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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第三章 大都市の冒険者
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第四十八話 蘇生

 列車に乗り込んだ後もヘザーはよどみなく喋り続けた。車両内には護衛兼監視役の盗賊がいて、勝手に乗客が他の車両に移動しないよう目を光らせている。恐らく、高級な密輸品でも満載されているのだろう。


 ヘザーの話をドミニクは、ほぼ聞き流していたが、断片的に聞き取った情報によると、彼女は聖棘を三本も仕込まれた猛者であり、メキメキと騎士団内で頭角を現していたそうだ。だがある日、今の彼女と同じような漆黒の鎧を着た騎士に襲撃され、〈デュラハン〉へと落とされてしまった。


 それが事実だとすれば、妙なことだ。通常アンデッドというのは、死体から作られる。だがヘザーは生きている状態から直接、この戦慄の首無し騎士にされたという。彼女自身も屍術士ギルドなどと協力し色々と調べたが、どうやら尋常の術式を無視したかなりイレギュラーな手段で、無理やり生者がアンデッドの状態に変質させられているらしい。そのため自我と記憶をそのまま保持しているが、さすがに棘はすべて消え去ってしまったらしい。


 オークや吸血鬼もそうだが、魂魄が変質した者に棘は適合しえない。棘が自分で魂魄を選んでいるというのか? ドミニクも当の騎士たちも、よく知らないのだ――異様な、量産可能な魔法具で、旧文明の産物であることくらいしか。


 とにかく、誇りである棘をすべて失いアンデッドにされたヘザーは強い屈辱を覚え、なんとしてでもその相手――漆黒の鎧の騎士に復讐するつもりらしい。今も切り取られたヘザーの首は、その人物が持っているのだと信じて、相手の命とともに奪い取るつもりだ。


 その鎧の色彩は、彼女が知るどの領邦の騎士のものとも一致していない、汚泥かなにかで染め上げたような、薄汚く悍ましい色だった。今やヘザーの鎧もそれと同じ色に変質しているが。


 その騎士は、スコップの聖武具を持ち、それをヘザーの首に突き刺したらしい。だが妙な点がいくつかある。


 武具が騎士たる者にふさわしくないと判断された場合、無理やり引き抜く処置が行われるはずなのに、そのアンデッド作成のスコップが野放しになっていること。そして下手人は棘が三本も刺さっているヘザーを、たやすく手玉にとったこと。そもそも、騎士は魔術や呪いが効きづらい存在だ。それを無理やりアンデッドに変えてしまうなど、なんとも異様なその武具。


 もしや、勇者の仕業なのではないか? とドミニクは推理した。スコップは聖武具ではなく、勇者の神器なのだと考えれば辻褄は合う。


 犠牲者の首を、もしくは体の一部をコレクションするのが、その犯人の趣味なのだろうか。自我を奪い、意のままに操ったり、心身ともに怪物に変えることもできるのに、敢えて残してあるのかも知れない。被害者に、屈辱と絶望を与えるために。


 悪趣味なその下手人は、〈審判者〉に裁かれるべきだ。さもなくばどこかの勇者に。


   ■


 列車は半ば地下を通っていた。音も通常の列車と同じく出ているように思われたが、線路沿いに魔術の障壁でも張られているのだろうか? あるいはこの車両自体にかけられていて、外部には音や振動が漏れないように配慮されているのだろうか。


 数時間かけて、列車はフェイチェスターの西の果てにまで辿り着いた。ヘザーは、驚くべきことにドミニクとともに降り、どうやら付いてくるつもりらしい。この場で樹に変えてしまおうか。護衛などは必要ないのだ、とくにこんな騒がしい人物は。そんなドミニクの内心と裏腹に、ヘザーはこの先についての情報を話す。フェイチェスターの西側には瘴気の濃い場所があり、何度穢れ岩を砕いても新たなものが生まれ続けているという。


 その向こうにはいくつかの村落があるが、そのうちの一つが現在、黒犬組によって焼かれているらしい。反逆者が複数出たということだ。


 偽勇者の件と何か関係しているのだろうか。ドミニクはその現場に行ってみたいと思った。そうだ、そこまでヘザーを連れて行き、彼女がアンデッドだと暴露すれば面白いものが目撃できるかもしれない。


 考えてみれば、ヘザーは元騎士だ。騎獣を操る役を負わせ、足として使った方が便利かも知れない。だがイヴンゲイルの剣技を間近で見るのも楽しいものだ。二人とも連れて行くというのはなんとも重苦しい。どちらか選ばなければならないが――


 少し考えて、ドミニクはいっそ両者と別れることを決意した。


 都市の最後の壁の手前、人気のない路地で、ドミニクは二人を無言で樹にした。彼らに意識はなく完全に植物と化しており、五時間ほどで元に戻るように仕込んだ。やはり一人が良い。


 帝都に向かう途中で、気が向いたらナナとまた話してみよう。もしかするとこの前は、なんとなく虫の居所が悪かっただけで、やはり自分を養うという決定は揺らいでいないのだろう。


 ドミニクは最後にフェイチェスターを振り返る。汚らしく、住む者もまた最悪な場所だった。しかし、色々と学ぶことはできた。愚民の動きというものを。彼らに感謝はしないが、その命は完全に無駄ではないのかもしれないと思えた。


   ■


 ドミニクが出て数時間後、イヴンゲイルとヘザーは元に戻ったが、二人は大きく混乱していた。


 イヴンゲイルは生者に逆戻りしていた。ヘザーは、やはり勇者の犯行だからかアンデッドのままだったが、違和感に兜を外すと、そこには彼女の顔があった。ドミニクがスコップの勇者の力を、一部削いだためだろうか。それまでその頭はどこにあったのだろうか? 疑問は尽きないが、ドミニクに救われたことは確かなようだと彼女は確信した。


 イヴンゲイルはイーネ親方の元へ帰り、ドミニクについて重大な報告をするつもりだ。ヘザーはまだ、復讐相手である勇者を追うつもりだが、各地の屍術士ギルドなどで、ドミニクについて喧伝することだろう。


 彼は死をも覆す。勇者の力、それを利用しようと考える者どもは、彼を追い求めることだろう。ドミニクはそれを許しはすまいが、許されずとも構わないという人々は多いものだ。さらに彼らは、ドミニクと同じく、他者は自分を必ず助けるものだと根拠なく思い込んでいる。


 未だ本人は何も知らず、濃い瘴気の中を当てどなくさまよっている。彼が西だと思う方角に向かって。

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