世の中結局、弱肉強食
謎の記憶に対する伏線なかったよね...
「ごめん、アホなのは認めるからわかりやすく説明してほしい」
ナターシャが言いたいことがわからないので、私は諦めて説明を求めた
ため息をつきつつ、「いい?」とナターシャは説明の体勢に入る
「まず前提として、シオンの記憶は既に起こってるはずの出来事を思い出していっている」
「そうだね、今までの記憶を掘り返すとそういうことになる」
過去、脳内お花畑どもが話していた身に覚えのない嫌がらせと自分の記憶を照らし合わせると、見事に一致していたのできっとそういうことなのだろう
嫌がらせに限らず、日常風景なども記憶にあったが
言われてみればあの時の、と思ったものがほとんどだった。まぁ、全てを思い出せるわけではないので確実とはいえないが
ほぼそうだと言って間違いないだろう
「そして、私の記憶は未だどの過去とも当てはまらない」
「うん、確認したけど思い当たる出来事がなかったね」
ナターシャの記憶は私の記憶よりも鮮明ではあったが、どう考えても今まででは起こらないようなシチュエーションばかりだった
例えば
枯れ果てた森の真ん中に建ってる城を眺めていたりとか。
そんな場所、この世界には存在しないので無理である
「なのに今日、私は既に起こってるはずの記憶を思い出した」
ナターシャの思い出した記憶は、私とは逆の立場
要は、階段から突き落としたり私を囲んで罵詈雑言を浴びせたりという立場である
「...つまり?」
「私は未来の出来事から遡行して思い出してるということよ」
「!!!!なるほど!」
今日起こるはずだった出来事は既に昨日思い出しており
明日、一昨日の出来事を思い出すならその推測はほぼ確実と言っていいだろう
ふぅ、と息を吐くナターシャはさしずめ一仕事終えたサラリーマンだろうか
誰が一仕事だ!失礼な!!
「これから、私の記憶を細かく教えていくわ。脳内お花畑どもがこれから何をするのか、それでわかるはずよ」
ナターシャの記憶が未来のことならば、それを知ることで予測はたてられるだろう
「でも、こっちの話聞いてないし...どうしようもないんじゃ?」
「どうにかする方法が、1つだけある」
「えっ!そんな方法があるなら早く言ってくれれば...」
「できれば、使いたくない手段だったの...」
悲痛そうに話すナターシャは、その方法が非常にリスクが高いものであることを物語っている
一体、どんな方法なのか
聞いているだけの私も思わず冷や汗が出てしまうほどの緊張感に、ゴクリと喉を鳴らす
「その、手段とは?」
「...殴るのよ」
「え?」
「殴るの」
「...」
「...」
「どういうこと?」
ちょっと何言ってるかわかんない
「例え、話は聞かなくても殴れば喋らなくなるわ。いえ、喋らなくなるまで殴ればいいの間違いね」
「唐突な実力行使!?屈強な男相手にひ弱そうな令嬢が何言ってんの!???」
「大事なのは、殴る場所よ」
「殴り方を聞いてるんじゃないから!??え!?ってか、めっちゃ目据わってるけど、まさか...」
「脳を揺らすと喋らなくなったわ」
「既に実行済みだった!??何でやってみようと思っちゃったの!??私でもやらないよ!?」
コワイ。ナターシャが急にコワイ。
「でもコツがいるから、大事なところを蹴るほうが楽ではあるけど...
意外と喋れはするのよね、アイツら。喋るっていうかうめき声だけど」
うん、聞いてるだけで痛い...私には付いてないはずなんだけど...
なんか、すごくヒュッてする...うん、誰が犠牲になったかは聞かないでおこう...
「つまり、やらかしそうになったら殴って黙らせる。そして、脳内お花畑じゃない周りの人に対処してもらう。
これが今できる最善で唯一の対処方法よ」
「完全に脳筋の思考なんだけど!?ホントに大丈夫なのそれ!??」
「とりあえず、私の記憶を聞いてくれる?」
「アッ、ハイ。仰せのままに」
そうして私とナターシャは、今後起こるであろう出来事とそれの対策を2人で練っていくことにした
あれ、もしかしてナターシャのがアホなのでは?