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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第三章 大都市の冒険者
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第三十五話 宵っ張りのブランドン

「今回の件で完全に骨身に染みた! 労働は悪だ、冒険者も悪だ。社会は害毒で満ちている! 俺は正しかった! この脚が動かざるは真正なる拒絶だった! てめえら全員、イカれちまってるぜ!」


 冒険者ギルドへ帰還して、ハーフムーンは絶叫する。周囲の人々は憐憫の眼差しを向ける。ひと際苦々しく凝視するのは、獣人ストレイだった。


「そこなクソガキの仲間だけあって、同等のふざけた思想の持ち主だな。親の顔が見てみたいもんだ」


「僕と彼は仲間ではありません。彼は僕に導かれるためにやって来た信徒です。そしてストレイ、彼の思想がふざけているというなら、この苦悶はどう説明するのですか。あなた方〈害毒主義者〉が言うように労働が害でないのなら、これほどの拒絶反応が出るはずがないではありませんか。答えは一つ、やはり労働は有害であり、あなた達は麻痺しているために彼のごとき悲鳴も絶叫も発さないだけなのです。しかし、その毒は確実にあなた方を、ひいては社会そのものを蝕み、今日の歪んだ醜き世界が出来上がったのではありませんか」


 ストレイはこれを一笑に付した。


「ハッ、妄言は大概にしろ。お前らが虚弱なだけじゃあないか。生きていくために当然必要な仕事すらできないそちらが誤りなのだ。そのエルフも、今の苦痛を堪えて下積みを続ければ、いずれ慣れていく。だが堪え性がないために、そこで放り投げるからさぞクソみたいな人生があるんじゃあないのか?


 ドミニク、お前もだ。本当に勇者だというならば、現在の危機的な状況に抗うため、率先して穢れ石と魔物を討つべき立場だろ、お前は。だのに落伍者の阿呆や〈なり損ない〉の小娘と遊びまわるのみとは、那由他の神々の嘆きはいかほどか。私が勇者であったのなら、既に数えきれないほどの穢れ石を砕いているぞ」


 今回はドミニクが何か反論する前に、獣人ならではの素早さでストレイは建物を出て行った。バルトロメアはあの騎士に続いて新たな憎悪の的が見つかり、またぞろ何か呪詛をぶつぶつと呟いている。


 周囲の冒険者はもちろん、実際に労働する身であるからして、ストレイの言に同調する者が多いようだったが、ドミニクの方を真剣な顔でじっと見ている者も何人かいた。


 もちろんストレイもこの少年も、いささか極端な物言いではあったが、どちらも一理ある。


 大部分の人は、働かなければ生きてはいけない。しかし、理想的な環境で誰もが働けるわけではない。


 近年は特に、増加する穢れと魔物によって騎士も冒険者も多くの被害を被っている。〈間隙〉や都市の外でなくとも、大抵の冒険者は劣悪な環境でのその日暮らしを送り、怪我や病気で働けなくなれば盗賊や物乞いに身を落とさなければならない。


 騎士にしたってそうだ。自らの適合率が低いと知りながら棘を打ち込み、拒絶反応に苦しみ、その挙句に正気を失って暴れた〈なり損ない〉は何もバルトロメアのみではない。


 明日は我が身と思っているからこそ、その場の全員がドミニクやハーフムーンを揶揄しつつ、真っ向から否定することはできなかった。


   ■


 夜になって、三人は苛立ちを隠せずにヨナタンの部屋に戻り、ふて寝を決め込もうとしたところで来訪者があった。見た目はドミニクより少し上の、吸血鬼の少年だった。


「どーも初めましてー。ストレイと口論になったっていう勇者はキミだね」


「いかにも僕が、勇者ドミニクであります。彼女は恐るべき毒に侵された被害者。しかし、今やその毒を振りまく加害者でもあります。してあなたは? 彼女と同じく、僕に対し何か言いたいことでもあるのでしょうか」


 すると相手は笑みを浮かべて、


「いーや、オレはどっちかっていうとキミに賛同する立場だね。最近いろいろと疲れることばっかでさあ、ちょいと休業に入りたい気分だったんだよねー。突然だけどちょっと、オレの話でも聞いてよ、気晴らししねえとマジでヤバいわ」


 ドミニクは頷いた。一方バルトロメアは憎悪を抱え込み、ソファに横たわっている。ハーフムーンは興味深そうに、少年の話を黙って聞くつもりだ。


「まずオレの名前だけど、ブランドンってんだ。主に夜中じゅう動くから〈宵っ張り(ナイトオウル)〉なんて呼ばれるね、夜勤者はオレだけじゃないのになんでそう呼ばれてんのか分かんないけど。


 オレはブライドワースの生まれでさー、昔、先祖がなんか英雄的な活躍をしたとかで貴族になれたんだ。んで両親も親戚もみんな、オレが小さいころからお前は偉大な騎士の子孫だ、とかって言ってくるわけよ」


 ドミニクや、フォージ村のトマスもそうだった。親は誰でも、子に期待をせずにはいられない。しかしそれが裏切られれば――


「そんでオレが棘に適合しねえって分かると、すげえ手のひら返しさ。力のねえ奴は死ねとマジで言うもんだからさあ、オレも頭おかしくなっちゃうよ。親の金に手を付けて〈引き込み屋〉んとこへ行ったんだ。今思うとイカれてるよな」


 〈引き込み屋〉とは、大金と引き換えに相手を吸血鬼にする、非合法の商人だ。それは聖棘以上にリスクのある処置で、失敗して廃人となったり、最悪の場合、その場で灰と化すこともある、とブランドンは説明する。幸い、彼は無事に吸血鬼になれたが、敬虔なダグローラ信徒である両親は、彼に勘当を言い渡した。家督は彼の弟が継ぐこととなり、ブライドワースを追い出されてこの地に流れ着き、冒険者となった。


「今じゃオレも、〈淡黄(ペイルイエロー)〉の星の持ち主さ、大したもんじゃない?」


 黒い星に比べてどれほど上なのか分からなかったが、中堅といったところだろうか。しかしいくら、大した冒険者になったところで、彼の家族は一言たりとも勝算はしないだろう。


「マジで吸血鬼ってひでえもんだよ。昼間はひたすらに体がダルくて、ほとんど死んでるみたいなもんだしさ。マウザーの旦那から〈宝珠〉を奪おうと何回も考えたけど、無理しさー」


「伝承には」ドミニクが口を開く。「日光のみならず、銀であるとか、流れる水、ニンニクも苦手とありますが、真実ですか? 招待されないと他者の家に入れないというのも」


「だいたい嘘だねー、ニンニクとか人ん家は別に平気だし。水は太陽を映すってのがたぶん由来だろうけど、夜なら別にどうってことないよ。銀は確かにだめだね、特に聖別されたのは太陽と同じだよ」


「人の血を飲まないというのも? マウザー氏は、到底飲めたものではないと言っていました、魔物の血を飲むのだと」


「うん、それは本当だよ。オレは人の血は飲んだことないけど、魔物の血は飲んでると、マジで生きてるって気がするね。これは説明できねえなあ、あんたたちも吸血鬼になってみれば、分かるよ。ならねえほうがいいけどね、絶対。まあでも、たまに人の血が好きっていう変態が現れるんだ。そういうときは、オレたち同族が始末をつける決まりになってる。人の血をある程度飲むと、臭いでわかるんだ、臭くてしかたないのさ」


 悪魔狩りが、悪魔の位置を探知できるようなものだろうか。


「たぶんそうだね、ああ、ちなみに悪魔の血はオレたちでも飲めないよ、狩人さんたちのもね。あれは穢れが強すぎてハラ下すどころじゃないからさ」

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