人かいた。ドミニクは断るか、もしくは承諾して何もしなかった。同行したいという人もいたが、ドミニクは誰一人として仲間と見ることはなかった。


 シーカーズベイは、細長く入り込んだ湾のほとりにある、ごみごみと入り組んだ建物の数々だった。フェイチェスターのスラムに近い雰囲気で、しかしあそこよりはまだ治安は保たれていた。この土地では大規模に崩壊した地区や、手足が欠損した人々などが見受けられた。それらは旧時代の遺物のせいらしかった。


 この領邦はその名の通り、探索者(シーカー)――前文明の遺跡を調査する冒険者たちの拠点だった。そしてなぜかは知らないが、専門家であるはずの彼らは旧時代の危険な魔法具を、妙に軽々しく扱う。例えて言うならそれらは、ちょっとした衝撃で起爆する爆弾だ。しかしこの地の探索者は、それを単なる「お宝」以外と見ることがなかった。


 ドミニクがやって来た初日、酒場にいると外から何か忌まわしい獣の呼び声が聞こえてきた。街中に突如、悍ましき異形が召喚され、大暴れして死人も出した挙句に衛兵に始末された。探索者が何かの封印を誤って破ったためらしかった。もちろん酒場の人々は「ああ、そりゃ大変だ。ビールおかわり」ってな具合だ。


 果汁入りの水を飲んで相当長い時間粘りながら、いろいろと噂話を聞けた。勇者たちが起こしつつある混乱についてだ。スコップを持った黒い鎧の勇者については、各地で首無し騎士を生み出し続けているようだ。その〈屍の勇者〉と同じ鎧を纏った謎の戦士が首無しどもを討伐しているらしく、ヘザーか、とも思ったが、その女性には首がちゃんとあって、しかも別嬪だという話なので別人だろう。


 教会はこのスコップ野郎に対して「ドミニク・フリードマンと同じ、悪しき勇者僭称者」との見解を示している。ドミニクからすれば、彼らは聖職僭称者だ。妬みによって英雄を貶め、自分たちはろくにアンデッド退治すらしないではないか。


 それからダミアーノが言っていた、北の聖女だが、突如として消失したとのことだ。ある夜、昼と見まごうばかりにその一角が明るくなり、その後彼女の様子は一切確認されていないらしい。恐らく〈審判者〉による裁きが下ったのだろう、とドミニクは解釈する。ブランガルドの住民を巻き込んだために、神々は勇者の資格と命を彼女から剥奪したのだ。力に溺れし者の、当然の末路。スコップの勇者とダミアーノもついでに裁いて欲しいところだが。


 ナナとはあれから何度か話した、しかし現実世界に顕現することはせず、あの草原の夢の中で、いろいろと理由を付けて何もしないことを続けたがっている。なんという怠惰。ダグローラと那由他の神々の嘆きはいかほどか。勇者である自分が身を粉にして世の人々と寄り添っているのに、この小娘はどういう了見か、とドミニクはナナに対して色々と説教しようとしたが、沼に杭を打つように手ごたえがなく「うん」と相槌を打っては何も聞いてはいない。ドミニクはもはや、この聖女をあまり信用しないことにしていた。とはいえ、聖女なしでも自分が最高位の勇者であることは事実なので、何ひとつ問題は無かった。


   ■


 ドミニクがそろそろ酒場を出るかと思っていると、いかにもうだつの上がらぬ青年が隣に腰掛けた。他にも座席は空いているのになぜか。答えは簡単、この男はバルトロメアやハーフムーンと同じ穴のムジナであり、勇者である自分が頼れる存在と嗅ぎ付け、甘えに来たのだ。そういえば顔もどことなくハーフムーンに似ている気がする。彼はムーンという大男の半分の身長だったのでその異名をとったらしい、この男はさしずめ〈三日月(クレセント)〉といったところか。


 ドミニクが腰を浮かしかけたところで、いきなりその男は「なんでこうなっちまったのかね」と発した、無論ドミニクを凝視しながらだ。この時点で彼は、なぜか知らないが、この身知らぬ少年が自分の身の上を清聴してくれると思い込んでおり、さらにその解決のために身を粉にして動いてくれると確信しているのだ。つまるところ異常者である。この時点で樹にして永遠に口を利けぬ存在に変えた方が、彼自身と世界のためだが、このバーは狭い、邪魔になってはいけないのでドミニクは外に出ることにした。男は何かぶつぶつと言いながら付いてくる。


 道が多少広くなったところで、ドミニクは彼を樹に変えた。じつにさっぱりする。ドミニクはバーに戻り、「また来たのか」とうんざりするバーテンダーにまた果汁入りの水を注文した。


「あれ、若様はどこいったんだい? もう帰ったのかね、大抵しっつこいのに、坊やよく追い払ったね」


「若様? 先ほどの青年がですか?」


「そうさ、ここのお館様のご子息だよ、こう言っちゃなんだが――」


「さえない方でしたね」


「ああ、あの人は双子の弟でね、兄上様がすこぶる優秀なんで、自信がないみたいでねえ、大抵いろんな酒場で、よそからの人相手にくだを巻いてるのさ」


 なんとも哀れ、惨め、情けないことだ。ドミニクは優越感からか、気まぐれを起こした、あの男、クレセントを矯正させてやろうではないか。自分という見本がいれば、たやすいことだ。

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