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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第三章 大都市の冒険者
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第四十三話 胡乱な対話

 最初の一撃は辻斬りの男が放った。


 向こうも、何某かの剣術は体得しているらしい。迅速な一撃だが、それはヨハンナによって簡単に防がれる。狙いは分かっていたからだ――男は首だけを狙う。


 二人が切り結んだ刹那、ドミニクはヨハンナの仮面が妙な魔力を発したのに気づいた。そして辻斬りは放心したように動かなくなり、彼女の放った突きを防ぐことはできず、心臓を貫かれた。


「やはり大したことのねえ相手だったな」ヨハンナは剣を納めて、言う。「そこら辺の痩せ浮浪人だけを狙ってりゃ良かったんだ、イカれ野郎め」


「今の剣技はあなたのものですか、それとも別の誰かの?」


私の(・・)だ」ドミニクの問いにヨハンナは即答する。「ブライドワースの、この時間は寝てる夜警の騎士の私、その技を少し借りた」


「決め手はしかし、その仮面の力だったようですね」


「良く分かったな? そうだ、こいつは一瞬相手の動きを止める、必殺の魔法具だ。あいつに関しては使うまでもなかったかも知れねえがな、私は油断しねえんだ」


 それから一分もしないうちに、無人だったこの区画に死体漁りたちがまたぞろ集まって来る。そういう、死にたての者を察知する魔術でもあるのだろうか? 彼らは心臓が貫かれていることに不満げだった。


「じゃああんたらの理想とする死体ってのはどんなのだよ? 寿命で死んだやつか? 餓死か?」


「心の臓と脳みそは少なくとも斬り刻んで欲しくはねえなあ」作業を行いながら、死体漁りが答えた。「しかし辻斬りってのもあっけねえもんだ。ヨハンナ、こいつを斬ったのは元締めの指示じゃあねえよな」


「いいや、こいつが襲ってきたから身を守ったまでだ。自警団の奴らにとっちゃ面白くねえだろうがな。ああ、そうだあんたら、この少年が屍術士ギルドを見学してえそうだが?」


「なんだって? 勇者様のくせに屍術に興味があるってのかい? だが屍術士の親方が許すかな? あの人は余所者、いや身内だろうと、作業を邪魔されるのを極端に嫌うからな。今は何やら新作をこしらえてる最中だって話だ。しばらく待った方がいいと思うぜ」


 その新作などより、勇者と対話することができる栄誉を優先すべきだろうに。実に常識的な感覚の欠如した人物だ、もちろんそうでなくば、屍術士などやってられないだろうが。


   ■


 ドミニクは元締めが世話してくれた宿――ヨナタンの部屋と同じか、若干ましくらい――に滞在し、特に何もしない日々を過ごしていた。ある夜、上の階層からの客だと言ってヨハンナが誰かを連れてきた。吸血鬼の冒険者、ブランドンだった。


「どうやってこの場所を突き止めたのですか?」


「ストレイに頼んだのさ、君のにおいを追跡してもらったんだ。もちろんちゃんとお金は支払って、ね。それよりドミニク、戻って来るつもりはないのかい? みんな寂しがってるよ、もちろんオレも戻ってきてほしいし」


 その寂しがっている「みんな」というのは、このどん底にいつ移り住んでもおかしくないような、どうしようもない者たちだ。勇者を彼らが賛美するのはいい、しかし、一方的な助けを求めるなど、厚顔無恥というほかない。英雄の足を引っ張る輩は、彼の敵に等しいのだ。


「結局例の作戦はどうだったのですか?」


 この問いに、ブランドンは顔をしかめた。


「ひどいもんだったよ、来なくて正解だ。あれは虐殺だったよ。定期的に黒犬と憲兵隊は、ああいうのをやりたがるんだよね。いわゆる示威行為ってやつだよ。もちろん勇者なんてのはいなかった、皆マウザーの旦那にぶった切られておしまいさ」


 それは多少見てみたかった。悪党どもが正当なる裁きを受ける光景。世には、野放しにされている悪が多すぎるのだ。


 ドミニクはブランドンが話の途中にも関わらず、ベッドに横たわった。バルトロメアとハーフムーンは、未だにまともに働いていないようだ。もちろんそうだろう。


 ここだけではなく、上でも〈なり損ない〉による暴行事件が発生したらしい。このままでは、目に灰輪の出ている者は嘲笑のみならず、迫害の対象となっていくのではないだろうか。そうなれば彼らはこのどん底に降りてきて、あの男と同じく辻斬りに身を落としかねない。そんなことが続いたら、この場所は再び焼き討ちに合うだろう。だが、その方がいいのかも知れないとドミニクは思った。


 最後にドミニクはブランドンに、ここにはもう来ないほうが良いでしょう、と告げ、彼も頷き、立ち去った。


   ■


 次の日ドミニクが目を覚ますと、室内に見知らぬエルフがいて、煙草をふかしていた。ハーフムーンと出会った時もこうだったが、エルフというのはプライベートな空間というものに無頓着なのだろうか? いや、この二人がそうだってだけだろう。


「あなたは?」


「屍術士ギルドのイーネ。お前が聞きたがっている話をしてやる。何を知りたい?」


 極めて直截的に彼はそう言った。ドミニクは体を起こして、この不愛想な親方への問いかけを開始した。


「死んだ者を蘇らせることはできるのですか?」


「できない、少なくとも俺や他の屍術士には。それは神々の領分だろう。一度霊体が離れると、必ずそいつの人格は破壊される。俺たちがやっているのは、死体を利用して全く新しい存在を生み出す行為だ。誰か生き返らせたい奴がいるのか?」


「いいえ」ドミニクは答える。「死者は死んだままなのが一番でしょう」

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