わくわくダムさん
「禍々しいってどういうことですか?」
私はダムさんに尋ねる。
あの剣と同じ匂いとも言っていた。私、何かの鍵を握っちゃってる?
「あなたから匂ってる、わけじゃない……匂いの元から匂いが移ってるだけ。何か、心当たりは?」
と、言われましても……。その匂いっていうのが分からないからなあ。臭いものには心当たりがないけれど。最近は酒臭いってこともないくらいなのに。
何かそれらしいものがないかとうんうんと唸っていると、店の奥から驚いた顔のままのネウクが戻ってきた。まさに啞然という顔をしている。
「エニロエ、なんなのよあの剣……。これっぽっちも持ち上がらないんだけど……」
「まあ、そうだよね」
「あれ……あなたも」
フラ~っとネウクに近寄ったダムさんは、私の時と同じようにスンスンと匂いを嗅ぎ始めた。
「なっ、どうしたのよ、そういうのはエニロエしなさいよっ!」
「あなたからも、エニロエと同じ匂いがする……あなたたち、何か共通するものとずっと一緒にいなかった?」
共通するもの……となると、そう多くはないはずだ。トーアや馬車、あとはあの大岩くらいか。
ダムさんによれば、トーアはいつもの鎧の匂いが強く私たちから匂うものとは違うらしい。それと馬車も候補からは外れるだろう。だって禍々しくないもん、ギルドが出してる普通の馬車だもん。となると……。
「あの岩かしら」
「岩……?」
「ええ、私たち三人で砂漠の調査に行ってきたんだけどね、そこで変な岩を拾ったのよ。もうギルドに渡しちゃったけどね。ずっと一緒だったのは、それくらいのはずよ。それが、あの剣と何か関係あるっていうの?」
「そう、じゃあギルドに行けばいいかな」
ネウクの問いかけも聞かずに、またもやフラ~っと、ダムさんは店を後にしてしまった。……あれ、ちょっと待って? もしかして、あの岩を調べに行くつもりなの!?
しかも鍵掛けてない! 自由が過ぎるよダムさん! 追いかけようにもお店をこのままにしておくわけにもいかないし、ネウクを店番にして追いかける。
「ぜえ……ぜえ……」
「ってもう息切れてるんですか!?」
「研究者、だからね……トーア、私を運んでくれない?」
「わ、わかりました。……よいしょっと」
トーアは少しふらつきながらもダムさんを背負って、えっほえっほとギルドに向かって歩いていく。やはり自分の過去に関することには一層真剣になるみたいだ。そりゃそうか。
そしてダムさんも真剣……というよりは純粋な好奇心であの岩を調べたがっているようで、目を輝かせながら「はやくはやく」とトーアを急かす姿はやんちゃ盛りの子どもみたいだ。
「研究材料は鮮度が命……腐る前に、はやく!」
「は、はいっ!」
「岩の鮮度って何!?」
私がつっこんでいる間にもギルドが近づいてくる。そして、ダムさんはギルドの前で止まるように言った。
たどたどしくトーアの背中から降りたダムさんは、「ありがとう」と言ったかと思えばすぐにギルドへ入っていく。好奇心に突き動かされているダムさんはやけに楽しそうだ。
「ちょっ、ちょっとダムさん! ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
「私にそんなことは関係ない、私はこの奥に用がイタいイタいイタい、キマってるからそれ……うぐ」
追いかけるようにしてギルドに入ると、ファトゥスさんがダムさんを〆ていた。
慌てた様子でダムさんを締め上げるファトゥスさん、青ざめた顔でくたっとしているダムさん……とんでもないものを見せられている気がする。
「ファトゥスさんストップストップ! ダムさん死んじゃいますから!」
「はっ! いけない私ったら……」
「はあ、はあ……生きてる」
それから事情を説明して、なんとか岩を調べる許可をもらった。ダムさんは時折ギルドから調査の協力を依頼されるも、つまらないものだと断ってしまうらしい。今回のように自ら手伝ってくれるのなら有り難いと、ファトゥスさんは苦笑いしていた。
「うん……うん……これは……」
「何か分かりそうですか?」
子どもの様だった瞳は一人の研究者としての真剣なものに変わり、道具や魔法を駆使しながら何かを探っていく。トーアの目にも緊張が見てとれた。
「ダメ……これだけじゃ足りない。本体を、調べないと」
「本体……? も、もしかしてダムさん、この岩が何かのモンスターの一部だというのですか?」
ファトゥスさんが訊くと、
「うん、ドラゴンのね」
何でもないようにそう答えた。




