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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第三章 大都市の冒険者
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第四十七話 首無し

 その後も何体かの魔獣と遭遇したが、イヴンゲイルは一瞬でそいつらを狩り、ドミニクはただ眺めているだけでよかった。この男は、イーネ親方が実験という名目で、その実、護衛として同行させたのではないかという考えに至った。もちろん単独でも、ドミニクは魔獣だろうが何だろうが、樹に変えてしまえるので不要であるが、そういった配慮こそ、組織の長が持ち合わせていなければならないものだ。ドミニクは親方に対しさらに好感を抱く。


 地下道を長いこと歩き続け、ヨハンナに教わった「無数の剣が突き刺さった白骨死体」を目印に脇道に入る――魔法具の灯りで照らされたそれは、かつて何者かの恨みを買い、逃げ切れなかった悪党の骸だという。その先は螺旋階段が上に伸びている、恐ろしく高い塔だ。ドミニクとイヴンゲイルは、その長い道を無言で進んでいく。


 相当な高さを上り、最上部へたどり着くと外へ出ることができた。どこかの地区の、空堀のような場所で、上を見上げれば建造物に挟まれた、細い空が見える。


 ヨハンナが言うには、フェイチェスターには都市当局が認知しない非公式の〈秘密鉄道〉がいくつか走っているらしかった。それらは盗賊ギルドが運営し、密輸業者や秘密裏に移動したい者が利用するという。


 そんなものが街の中を走っていればすぐさま露見しそうなものだが、これからドミニクが使う路線〈ヴァイス五番線〉は、百年以上明るみには出ていないそうだ。都市の喧騒に紛れて、誰も立ち入らない死角を走っているらしい。


 ヨハンナに渡された〈乗車券〉は、真鍮でできた小さな板で、何らかの記号が羅列されている――偽造防止の暗号か。使用料自体は事前に先方へ納められているのだろう。


 がらんとした、都市の亀裂とも言うべき空堀を進み、「片腕の欠けた騎士の像」の前へたどり着く。そこにあるドアの隙間から、乗車券を滑り込ませた。


 錠が外される音がしてドアが開く。顔をボロ布で隠した男が、中に招き入れた。


「〈造船所跡〉の奴だな? 話は聞いている。人間の小僧とベンシック野郎一人。西方へ抜けたいってことだが、そっちは瘴気が濃いぞ。出てどうするつもりだ?」


 存外、親切に心配してくれているが、ドミニクが「どうってことないですよ」とあしらうとその〈駅員〉は無言で頷き、二人を奥へ通してくれた。


 〈駅舎〉は古い酒場のような建物で、もちろんその実態は盗賊ギルドのアジトというわけだ。奥の部屋へ行くと、酒を飲んでいる身なりの良い男がいた。


「おお、お前かね? ドミニク・フリードマンというのは……ヤ=テ=ベオから話は聞いているよ。あのどん底暮らしのエルフは元気そうだったかね?」


 どうやらここの〈駅長〉――盗賊の親分らしかった。なれなれしい口調に、ドミニクはあまり良くない第一印象を抱く。


「息災であったように思います。それで、列車はすぐに出るのですか?」


「あと一時間ばかり待ってもらう必要がある。そうだ、同乗者が一人いる。そいつと話でもしておいてくれないか。旅は道連れと言うだろう」


 この秘密鉄道に乗るということは、その人物にはやましいところがあるはずだ。犯罪者かなにかだろう。勇者である自分が接すべき人種ではないはずだし、そもそもこういう場では、お互いに不干渉を貫くものではないのだろうか。


 ドミニクがそう怪訝に思っていると、駅長が一人の、漆黒の鎧を着た騎士らしい人物を連れてきた。しかし、ドミニクにはそれは人間には思えなかった。忌まわしいマナを露骨に発しており、それはゲオルギーネがかつて倒したアンデッド、リビングアーマーに酷似していた。


「いやあ、どうも初めまして。君が今回乗り合わせるって少年だね、まったくお互いに悪目立ちする身だからね、君は勇者って話でしょう。有名人はいろいろと大変だね、一方わたしの方は肉体がどうも妙なことになっちゃってね、いやいやまったく禍福は糾える縄の如しとはまさにこのことで、ちょいと名を上げたらこんなひどい目に合うだなんてまさに神々のいたずら、人生なにがどうなってんだか分からんもんだけど、でもここから抜け出せばうまいぐあいに再スタートってわけでまだまだ薔薇色の日々が待ち受けているだろうと――」


 顔は兜に覆われて見えないが、まくし立てるその騎士は上機嫌だ。ドミニクはうんざりして、相槌を打つことすらしなかった。


「おや、ときにそちらのベンシックの方は、ちょっと確信が持てないけどもしや、わたしと同じ穴のムジナ、すなわちアンデッドじゃあないのかな。だけど腕のいい屍術士が手を入れたんだろうね、そこらの聖職者では分からないように偽造がしてあるように見える、何らかの魔術的な障壁で隠蔽がされているのだろう。じつにうらやましいことで。ああ、これは失礼、わたしとしたことが。ろくに自己紹介もしないまま喋っちゃって、生前からおしゃべりなのが玉に瑕って評判だったんだよねわたしって。我ながら困ったもので――」


 そう言いながら兜を脱いだが、そこに顔は無かった。首無し騎士は――いったいどのように喋っているのか――通りの良い女の声で名乗りを上げる。


「我が名はヘザー・ガントレット、以後お見知り置きを、勇者ドミニクよ」

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