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第三幕  閑談

 朝の修練を終えた後。

 桶一杯の水で、修練で流れ出た汗を洗い流す。

 柔らかい白布で体を拭き、召使女メイドが用意したころもを着付けてもらう。



 むむ…やはり何度着ても、今だに着慣れぬ。

 何なのだ、このヒラヒラした物は?

 南蛮のおなごは皆、この様な格好をするのか?

 何故わざわざ、こんなヒラヒラして歩き難い物を着るのか?全く理解が出来ぬ。

 何度も裾を踏み、何度も転びそうになった事か…

 それに見た目が、華やかと言うか…派手過ぎる。流石にコレは、拙者が着るには抵抗が有る。

 目がチカチカする程に、布がキラキラして落ち着かない。

 一体、どんな糸を使って織れば、こんなのが出来るのだろうか?

 ………いと不思議あやしけり。

 何とか、改善する事は出来ぬか?

 早速、食事をとる際にでも聞いてみよう。

 例の事も有るからなぁ…なるべくアレも、手に入れておきたい物だ。



 着替えを整え終えた後、朝食を取る為、リビングへ向かおうと部屋を出た。

 リビングに着くと、既に両親は席に着いており。拙者も自分の席に座ると、メイド達が食事を運び込んで来る。

 今朝の献立は、潰された茹で卵を挟んだ”サンドイッチ”と言うものに、採れたての新鮮な野菜を使った”サラダ”と、鶏肉の出汁を引いた”鶏がらスープ”だ。

 正直に言うと……米や味噌汁を食したかったのだが、食文化が違い過ぎて流石に無理だったが。

 まぁ、食事に有り付けれただけ、まだマシだなぁ。



 食事を終えた後、少し変わった形をした湯呑茶碗ディーカップを手に持ち。家族団欒と、優雅に珈琲ちゃを啜る。

 最初は、墨汁の様な見た目に、香りも独特な匂い。

 飲むには、少々抵抗が有ったものの、最近では毎朝の楽しみでもあり、この一杯無くして一日は始まらぬ…とまで、思わせる程に至る。

 この目が覚める様な癖の有る苦味。そして、抹茶とは又違った味わい。

 ———実に美味である。



 そして拙者は、斜め横の長椅子ソファーに座っている父に声を掛けた。




「父上、少しお願いが御座います!」


「う、うむ……何だい?そんなに改めて、遠慮せず申してみよ」


「はい、今日は近くの街へ赴きたいのです」


「街へ?一体何故その様な所に?」




 すると、父の横に座って居た母が、少し溜息を吐いた。




「もう貴方ったら―――女が街へ行きたい理由なんて、一つしかないじゃない。レィジュは"買い物"に行きたいのよねぇ?」


「はい、正にそのとうりです。母上」




 その会話を聞いた父は、少し難しそうな顔で首を傾げた。




「買い物で有れば、わざわざ街に赴かなくても、召使い達に頼めば、直ぐにでも、欲しい物が手に入れる事が出来るのだぞ?」


「いいえ父上…確かに父上が仰ったとうり、召使い達に頼めば、直ぐに手に入りましょう。しかし、それでは己ので、品の有無を見極める事が出来ませぬ。ですので、拙者自身が赴く事に意味が有り、己を鍛え直す為には、必要不可欠なのです」




 まぁ、正直に言うと、大半は只の後付けに過ぎぬが、嘘は付いていない。

 すると母は、拙者の意見に対して、賛成するかの様に拍手した。




「その心意気、とても素晴らしいわ!流石は私達わたくしたちの娘ねぇ」




 母がそう言うと、父は苦笑いをしながら「そ…そうだなぁ」と、複雑そうな顔をして言った。




「お前が、そう望むので有れば、私からは何も言うまい…」




 その後、父は深く溜息を吐いた。




「それはそうと、レィジュ。お前は一体、何が欲しいのだ?」


「はい、最近はちゃ…でわ無く、珈琲と言う物を気にってありまして。其れ等には、いくつかの種類ブレンドが有るとの事。それを何個かと、服を何着か購入しようと思います」


「ほう、珈琲か…確かにアレは、実に良い物だ。私も好きで、良く飲んでいるよ」




 すると母が少し顔を顰めていた。




「珈琲って確か、最近…密かに人気ブームになっているって言う…あの?」


「そうだよ」


「アレって一体、何がそんなに良いのです? わたくしも一度口にしてみましたが…物凄く苦く。とても飲めた物では無いと思いましたわ」


「あの苦さが良いのだよ!」


「分かり兼ねません。やはりわたくしには、紅茶にフルーツを添えて飲む方が、性に合ってますわねぇ」




 そんな会話に、拙者は「まぁ、味の好みは人それぞれですから」と言った。

 何故なら…人は、こう言った事が、喧嘩の火種になり兼ねないからだ。

 ほんのちょっとした事で、言い争うのを拙者は知っている。

 何せ…まだ前世に居た頃、歳の近い家臣達から、良く正妻の愚痴を聞かされたものだ。

 まぁ、拙者の場合…毎日の様に修練を続けていたせいか?

 妻とは、余り話す機会が無かった為、そう言った話には無縁だった。

 そして、その後も会話は続いた。




「確か…街内に、珈琲の専門に扱っている店が幾つか在った筈だ。後で、メモに書き記して渡しておくよ」


「はい、有難うございます」


「そう言えば…珈琲の他に、服も欲しいと言っていたねぇ。二ヶ月前、お前が「最近、流行り始めた新作のドレスが欲しいですわ!」と言って、買ってやった物が有るのに…まだ欲しい服が有るのかい?」




 その父の言葉に、拙者は啞然とした。

 ……成る程、道理で着た形跡が無いころもも在ったのか…と、感心してしまった。

 その流行りのドレスとやらは、使われた生地に銀粉を織り交ぜて入るのか?

 生地の表面が、全体にキラキラと輝いている。その上には、淡い紫色の薄衣をあしらった、藍色のドレスだった。

 アレは、流石に無理だ…目が血走り過ぎて、目玉が痛みそうだ。




「え、えーとですねぇ…実は、今所持しているものは、今の拙者には…そのー……余り好ましくないものばかりで…」




 すると父が「そうなのか?前はあんなにも、華やかでキラキラした物が好きだったのに…」等と、動揺した様な口ぶりで言っていた。

 しかし、レィジュ殿。よもや、あの様な物を好んで着ていたとはなぁ……理解に苦しむ。

 その後、母が「貴方……突然好みが変わるぐらい、誰にだって有るわよ。特にはねぇ」と、父の肩を摩りながら、言い包めていた。流石は母上、本当…有難い事この上ない。



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