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がんばれトーア

「うりゃあっ!」


 トーアの一撃が告げた決戦の開幕。

 吹き飛ばされた冒険者もいるが、幸い死者や重傷者は出なかった。最初はアースのその様相に腰を抜かした者も、トーアの勇姿に励まされたのか兵器で応戦している。


 何十台も設置された大砲や弩は、遠距離攻撃に補正の入るスキルを持った弓師などが使っている。その弾の嵐は、ワイバーンでさえも一瞬でミンチにしてしまうであろう威力が込められている、はずだ。

 だというのに、アースは身動(みじろ)ぎ一つでそれらを容易く叩き落とす。

 ならばと今度は魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。比較的柔らかそうな腹部目掛けて、様々な属性の魔法が飛んでいく。しかしそのどれもが表面を軽く撫でつけただけ。一瞬で散ってしまう。


「これ効いてるの!?」

「でもやらないよりマシでしょ!」


 私たちは弾の補填をしているけれど、この巨体に通用している気がしない。

 対巨龍用の兵器はまだ準備に時間が掛かるとかで使えないし、今のところアースに対応できているのはトーアだけと言っていい。そしてそのトーアも、だいぶ苦戦している。……あの、トーアでさえだ。


「やあぁっ!」


 トーアの大剣はその堅牢な甲殻に阻まれ、その下の体に届かない。腹を狙ったとしても手で払われてしまうから、トーアは真正面からアースとぶつかり合っていた。そんなことが可能なのはあの子だけだ。彼女に託すしかない。


「アースとまともに戦える……やっぱり」


 ダムさんが神妙な面持ちで呟いた。


「ダムさん逃げた方がいいですよ! 危ないです!」

「大丈夫、退き時はわきまえあっ目に砂が……」


 うーんと目を擦るダムさんはやはりマイペースだった。

 しかしアースがトーアの攻撃に反応して暴れる為に、辺りは砂が舞い上がり視界が悪い。大砲も弩も勢いを失っている。

 状況は悪化していく。そんな中、


「皆さーん!」


 ファトゥスさんの声が響いた。恐らく拡声のマジックアイテムを使っているのだろう。


「対巨龍用魔導大砲の準備が整いました! こちらまで退いてくださーい!」


 三階建ての建物くらいの大きさはあるその砲身が、淡い赤色の光を帯びている。魔導大砲というからにはやはり魔力で動くのはず、あの光は多分、魔力が貯まったことを示すのだろう。

 私たちは防護壁の後ろにある巨砲へ、スタコラと向かった。やった、これで勝てる!


「皆さん揃いましたね。では、起動します!」


 ファトゥスさんがレバーを倒すと、砲身が倒れ、


 ――ゴオオオォォォッ!!!


 と、アースの咆哮に匹敵する轟音と共に、煌めく光線が放たれる。射線上にある防護壁なんかを容易く吹き飛ばし、光線はアース目掛けて飛んでいく。

 そして、その光線はアースに当たっても散ることなく、甲殻を削る。そしてついに、アースを後退させた――後退させ、光線は止まった。


「…………え?」


 光線が止み、砲身の向く先には、頭から僅かに血を流すアースがいた。絶命には程遠い。

 砲身は、自らが放った破壊力に耐えられなかったのか、崩壊する。二発目はもう望めない。

 その光景を目の当たりにした冒険者は、絶望の表情を浮かべていた。


「……はああぁっ!」


 駆け出したのはトーアだった。この状況において唯一希望を無くしていないのはトーアだけだ。

 アースの頭上まで飛び上がり、血に塗れた頭部目掛けて剣を振り下ろす。そしてやはりそれは、大したダメージを与えない。それでも諦めることなく、トーアは剣を振るう。


「トーアあああ! がんばれええええ!!」


 叫ぶことしかできなかった。

 私の叫びは伝搬し、いつしか冒険者全員の声援に変わっていた。それに応えるように、トーアの剣がアースの甲殻を砕く。

 一撃目よりも二撃目が、二撃目よりも三撃目が、アースを破壊していく。そしてついに、


「――――……!!」


 アースの断末魔が砂漠に響いた。

 その巨体が傾き、血で濡れた砂地に倒れる。圧倒的な力を持ったドラゴンを、討ち取ったのだ。

 アースの咆哮が響いていた砂漠は、冒険者の歓声で包まれていた。


 私はトーアのもとまでとにかく走った。


「トーアあああぁぁ()ったあい!!」

「うん、鎧だからね」


 勢い余って飛びついてしまった。涙が溢れる、もちろんそれは痛みからじゃない。


「トーア、無事で良かった……」

「大丈夫、怪我は無いよ」

「すご……」


 ホッとした。想像以上に無事だったのは驚いたけど、安心した。

 一息ついた私は、気付かなかった。新たな脅威が迫っていたことを。

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