もぐもぐワジュ
「おぉい……死んでんじゃんか私の眷族ちゃんが……」
頭上から聞こえたその声は、信じられないという風だった。……って頭上?
疑問に思い見上げてみれば、そこには、真っ黒の雲が浮かんでいた。晴れ渡った空にポツンとそれだけ。まるで群れからはぐれたみたいに。
「いや、ええ……? 嘘でしょ……?」
そんな声と共に、砂の上に赤い雷が落ちた。私たちはその閃光に目を眩ませる。
次に目を開けた時には、雷が落ちた地点に、一人の女性が立っていた。黒ずんだ衣服はどこか禍々しさを覚えあっ胸元凄い開いてる! ヒュー!
「あの人、なんだか懐かしい感じがする」
「え?」
トーアが呟く。あのセクシーさんがトーアの知り合い? だとしたら、トーアの過去を知ってるかもしれないってこと? なら、
「すみませーん!」
「ん? な、なんだいお嬢ちゃん」
声を掛けるしかないだろう。
そして、近づいてみて分かったんだけどこの人、凄い可愛い。顔には困惑の表情を浮かべているけれど、笑顔であればもっと可愛いはずだ。私に応える声の調子も快活な印象を受ける。
「私は今眷族ちゃんが気になるから、後でいいかな?」
「眷族ちゃん? ……ってなんのことですか?」
「ああそれは、ほら、あのドラゴンだよ。……死んじゃったけどね」
セクシーさんが指差すその先には、アースの死体があった。あれが眷族? どういうこと?
「あなた、魔女でしょう?」
いつの間にか、ダムさんが近づいてきていて、そう言った。
「よく分かったね。私は【暴食】のワジュだよ」
「やっぱり……同じ魔力を感じる」
「ダムさん、魔女ってどういうことですか?」
私が知る魔女というものは、お伽噺に出てくる悪い魔法使いだ。神に歯向かい、人々を陥れる、それこそドラゴン級のモンスターのように描かれることもある、そんな存在。
目の前の、ワジュと名乗る彼女がそんな極悪人には見えない。なんならこの中で一番まともに思える。
「じゃあ私は眷族ちゃんの様子見てくるね」
「トーアの剣には、【暴食】の魔法が、掛けられていた。間違いなく……彼女はトーアの関係者」
「ね、ねえ? 話聞いてる?」
「やっぱり、そうなんですね……」
「おーい?」
どんな素性があろうとも彼女であれば、トーアの過去が分かるだろう。
「ワジュさん。トーアの、トーアのこと教えていただけませんか、知ってるんですよね」
「全然人の話聞かないね君たち……って、トーア?」
トーアの名前を聞いて、ワジュさんは首を傾げた。やはりそうだ、知っているんだ。
ワジュさんは辺りを見渡して、トーアを見つけると、目を見開いた。
「あ、あー知らないなー、トーアなんて子は。ごめんねー、力になれなくて」
「嘘が下手!」
やっぱりこの人いい人だ!
で、そんな彼女が隠し事をするってことは、何かしらの事情があるんだろう。
「わ、私は眷族ちゃん見てこないとだからー! じゃねっ!」
「あっ、待って!」
ワジュさんがアースの下まで走るのを追いかける。
アースの死体の側まで来ると、ワジュさんは、
「はあ、死んじゃったかあ。せっかく眷族にしたのに……まだ全然脂も乗ってないし、食べ頃には程遠いや。でも――」
そんなことを、口から溢すように言って、あんぐりと口を開けた。え?
ボリボリ。
ムシャムシャ。
そんな音を立てながら、アースを食べ始めた。一噛みで、あの光線の何倍もの範囲を削り取り、胃袋にしまう。
そんな馬鹿げた光景が、数分間目の前で繰り広げられた。そして、
「ふう、不味くはなかったけど、そんなにかな」
ワジュさんはそんな感想を述べた。
【暴食】のワジュ、そんな異名が付くのも頷ける。あのアースの堅牢であり巨大な体を、いとも簡単に完食したのだ。魔女、というのも強ち嘘ではないんじゃないかと思える。
「それで、何の用だったかな」
横目でこちらを見るワジュさんは、口元に付いた血をペロリと舐め取った。
「だからトーアのことを教えてほしいんですよ」
「物怖じしないね君は! なんなのさ!」
だってあなたはいい人でしょう、そこは変わりないと思います。
はあ、と呆れた様子でワジュさんは肩を竦めた。
「いいよ、ちょっとだけなら教えてあげるよ」
「はい! ありがとうございます! トーアのこと、いろいろ気になってて」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだからね?」
ようやくトーアの過去が分かりそうだ。




