第一幕 転生したサムライは…
此方は、HJネット小説大賞2019に向けて、書いた小説です。
世は戦国時代半ば…
戦さ場の中…とある名家の武人が、拙者の前に立ち憚る。正にコレが、世に言う所の修羅場なんだろう。
「我こそは、赤丸の家臣が一人。西野末政である! 貴殿に、一騎討ちを申し渡す!」
連銭葦毛の馬に乗った、顔付きの悪い武人が、前に立って名乗り出る。
空かさず、此方も名乗り出た。
「拙者は…白原の家臣が一人にして、四季舞流当主。名を四季舞 練十郎と申す! その申し出、拙者が承った」
両者共に、互いの刀を抜き、相手に向けて構える。
そして今、戦いの合図が言い渡す。
「いざ尋常に…」
「「勝負!」」
合図と共に刃が交わり、火花を散らす。
両者共に一歩も譲らず、激しい攻防が続く。
しかし…勝負は長く続く筈も無く、決着は付いた。
勝者は拙者…四季舞 練十郎である。
敗北した西野末政は、死に際に「…見事なり」と、血を吐きながら言い残し、その一生を終える。
そして亡骸となった、西野末政の首を切り取り、その首を掲げて叫ぶ。
「たった今…この四季舞 練十郎が、敵家臣が一人。西野末政の首を討ち取ったなり!」
すると、周囲から歓声が鳴り響く。味方の兵は、歓声と共に指揮が高まり始める。
一方、その様子を見た敵兵士は、指揮が下がり始め、次から次へと倒されて行く。
コレにより、拙者達の軍は波に乗って行き。
数日間に渡たる戦は、白原軍の勝利により幕を閉じた。
しかし拙者は、先の一騎討ちの際に、重軽傷を負い。
戦が終結した頃には、既に力尽きていた。
武士たる者…戦さ場で命を落とす事に、躊躇いは無い。
拙者が敵家臣を討ち取った事で、我が軍の勝利に貢献した。
言わば、コレは名誉ある死。
拙者は、何も思い残す事は無い………筈だったのだが。
◇◇◇
窓から差し込む光に、目元を照らされ、思わず目を開けると、真っ白な高い天井が広がっていた。
辺りを見渡せば、見た事が無い形をした物が、立ち並んでいた。
それに拙者が寝かされて居た、この布団は驚く程に、肌触りが良く柔らかい。
此処は一体何処だ?
確か…拙者は、戦さ場に中にいた筈。
何故、この様な所に在る?
辺りを警戒しつつ、身体を起こそうとすると、突然激しい多痛が襲い掛かる。
「くぅっ!」
痛みの余り、思わず頭を抱える。
うぅっ…何なんだ、この痛みは?
頭がクラクラして、目眩までして来る。
すると、何かガタン!っと言う音が鳴り響く。
横を振り向くと、そこに立って居たのは、一人の見知らぬ女の姿だった。
姿見た途端、衝撃が走る。
その女は一見、顔立ちは普通だが、髪と瞳の色が異常だ。
日ノ本の女は基本、髪や瞳共に黒い色をしているが。
先程の者は、髪色が赤み掛かった茶色。
瞳に関しては、黄緑色をしていた。
そして女が、今着ている物に至ってもそうだ。着物や浴衣とは違い、黒い衣に白い腰布みたいな物を身に付けている。
そんな女は、何故か…口元を両手で隠し、涙目になりながら拙者を視詰めるのだが。
「お…お嬢様?」
それが、やっとの思いで口にした、小さな言葉だった。
……………
……………
………いや、待てよ。
今、女が言った言葉に、聞き捨て無い単語が聞こえたが。拙者が…何だって?
そう思っている間に、先程の女が、イキナリ飛び付いて来る勢いで、近寄って来た。
「意識が戻られたんですね!お嬢様が大怪我を負われ、血を流し運ばれて来た日には、もう屋敷中大騒ぎでした。お加減はいかがでしょうか?」
この時、女の問いに対し、しっかりと考えてから答えるべきであった。
何せ、状況が状況だからなぁ。頭の痛みせいでもあるが、余り頭が回らなかったのだ。なので咄嗟に…
「いや、大した事は無いのだが。それより…お主は誰ぞ?」
拙者の問いを聞いた途端、目をパチクリした後、少し口を開いて、ポカーンと固まっていた。
「え、えーと…何を言っているんです? 私です。 この屋敷に使えてる、メイドのミリーナです。 良くお嬢様は、私の事をミリーって、いつも呼ぶじゃありませんか? もう〜お嬢様ったら、冗談は程々にしてくださいませ」
「済まぬが、状況が全く飲み込めむ。先ず第一に、その"おじようさま?"と言うのは、まさか拙者の事か?」
「せ、拙者? もう可笑しな喋り方は、お辞めくださ…」
すると、ミリーと名乗る女が拙者の目視詰める。
その瞳からは、一切の曇りも無い。
コレは冗談では無い…事実なのだ。
拙者の思いが伝わったのか? ミリー殿の表情が変わった。
そこから、段々と青ざめて行くのが分かる。
「そそ、そんな…こんな事って!?」
そしてミリー殿は「旦那様!奥様!大変です〜!! お、お嬢様が!お嬢様〜!!」と、大声で飛び出して行ってしまった。
その後、直ぐに人集りが入って来て大変だった。
先程も居たミリー殿を始めとして、ミリー殿と同じ様な格好をした女達。
それから、首元には垂れた蝶結びをした、赤く細い紐。黒い衣に、中には白い衣を重ね着した格好の男達。
そして、心配そうに拙者を視詰める、40代後半ぐらいの夫婦。
「レィジュ…私が誰か、分かりますか?」
「…いいえ、分かりませぬ」
拙者が正直に返すと、声を掛けた奥方は、額に片手を据えながら、突然立ち眩む様に倒れ、後ろに控えて居た者達により、倒れる直前に支えた。
周囲から「奥様、お気を確かに!」と、呼び掛けられている中、頭を抱えながら膝をつく殿方。
「嗚呼、なんて事だ。我が愛しき娘が、この様な事になろうとは…」
すると突然、殿方が立ち上がると「其れもコレも、事の発端の全てはあの男だ! 我が娘レィジュと言う婚約者が有りながら、他の女にうつつを抜かし、社交界の場で、まるで見世物の様に、平然と娘との婚約を破棄。そして抗議する娘を対し、階段から突き飛ばし、大怪我を合わせた! 命に別状は無かったとは言え3日間、酷い高熱で魘されながらも、眠り続ける娘の見舞いに、来無いばかりか。謝罪の文すら届いておらん! もう我慢の限界だ!直ぐにでも、文句の一つや二つ言わねば気が済まん!」と、怒りが困った声で呟く。
それを聞いた周囲の者達が「お辞めくださいませ旦那様! お気持ちは大変分かりますが、そんな事をすれば旦那様の立場が!」と、止めに掛かっていた。
「ふん、立場など知った事か!私の愛する娘を、この様な目に合わせられて、黙っている親何処にいる!? ええぃ、離せっ!離さんか〜!」
暴走する殿方を止めようと取り囲む、黒い衣着た者達。
床に座り込み、涙ぐむ奥方。
そして、その光景を目の当たりにして、呆然一方に固まる拙者。
コレは一体、何なのだ?
それに先程から、殿方が申されている娘とは何だ?
奥方も、拙者の事を"レィジュ"と呼んでおったが。
周囲を見回す限り、世で言うところの"南蛮"?の民なのだろうか?
そう考えていると、首を傾げた際に、横から長く黒い髪が見えた。
そして拙者は、自身の身体の異変に気付く。
元から髪は長い方では有ったが、此処まで長くは無かった。
横髪は肩まであり、後ろ髪に至っては腰まで長い。
それは髪だけの話では無い。周囲に気を取られ過ぎて、全く気が付かなかったが。
それに先程から、自身の声に疑問を抱いていた。
何と申せば良いか…自分の声であるのに、自分の声じゃ無いみたいに感じる。何時もの自分の声より、少し高い気がする。
胸元は、拳ぐらいの大きさの膨らみが有り。両手を見れば、きめ細かい白い肌に、指から腕に掛けて細い。
コレはまるで………まさか!
拙者は、隣に控えて居たミリー殿に声を掛けた。
「ゴホン…えー、ミリー殿。」
「え?あ、はい! いかがなさいましたか?お嬢様」
「済まぬが、もし有ればで良いのだが…手鏡とやらを持って着てほしい」
「はい、分かりました。手鏡ですね?直ぐお持ちします」
ミリー殿は、柔かな笑みで答えた後、直ぐに部屋から出る。そらから、数分も経たずに戻って来た。
「お待たせしました。こちら手鏡です!」
「嗚呼…ありがとう」
礼を言った際、何故かミリー殿が、目を輝かせながら「は、初めてありがとうって、言われた」と、可笑しな事を呟いていた様な気もするが、きっと気のせいだろう。
拙者は、手渡された手鏡を持ち、目を瞑り一呼吸入れた後、恐る恐る手鏡を見た。
そして手鏡に写っていたのは…少しつり上がった唐紅色の瞳、品の有る顔立ちに、思わず見惚れてしまう程の美しい女の姿がそこに有った。
しかし、忘れてはなら無い…
何故ならコレは、絵では無い…鏡で有る事を。
パッキーン
その瞬間…驚く余り、全身が石化した様な感覚に襲われ、思わず手鏡を落としてしまう。まだ手元が震え、顔が引きずっている。
しかし、これで確証が付いた。
どうやら拙者は、先の戦で命を落としたが。この魂は、あの世へは行かず、何故か南蛮の地に住む、この女に転生しまったと言う事だ。
最初の更新に、設定の誤りが有った為、再度更新し直しました。
そして先程、最初の更新に感想を書いてくれた方に対し、感謝の言葉を申し上げます。ありがとうございました!