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第九幕 帰り道

大変、長らくお待たせ致しました‼︎(大汗)

 帰りの道中、拙者は窓越しから見える夕焼け色に染まる空を眺めながら馬車に揺られ、ふとあの時の出来事を思い出していた。

 其れは衛兵達が去った後の事。

 先程、杖を貸して頂いた御老人に礼を述べてから杖を返した。




「なぁに、礼など構わんよ。其れにしても、先程見せた剣技は実に見事な物だった。久方ぶりに血が疼いたわぃ」




 御老人がそう言うと、掌程に長い自身の顎髭を撫ぜ下ろしていた。

 恐らくこの御老人も、名の知れた剣士だったのであろう。例えその身が老いていようが一目で分かる。

 そして、その鍛え抜かれて出来たであろう、分厚くなった手が何より物語っている。




「貴殿の様な手練れに、そこまで言ってくださるとは光栄の至り」




 拙者がそう告げると、御老人は一瞬目を見開いた後、突然高笑いし始めた。




「ホォホォホォ。こんな老いぼれを"手練れ"と申すか。確かに、儂がまだ貴女おぬしと変わらん年の頃は、少しばかし名を轟かせておったが……其れは今は昔のこと。今の儂には、そんな風に言われる資格は無いわぃ」




 そんな御老人の言葉に対し、拙者は「ご謙遜を…」と呟いた。




「して、話を変えるが…先程君が見せた剣技。アレは一体何処で身に付けたぁ? 少なくともアレは儂が知る限り、見た事も聞いた事も無い代物じゃった…」




 …やはり気付いたかぁ。

 御老人が言う剣技…四季舞流は、我が先祖代々受け継がれし前世ひのもと…つまりは異国の技。

 海の遥か彼方に存在するであろう我が元母国こきょうの物。

 其れが例え、名の知れた手練れであったこの御老人とて、この地に住む者ならば当然知る由も無いだろう。

 そして先程繰り出した剣技――"四季舞流…皐月 弐ノ舞、入梅上流風にゅうばいじょうりゅうふう"は、構えた位置から深く腰を下ろし、そのまま高速で振り上げる技。其れは雨雲を生み出す上昇気流の如く…いや、それ以上の強い狂風を起こし標的を天高く吹き飛ばす。

 手加減はしたものの、本来なら軽く二間にけん以上は吹き飛び、下手をすると致命傷を負っていた。あの程度で済んだのは、己の身体にくたいがまだ未熟さ故の事。其れを良しと取るべきか否と取るべきかと、おもてには出さなかったが、正直内心では片手で額を抱えながら溜息を零す思いであった。




「はい、正しく仰る通り。この技は、我が師より受け継いた異国の剣でございまする」




 すると御老人が「ほぉ、そうであったか」と興味深く頷いていた。




「其れは其れは、さぞ良き師であったのでしょう。お会いしなくとも、貴女の立ち振る舞いを見れば一目瞭然。其れに比べ、最近の若者には本当に困ったものじゃ」




 其処まで言うと「全くっ…お嬢さんを見習って欲しいものじゃよ」と呟いた御老人は「お嬢さんの爪の垢を煎じて飲ませれば、多少はマシになるかのう」等と、冗談交じりに言いながら、お互いに笑い合いながら会話に花を咲かしていた。

 

 御老人は別れ際に「ホォホォ。ではまた何処かでお会いしましょう」と言い残し、その場を立ち去って行った。





           ◇◇◇





 そして今現在に遡る。

 拙者は瞼を閉じ、去り際に放った御老人の言葉を思い出し「…あぁ、また何処かでお会いしようぞ」と、鼻で笑いながら呟く。

 すると突然、車台が若干ガタ付いた。恐らく車輪に小石が当たったのであろう…と、思いながら視線を前の方へと向ける。

 向かい側には、毛布にくるまったまま寝込んで居る青年の姿があった。

 青年の顔に目線を向けると、額には汗を流しており、眉間に皺を寄せ、魘されている様にも見える。

 人差し指で青年の頬を撫でると、若干だが表情が和らいだ気がしたので、拙者は青年に向けて「…安心せよ。もう貴殿に害する物は、何一つ有りわせんのだから」と、優しく微笑んだ。



 屋敷いえに到着した頃に、既に日が完全に落ち、星々が点々と輝く夜になっていた。



 それから馬車を降りると、拙者は寝込んだままの青年を横抱きにし、屋敷いえの中に運び入れた。その姿を目にした多く者達は、目を見開きながら驚いた表情をしていたと言う。ちなみに、両親共に同じ反応しておった。

 その後、両親に今日起きた事の経緯を述べる。

 すると、拙者が話を進めて行くに連れて、父が見る見る内に顔を青ざめさせていた。そして話を終えた途端、口から泡を吹き白目を剥いたまま、その場で倒れ込んでしまった。

 其れもそうだぁ。何せ、年端も行かない大事な娘が、強盗に襲われそうになった。然も挙げ句の果てに、その強盗もの屋敷いえへ連れ帰ってくるのだから、こうなってしまうのも仕方ない。特に、この父に関しては…

 しかし、父がこうなっているのに対し、母に至っては「あら、まぁ〜…なかなかやりますわねぇ。レィジュ!」と、キラキラした眼差しを向けながら、何故か喜ばれている様子であった。

 そんな中、こうして慌ただしい一日の幕が閉じたのであった。


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