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もえるファトゥス

 ドラゴン。それはモンスターの長であり、生ける災害とも言っていいほどの存在だ。

 存在が確認されたら国が動くような、そんな化け物なのだ。ワイバーンもドラゴンの仲間ではあるが、全く比べ物にならない。


「ドラゴン……って、事実なら、おっ、王都に報告しないと!」

「うん、それがいいと思う……でも」


 ダムさんは、一拍置いて、


「この鱗を見ての通り、このドラゴンは巨大。王都の冒険者でも……多分敵わない。それなりの兵器を要請した方がいい」

「は、はいっ! 了解ですっ!」


 ファトゥスさんはバタバタと連絡用マジックアイテムの下に向かった。

 これは本格的に一大事だと、ようやく皆が理解し始めて周りがざわつく。もちろん私だってこんな時に楽観的なことを言ってる余裕はない。

 場所は遠く離れているとはいえ、ドラゴンからすれば大した距離じゃないかもしれない。なんならもうこのマウマスに向かって来ているかもしれない、早く逃げたい!


「お、落ち着いてエニロエ」

「落ち着いちゃいられないよこんな時に! というかトーアはなんでそんなに落ち着てる怖くないの!?」

「だ、だって私、ドラゴン知らないし……」


 そっか、トーアは記憶喪失なんだった。ドラゴンのことも知らないとは思わなかったけど……なら仕方ないよね。

 状況が分からずわたわたするトーアを見ていると、私も落ち着いてきた。トーアはどうにも私を癒すのだ。


「ドラゴンって、そんな強いの?」

「もちろんだよ。ドラゴンは頭もいいから魔法を使ったりもするの。人の言葉を話せるのもいるって言うし」

「話し合いで解決は、できないのかな」

「うーん、聞いたことないや」


 トーアの可愛いらしい提案に、思わずクスリと笑ってしまう。とてもワイバーンの頭を鉄拳粉砕した人間とは思えない。あの容赦の無さはどうしたんだろう。


「でもこれ、ネウクに話したらなんて言うかな。全ッ然杞憂ではなかったわけだけど」

「ふふ、びっくりするだろうね」


 場違いだとは思うけど、私たちの間には穏やかな空気が流れていた。さっきまでの絶望的な気分もどこへやらだ。

 ……と言っても別に状況が好転したわけではない。王都への連絡を終えたファトゥスさんがドタバタと戻ってきた。


「王都から、一流の冒険者が派遣されるそうです! それと対巨龍兵器も送ってくれるみたいです! あとはこっちに全部任せるとも言っていました!」

「丸投げ!」

「そうです!」


 そうです! じゃないんですよファトゥスさん!

 聞けば、王都の方でもドラゴンの対策は定まってないらしく、送られてくるという兵器もまだ試作段階だという。早速暗雲立ち込める状況だ。どうしよう、逃げた方がいいよねこれ。

 じゃあ荷造りするんで帰ります。そう言おうとしたその時だった。


「なら、頑張らないと、いけませんね」

「トーアさん……はい! まだ諦めるにはしてないことが沢山ありますもんね!」


 トーアの言葉が、周りにいたギルドスタッフたちに希望を持たせた。皆やる気満々、この町のために尽くそうという気持ちが見て取れる。

 ……わ、私はここで「逃げま~す」などと言える人間ではないのだけど。私もその無謀に協力しないといけない空気が出来上がっていた。た、退路が……!


「頑張らないとね、エニロエ」

「う、うん。そうだね……」


 トーアの笑顔は眩しかったけれど、この時ばかりは……いや、トーアはこれでいい。私だって希望を持とうか、流されようか。

 私だってこの町に思い入れがないわけではない。実家も有るし、ギルドにも冒険者たちと飲み交わした思い出がある。……それに、そもそも引っ越しできる程のお金がない。なんとしてでも街を守らなくては。


「アイルートとバーデイクの冒険者にも手伝ってもらいます。ダムさんもドラゴンの調査、手伝っていただけますか?」

「うん、元々このドラゴンは調べるつもりだった。それに、店を捨てて逃げる程……お財布に余裕はない」


 変なところでダムさんと意見が一致した。でもダムさんが協力してくれるのなら、僅かに希望が持てる気もする。

 まだドラゴンの詳細も分からないけれど、ちょっとずつやることが分かってきた。


「皆さん! マウマスを守りますよ! ドラゴンなんかには負けません!」


 スタッフルームが熱気に包まれた。

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