だらだらエニロエ
「いやー、人がいっぱいだね」
「そりゃそうでしょ。なんせドラゴンが出るんだもの、ギルドも本気よ」
バーデイクの砂漠には冒険者が集っていた。マウマス、アイルート、バーデイク、それと王都から派遣された冒険者たちだ。相当の人数がいる。
「はあ……ドラゴン退治って聞いたときはどうなることかと思ったわよ」
「ねー」
「いや、ねーじゃなくて……」
ギルドから発表されたドラゴン討伐の緊急クエスト、それを聞いたときのネウクは泣きそうになっていた。
今ではレオンハートのリーダーとしてキビキビ働いてるけど。
「エニロエもちゃんと働きなさいよ、その場に居合わせたんでしょ」
「はーい。でもトーアと離れ離れだからやる気出ないなあ」
「仕方ないでしょ、あの子は力持ちなんだから」
トーアは主に兵器の搬入と設置を担当していた。ダムさんが予測したドラゴンの出現位置に、王都から送られてきた魔法兵器を運び込み設置する作業。普通は馬車でも使って運ぶような巨大な大砲なんかも片手で持ち上げるから、大助かりなのだ。
さすがにあれを手伝うのは無理だから、今日は別行動である。ちぇっ。
「だいたいこんな壁を作ったってドラゴン相手じゃ通用しないよ」
私含め多くの冒険者は、大砲や弩を設置するための土台や簡素な防護壁を築く仕事を担っていた。砂地の上での建築だけど、魔法で固めるなどしてなんとか形にはなってきている。といっても相手がドラゴンとなれば気休めにしかならないと思う。
「気が休まるだけマシじゃない。ドラゴンに身一つで挑むとかなら私だって逃げ出してるわよ」
「そりゃあそうだけどさ」
結局のところ、単純にやる気が出ないんだ。この作業がただの気休めなんだと思えば尚更に空しくなってくる。それに、これだけの冒険者がいれば、私一人サボったくらいで大した影響はないだろうし。
そういえば、働きアリの何割かは仕事をしないと聞いたことがある。それだ。私は働かない何割かなんだ。
そもそもの私はそういうタイプだった。クエストにも行かずギルドで酒を飲み、美女美少女を求めて街をフラつく、それが私だったろうに。
トーアの前では格好つけていたけれど、そうじゃない今ではダラけてしまうのも然もありなん。適材適所というのなら、私は怠けるのが適所なんだ。
自嘲気味に笑っていると、トーアと目が合った。
トーアは兜のバイザーを開け、笑顔で手を振ってくれた。……さて、もう一仕事しますか。
「あんた、分かりやすいわね……」
「うるさいよ。それにネウクだって私と話してるじゃない。サボるのは良くないよ」
「どの口が言うのよ。それに私はちゃんと仕事してるわ」
「えー? そうだっけ?」
「もうっ、言ったでしょ。私は皆に支援魔法を掛けてるの。さっ、あんたも早く仕事に戻りなさい」
呆れ顔のネウクと別れ、私は壁造りの作業に戻った。
それから数時間後、気休め壁がある程度完成し、大砲や弩の設置が完了した。人海戦術とは恐ろしいものである。
ふぅ、と一息つくと、地面が揺れ始めた。地震? 皆はせっかく完成した壁を崩してなるものかと、魔法なり自分の体なりで押さえつけている。
「そろそろ、来る……」
ダムさんが呟くと同時、
「――――!!」
地の底から響くような咆哮と共に、砂の大地を割り、それが姿を現した。
巻き上げられた砂が晴れ、まず目を疑ったのが、山の如きその巨体。そして、赤褐色の、様々な鉱石を纏った甲殻は、陽の光を受けて輝いていた。その様子はまるで霊峰だ。
白い腹と巨木のような二本の腕で体を支えるその姿は、ドラゴンというよりは鯨に似ていた。そして、頭には天蓋を突き破る角が生えている。
「穿龍アース……史上最大のドラゴン」
ダムさんだけは冷静にそう述べた。
冒険者たちは悲鳴を上げ、足を震わせ、地べたに座り込む。私はもう、どうにも馬鹿げているように思えて、変な笑いが出た。
トーアさえ僅かにたぢろぐくらいだ。やはりドラゴンというのは恐ろしい。
「ドラゴンさん! 話をしましょう!」
たぢろぎながらも、トーアは話し合おうとしていた。私が「人の言葉が分かる」と教えたからだろう。
そんなトーアに、ダムさんが、
「アースは、人語を解さない。魔法も使わない……知能は、獣と同じ」
「うりゃあっ!」
トーアが剣を構えて飛び掛かり、とうとう決戦の幕が開けた。




