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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第三章 大都市の冒険者
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第三十九話 矮小なる太陽

 ラヴジョイはこれまでの研究の助けに対し現金での謝礼をくれた。直接的に今の開発に役に立つものではないが、データは蓄積された。もっとも不明な点があまりに多く、精査には長い時間がかかるだろうとのことだった。


 ドミニクは大学を出てうろつき、ここに来た時に使ったのとは別の駅に入った。地下鉄駅だが、その実下水道とほぼ変わりがない雰囲気だ。魔法具の灯りは消えているものも多く、死んでいるのか生きているのかも分からない浮浪者が倒れて微動だにしない。駅員もどことなく無気力で、何事に対しても無関心そうに思えた。


 目的地も決めずに列車に乗り込んで座っていると、次の駅で見覚えのある男が乗ってきた。黒髪の優男、劇場で一緒になった自称勇者だった。


「やあ、また会ったね。奇遇だなあ、こんなところで出くわすなんて」


 ドミニクは隣に腰掛けた彼の顔をじっと見て、


「あなたと同じ手口を使う人を知っていますよ」


「手口だって?」


「その人も偶然を装って、僕の行く先で待ち構えていました。どこぞの諜報員と思われます。あなたもコソコソと探りを入れるタイプの方ですね。僕の正体をご存じで、その力を探るためにやって来たのですね」


「ああ、実はそうなんだよ」男は悪びれることもなく言った。「俺はダミアーノ、〈銀煌の勇者〉ソラーリオのダミアーノだ。よろしくなドミニク・フリードマン君」


「あなたは光を扱う勇者らしいですね。なぜわざわざ、薄暗い場所を拠点とする盗賊どもと組んでいるのですか?」


 ダミアーノはこの質問にも動揺することなく答える。


「なぜ俺の力を知っているのか知らないが、その盗賊と組んでるって奴は俺じゃないよ。それこそ勇者僭称者って奴だ。もっとも、彼らが偽物でなく本物を擁立しようと俺のところへ来ていたなら、協力するのはやぶさかではなかったがね」


「あなたは勇者だというのに、盗人と結託するのに抵抗がないのですか」


「ああ、ないね」ダミアーノは断言する。「審判者はちょいとした盗みくらいは見逃してくれる。もっとも盗みのために、盗賊団と組む必要なんてない。俺はどこにでも行けるし、入り込める。誰にも気づかれずにね。それからもう一つ訂正しておくと、薄暗い地下だろうとどこだろうと、俺の力は衰えたりしないよ。それにしても、君と俺は似た者同士だと思うね、ドミニク」


 そう言われ、ドミニクは眉をひそめた。確かに勇者である点、人間の男であるという点は一致しているが、自分と目の前の〈銀煌〉は基本的な理念が異なる。犯罪に抵抗がない点だ。それでは勇者ではなく、倫理観の欠如したならず者。そのような者に力を与えるなど、那由他の神々の悪ふざけとしか思えない。


「そんな君に、一つ助言と言うか、情報提供をしよう。俺はたぶん君よりも、色々と事情通でね。さっきも言ったが、俺の力を使えばどんな場所にでも行けるし入り込める。君はもう知ってるみたいだけどね」


 聖女ナナから提供されたのは、光に関係している、という漠然とした情報のみだが、ドミニクはさもすべてが明らかであるかのように頷く。


「だから、それでもって評判の北の聖女の顔を拝みに、ちょいとブランガルドまで足を延ばしたのさ。あいつはイカれてるね。とにかく魔物とか穢れ石に対する敵意が尋常じゃない。周囲の被害とかは顧みずに、それらを滅ぼし続けている。彼女もエルフなんだけどあの暴れっぷりは、老鴉にとって頭の痛い話だろうな」


「ならば彼らは、将軍府に対して救援を求めたりはしないのですか?」


「いいや、しないね。あの地にとっての危機は、ブライドワースにとっての好機だ。最悪、大公を討つために将軍府側が挙兵するだろう、まあ現実的には、その混乱に乗じて隠密を送り込むくらいだろうが……もし馬鹿正直に援軍など送っても、あのエルフの聖女には手を付けられないだろう。


 そしていずれは彼女の蛮行は明るみに出る。そうなった暁には、我々の評判も望ましからぬ方向へ変化するんじゃないのかな? 他の勇者も、俺や君みたいな良識派ぞろいってわけじゃないだろうし、それが人々の知るところになれば果たしてどうだ? 皮肉なことだが、世界を救うはずの勇者に対し、世界は敵意を向けるようになるだろう」


 ドミニクはまず、ダミアーノと同一視されることに対して苛立ちを覚え、彼が言うようなならず者勇者たちにも怒りを覚えた。しかし、いくら目障りであっても倒すことはできない。


「彼らにもあなたや僕の魔法具の力は通用せず、仮に殺しても蘇るというわけですね」


「そうさ……完全に殺せるのは〈審判者〉のみだ。ああ、一つ訂正だけど、勇者が持つのはそこいらの魔法具とは違う、こいつは〈神器ディヴァイン・アームズ〉と言うんだ」


 ダミアーノは得意げに、付けていたペンダントを見せた。透明の球体の中に、ごく小さな銀色の光球が入っている。同じ光の球体と言えど、ヘイゼルウィックの騎士スタンのものとは大きく異なる。小さくても太陽のような、秘めたる神の力をドミニクも感じた。


「この〈矮小なる太陽(タイニー・サン)〉があればどれほどの大軍勢であっても、俺に指一本触れられない。他の勇者が大暴れしても、俺はトンズラできるってわけさ。


 あと気になるのは、〈審判者〉の価値基準だな、どこからが有罪なのか? そいつを俺はまず確かめるつもりだ……ことによると北の聖女も、奴らに裁かれることとなるだろう。だがいずれにしても、勇者を擁立した勢力が覇権を握る、などと気楽なことを誰も言っていられなくなる。間違いなく、堕落した勇者は魔物や穢れ以上に、世界にとって大きな脅威になるだろうからな。さらに付け加えるなら……北の聖女と同じく、〈審判者〉が勇者を裁く際に、周囲に配慮する保証なんてのもどこにもないのさ」


 ドミニクを苦々しい感情が包んだ。自分は本来、万人から賛美され、ちやほやされるはずだった。だが、出会うのは目の曇った無礼な人々ばかり。そしてさらに悪しき勇者たちが、自分の地位に泥を塗ろうとしている。一刻も早く〈審判者〉たちが、まだ見ぬろくでもない勇者どもを抹殺してくれるように願うばかりだった。

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