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SONG OF MIRABELIA/宿り木の勇者  作者: 澁谷晴
第一章 芽吹き
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第三話 建国神話

 ヘイゼルウィックの巨大な門にまで到達するとオーマは、領主(お館様)騎士団長(お頭)に報告すると言って足早に街の中へ入って行った。フィリップとドミニクも門衛の前へ歩み出た。

 

「フィリップか、ご苦労だったな」顔なじみらしい、赤毛の騎士が言った。「出るときはいなかったが、そっちの少年は何者だ?」


「実家を勘当されて放浪してるっていうやつだ。ひとまずギルドへ連れて行く」


「下働きでもさせようっていうのか?」


 騎士がそう言うと、即座にドミニクは「するはずがありません」と断言したがフィリップは無視して、


「身分はオレが保証する。中に入れてもらえるか?」


「ああ、一応調べてからな……」


 門衛は魔術でドミニクを調べた。体自体からは危険な力も感じない。食料だという金色の林檎から強めの魔力を検出したが、危険性はないようだったし、腰の木剣はわずかに魔力を帯びているようだったが、ごく弱いものだったので、通行を許可した。


 街の中に入ると、その階層は商業地区のようで、数々の露天が並ぶ市場だった。人通りも多く、品物も豊富だ。主要な街道は聖石沿いに伸びており、瘴気と魔物の増している昨今でもまだ物流は途絶えてはいない。もちろん穢れ石が増え、魔物が街道にまで出没する地域もあるので、定期的にオーマとフィリップのような騎士や冒険者が調査を行わなくてはならなかった。


 市場のところどころには吹き抜けがあり、いくつもの階層をぶち抜いてずっと上方に空が見えた。いくつかの店舗の主がフィリップに対し挨拶をする。彼は笑顔で返事をして、市場の奥へ向かって行く。


 やがてフィリップは湯屋の角を曲がり、低い天井の路地に入り込んだ。昼間でも薄暗く、ところどころに魔法具の街灯があって、周囲をぼんやりと照らしている。

 しばし進み、崩落したのか誰かが開けたのか、市場の吹き抜けに比べればごく小さな穴が穿たれ、陽光が降り注ぐ場所に出た。光の下に、蔦に覆われた石造りの建物があった。〈冒険者ギルド・ヘイゼルウィック凪小路(カームアリー)支部〉との看板が出ている。


「ようやっと到着だぜ、報告を済ませて来る間、なんか飲み物でも飲んでな」


 ドアを開けながらフィリップはそう言い、ドミニクにフレイム硬貨を渡した。


 ギルド内は古めかしい酒場のような雰囲気だ。正午に近い時刻なので、食事をしている者もいる。ドミニクはカウンター席に腰掛けて、店員のベンシック――トカゲの亜人種族――の大柄な男にコインを渡し、紅茶を注文した。


「あんた見ない顔だね、フィリップの連れみたいだが、さては冒険者志望だね」


 店員にそう言われ、ドミニクは「いいえ」とだけ短く答えた。


「そうかい、まあ正解だね。冒険者なんざ危険だしな。(おい)らみたいに、街の中に篭ってるほうが安全ってものだ」


「まったくその通りです」ドミニクはそう答え、出されたカップに大量の砂糖を投入し始めた。


 甘ったるい紅茶を飲みながら、カウンターの木目をじっと見ているうちにフィリップが戻ってきて、隣に腰掛けた。


「チェイス、酒くれ。ふー、まったく参るぜ。穢れ石がここいらでも増えてきやがった。こっから先少しばかり忙しくなっちまうかもな」


「街道の方には影響なさそうかい?」金を受け取りながらチェイスと呼ばれたベンシックが聞いた。


「今んとこはな、ただ連鎖がなきゃいいが、北のほうで今月に入って二つも新しいのが見つかった。化け物の大群とダンスを踊るはめになっちまうのはご免だからよ。騎士様にまた大勢出張(では)ってもらわなきゃな、ダルトンの旦那頼みだな」


「まったくどうなっちまうのかねえ。ああ、そういやこの子はどうしたんだい?」


「こいつは拾いもんさ、聞いて驚くなよ、なんとあの勇者アウルスの再来なのさ」


「アウルス? 確か聖女様の子分だかだったかな」


「そうだ、ドミニク、お前もミラベル様の伝説くらいは知ってるだろ?」


 聞かれて、木目に集中していた彼はしばらくしてから顔を上げ、答える。


「ええ、地元のミートパイ早食い大会で二十皿も平らげた伝説については記憶に新しいところです。ときに、どうして僕の姉についてご存知なのですか?」


「あー……お前さんの姉貴もミラベルってのかい、いいや、そのお姉さんじゃねえんだ、その由来になった人さ」


「僕の曾祖母がどうかしたのですか?」


「その人も違う、そのさらに由来となった……ミラベル・ラファン様だよ、まさか知らないってのかい?」


 ドミニクは無言で頷く。


「うーん、そうか。まあお前さんはあんまり歴史とかに興味ねえかもしれないな。じゃあ説明してやるが、ドミニク、ここに来る間の街をどう思った? っていうかこの街の外もだが、どこまでも並んでるばかでかい建物とか、わけのわからねえグニャグニャの路地とか大穴とか、でたらめだ、って感じに思ったことはねえか? お前の故郷もたぶんそうだったと思うが」


 再び頷く。


「そうだろ? それもそのはず、こいつぁ人族がこしらえたもんじゃねえのさ、お前さんも迷宮については知ってるだろ? 洞窟とか地下道とかが、勝手に現れて、ときには形を変える。オレたちの住んでる世界(ミラベリア)自体が、でかい迷宮に覆われてるってわけさ。


 そうしちまったのは、旧文明――何千年も前のやつらなんだ。そいつらは国取り合戦をずっと続けた挙句、国自体を武器にしちまったのさ。どうやったのかは分からねえが、どこまでも増殖する迷宮を作り出し、制御し、喰らい合わせた――いいや、制御したつもりになっちまってたんだ。


 だけどやがてコントロールが利かなくなり、迷宮は野放図に成長を続け、おまけに瘴気が満ちて魔物が溢れ出した。教会はそいつが、邪神のしかけたワナだって言ってるな、人間の欲を利用して世界をぶっ壊そうとしたんだってな。


 だがそこでミラベル様が現れた。彼女は太陽神の加護によって奇跡を起こし、世界中から瘴気と魔物を消し、人々を守るための聖石を作り出した。そのミラベル様の側近が、お前と同じ〈宿り木〉を持つアウルス・アンバーメインさ。アウルスとか他の仲間についてまでは知らねえやつも多かろうが、聖ミラベルの伝説については学び舎で習わなかったか? 一応建国神話ってやつなんだけど」


「ああ、学び舎にいる間は、そのようなことを聞いたのかも知れません。しかし、それらの記憶はこう、穴の開いたコップに水を注ぐように流れ出てしまいました、既に」


 フィリップは怪訝な顔になって、「お前さんはもしかして、何か病気なのか?」


「いいえ、僕は健康で正常です。これ以上にないくらいに」少年は木目を再び凝視しながら、堂々と答えた。

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