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最終話 しあわせエニロエ

最終話です。

 ワジュさんが語ったのは衝撃的な事実だった。というか、衝撃的な事実らしいと、ダムさんの表情を見て推測する。


「トーアが、魔女の子ども……それ、本当?」

「はあ、そうだよ。あーこれ言ったらダメって言われてたんだけどなあ……ノイルに怒られちゃう……」


 泣き顔のワジュさんもなかなか良いのだけど、今はそういうことを言っていい雰囲気ではないから黙って聞いておこう。

 魔女の子ども、というのが一体どれだけの意味を孕んでいるんだろう。そりゃ、ワジュさんのお食事シーンを見たから魔女の凄まじさは分かっているんだけど。


「ポカンとしてるねお嬢ちゃん」

「魔女は、神の加護を失ってるから、子どもは生まれない……はずなんだけど……」


 ダムさんの声が小さくなる。常識が覆ってしまった、という戸惑いを感じる。それほどのことなのか。門外漢だからよく分からない。

 その様子を見たワジュさんが、横から、


「加護が無い分は自分でなんとかしてるからね。それでもノイルに子どもができた時はビックリしたけど」

「あれ、ワジュさん躊躇ってた割には話しますね」

「あはは、もう怒られるのが決まってるんなら、いろいろ言っちゃおうと思ってね。それにノイルが怒ってるのもいつもの事だからさ」


 そう言って、吹っ切れたように笑う。目の端には涙が湛えられているけれど。

 ノイル、という人はトーアのお母さんである魔女なのか。トーアと同じで美人なのかな、なんて考えてしまう。ダメだダメだ、愛する人の母親まで手を出したら終わりなんだよ。


「あ、あのっ、私の記憶喪失前にどんなことがあったんですか?」


 今まで黙って聞いていたトーアが、尋ねた。そうだ、一番知りたいのはそこだった。


「別に、大したことはないよ? まあ、魔女に囲まれて育っちゃうとさ、真っ当な人生は歩めないだろうからね。ノイルがトゥシムに記憶を奪ってもらって、遠いところに置いてったんだよ。私はそこまでしか知らないけど、楽しくやってるようで嬉しいよ」

「…………そっか。はい、最近は、楽しいです」

「はは、ノイルにも見せてやりたいけど、ノイルが今のトーアを見たら泣いちゃうだろうなあ」


 最近は、か。それって私たちとのことも含まれている、よね? 出会ってまだ数日だけど、こんな瞬間にも立ち会ったり、関係はそれなりに深まってるとは思ってる。


「そういえば、トーアに魔力が無い理由ってなんなんですか?」

「え? 無いの? ごめん、それは知らないや」


 そ、そうかあ、今日で全部答え合わせできると思ってたんだけど……。


「ありがとうございます、ワジュさん。私が何者か、分かって良かったです」

「あはは、お役に立てたなら結構さ。君は小さい頃から知ってたからね、愛着もあるんだ。さて、そろそろノイルの雷を喰らいに帰ろうかな……」

「あ、最後に」


 あのアースを眷族して、何をしようとしていたのか、尋ねてみた。あれは結構な危機だったから、聞いておいた方がいいだろう。


「ああ、あれはね、眷族ちゃんにご飯をいっぱい食べさせて、肥えたところを私が食べようと思ったんだよ。まあ、その前に死んじゃったけどね」

「それは、何の為ですか?」

「何の為って、お腹が空くからさ。本当は、天上に住む神獣を食べたいんだけど、なかなか上手くいかなくって。じゃ、行くね」


 ワジュさんは、当たり前のように言って、赤い雷と共に去っていった。

 魔女って、凄いな。


 ○


 それから、しばらく経った。

 アース討伐とワジュさんとの出会い、あれ以上にインパクトのある出来事は……幾つかあった。他の魔女にも、特にノイルさんに出会ったのは、記憶に新しい。

 トーアについても、いろいろ分かった。ノイルさんが作ったホムンクルスだったっていうのは、かなり驚いた。でも、だからといってトーアがトーアじゃなくなるなんてこともなく、今を楽しく生きている。その様子に、私も癒されている。そんな毎日だ。


「エニロエ、クエスト行かないの?」

「だってもう冬だよ? 外は寒いもん」


 同居生活も続いている。一線だけは越えていないけど、距離は大分縮まった。


「エニロエー! ファトゥスさんから呼び出されてるわよー!」

「ほら、ネウクが来てくれたよ」

「呼び出しなら余計に行きたくないな〜……はあ」


 私は渋々立ち上がり、ショートソードを携えて、外に出る。トーアも真っ黒の鎧姿になってついてくる。


「今日も頑張りますか」

「うん。そうだね」

「また怠け癖ついてるじゃない」


 女の子に囲まれる生活ではないけれど、


「私って幸せもんだよね」

「? どうしたの?」

「いや、別に」


 こんな毎日がずっと続けば、それでいい。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

唐突ですが、ここで最終話とさせていただきます。

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