だめだめエニロエ
「ハーレムが欲しい!」
ダン!
とジョッキがテーブルを叩く音がギルドに響き渡る。周りの冒険者の視線が私に注がれているようだけど、知ったこっちゃない。
ジョッキの中のエールを呷る。んあ"あぁ、飲まなきゃやってらんない!
「そのへんにしておいた方が……」
美人ギルド職員のファトゥスさんが、宥めるように言った。
「やだ! もう一杯!」
「お金はあるんですか?」
「……ツケといて」
「はあ……」
うぅ……。なんで私がこんな生活を……。
冒険者を始めた頃は、もうモンスターをばったばったと倒すことを夢見ながらエールを飲んで、ヒッポグリフレースに負けてはエールを飲んで、可愛い娘がいれば一緒にエールを飲んで……今と何も変わらないじゃない!
涙を拭い、運ばれてきたエールに手を伸ばすと、
「これを飲みたいなら、一つ条件があります」
「そんなの知らないもん! 飲ませろー!」
「エニロエさんの為に言ってるんですよ! エニロエさんが冒険者になって一か月、何回クエストに行きましたか!」
「ぐぬ……よ、四回……」
「しかも全部日帰りで! ……そろそろちゃんと働ていただかないと、ツケも払ってもらえないですし」
ちくしょ~、ぐぅの音も出ないぃ……!
「ですから、こちらでクエストを指定します。比較的簡単なクエストを用意しますので、明日からそちらに向かってください」
「はいぃ……」
「ではこれが最後の一杯だと思って、大事に飲んでください」
「うおぉ……暫しの別れ……」
ファトゥスさんの優しさ、しっかり受け止めんにゃ女が廃るってもんよ。……ああ、最後だと思うと余計ウマイ。
グビッと一滴も残さずエールを飲み干して、千鳥足で向かうのは武器屋だ。私の得物であるロングソードはスライムの粘液でベタベタ、だから手入れをしに来たってわけ。
「よお! エニロエちゃん! って昼間っから飲み過ぎだ、顔が真っ赤だよ」
「ヒック、どうもノパエさん。今日は剣の手入れを頼みたくって」
ノパエさんは豪快な女性で、マウマスの街一番の武器屋を自称している。事実この街の冒険者はみんな彼女の世話になっている、スゴい。
「ようやく冒険者としての自覚が芽生えたかい。あー、お代はいらないよ。どうせ金なんて持ってないだろう」
「へへ、ありがとうございます」
「時間掛かるから、どっかで暇潰してきな」
言われた通り、店を出る。他にも準備しないといけないものがあるから丁度いい。普段から準備してない分手間取るのだ、私のバカ!
次に向かったのは裏路地にある小さな道具屋。ここの店主ダムさんは物静かながら独特の雰囲気を持った人で、その不思議さと色白の美女であることもあって、大好き。
「あら……いらっしゃい」
「ダムさーん! ヒック、へへへ……良い匂い」
「……抱きつかないで、調合ができない」
「おっとすみません」
薬の調合をするダムさんは、透き通るような色の手を忙しなく動かしていた。その様子を眺めるだけでも癒される。それの為だけにここを訪れることもあるくらいだ。
それから少しして、調合を終えたダムさんがこちらを向く。
「今日は、何用? お客さん?」
「はい、今日はお客さんなんです。クエストに行くことになったので、傷薬とマジックポーションを少々……できればツケていただけると……」
「ん……分かった。クエストに行く決心がついたお祝い……あ、あとこれも。幸運の御守り、持ってたら……いい感じ」
「わあ! ありがとうございます!」
淡く光る小さな水晶球を、アイテム共々腰元のポーチに仕舞う。ふふ、ふふふ……!
いやあ、私は恵まれてるなあ。ファトゥスさん、ノパエさん、ダムさん。みんな綺麗で優しくて、もうホント、イチャイチャしたいよね。
「あー……ハーレムが欲しいなあ」
夢だよ。本当にさ。
そうだ、冒険者になったのもハーレムが作りたいからじゃないか。冒険者として活躍すれば、自然と女の子が寄ってきてハーレムが出来るって、そんな夢みたいな話を信じて始めたんだった。……まあそんな欲望にまみれた動機だったから、まともに続いてないんだけど。最初のクエストで痛い目見て、嫌になっちゃったんだよね……。
「空から女の子降ってこないかな〜……」
って、あり得ない妄想をするよりは、冒険者として活躍した方がチャンスあるかな? 今のままじゃ到底無理だろうけど、明日のクエストは、がんばろう。




