忘れてたわけじゃないんだよ
展開が変わってきます
ナターシャ・ルーブルエ
いわゆる悪役令嬢である
公爵家長男のルイン・シフォードとは幼馴染の関係にあり、実はクリス王子と婚約している
「ねぇ、ナターシャ。ちょっと話があるんだけど」
とりあえず今の状況を打開すべく、わたしはナターシャに接触することにした
「だから何故呼び捨てですのっ!?平民風情が調子に...」
「おい、何の騒ぎだ?」
できるだけ人がいない時を見計らって話しかけたはずなのに、速攻でルイン様が現れた。おかしくない?
「ル、ルイン!何でもないですわ!」
「またシオンをいじめていたのか?」
またって、いじめられた記憶ないんだけどな...
「何だと!?おい、シオン大丈夫か!?」
また増えた。
人が、いない時を、見計らったんだけどなぁ??
「大丈夫だし、いちいち寄ってこなくていいからトリス」
「君たち何やってるんだい?」
うん。
「ハイネ先生暇そうですね、何でもないのでこっちこないでください」
「シオン、そんなナターシャの味方することないんだぞ」
「ルイン様。しつこい」
二周目に入るな、キリがないだろ
「なっ!平民のくせに彼らを誑かすなんて!」
「それ聞いたの34回目だし、話聞けよナターシャ」
「ふんっ!私は優しいから平民の戯言にも付き合ってあげるわ!」
うん、いやホントありがたい。他の人は私の声が聞こえてないかのような反応しかしないからな...
「ナターシャ、そんな言い方は」
「身分差別はダメだろ!!」
「シオンをいじめないでくれるかな?」
だからお前ら帰れよ!!!
☆☆☆
「何でアイツらあんなに話通じないんだ?」
やっとナターシャと2人きりになれた私はため息をつく
「何ですの?愚痴を言うためにこの私に声をかけたんですの?」
「でもさぁ、ナターシャだけは会話できるんだよね」
「ふんっ、下々の人間にも情けをかけるのが貴族の務めですわ!」
「なんか微妙な気もするけど」
「バカにしてるんですの!?」
どっからこの元気が出てくるんだろう...
いやそんなことより、この事態の対処が先決だ
「私、洗脳魔法でも使ってんのかな?魅了的なやつ」
1番可能性が高いと思っていた
わざとやっているということはもちろんないが、無意識に使っている可能性は否めない
しかしナターシャは首を横に振る
「魅了はあんなに周りが見えなくなるような魔法ではないですわ。そもそも貴族はみんな対策とってますもの」
「え?そうなの?じゃあ何でだ?平民が珍しいにしては度が過ぎてない?」
魔法ではないとしたら、身分ぐらいしか思い当たらない
だとしてもさすがにありえない気がする
「それは私も思ってましたわ。クリス王子も最近、全く相手をしてくれなくなりましたし」
「何だアイツ」
「不敬罪になりますわよ」
半目で私を睨むナターシャに、何となく親近感を抱く
話しているうちに突っかからなくなってきたし、これはもう友達と言っても差し支えないだろう
「ふふっ、でも何だかんだ話聞いてくれるんだね」
「お互い様ということですわ」
そう言って険しい顔をするナターシャ
「あー、やっぱ話聞いてくんないの?周り」
「特にルインとクリス王子とハイネ先生とトリスさんは酷いですわね」
「...ですよね」
私に好意を向けてきている人たちだ
ケインも好意を向けてはいるが、ナターシャとの関わりがないからだろう
どうしようかと考えていると、不意にナターシャが独り言のように呟く
「...そもそも、この世界は本物なのかしら」
「え?」
どういう意味だと聞こうとしたら、話は終わりとばかりにナターシャは立ち上がってしまった
「何でもないわ。もう行くわね、シオン」
「名前で呼んでくれた〜!」
「なっ!そんなこと言うと二度と呼びませんわよ!!」
「はいはい、またねー!」
ナターシャと別れ、私は1人思考の海に沈む
『この世界は本物なのか』その言葉が私の中で異様に存在感をもっていた
普通に考えれば荒唐無稽な妄想だろう
だがそれを信じてしまうぐらいに自分の見えている世界はおかしい
無意識に、ポツリと声を落とす
「考えたことなかったな」
あの空の向こう側に何が広がっているかなど
存在忘れかけてたけど、ナターシャ重要ポジになった