討伐開始 王駒と殲神
アダムは思わず、自分に微笑みかけ、去っていった銀髪の、少女のような少年の後ろ姿を見つめていた。
「おいアダム、王駒には敬語使えよ。俺たちヒラのポーンより偉いんだから」
アダムの隣にいたポーンの少年、イリヤが呆けたアダムを見て、軽い声をかける。
「えっ、あの子、『王駒』なの? 僕と同じぐらいの年に見えたけど」
「そ、確か階級は今んとこ二番目に偉いビジョップだったっけ。『嘘つき予言者』って呼ばれてる」
「嘘つき……?」
「理由は知らないけどな。でも、奴は俺たちの倍以上の数のアストラを狩れるってことは確かだ」
「そう」
目覚めてから、まだ日は浅いが、殲神には階級というものがあるとアダムは知った。
王駒とは、移植された邪神細胞と自身の細胞との《細胞融合》を果たした特殊な殲神。彼らは通常の殲神にはない異能と強靭な力を持っているという。
――でも、さっきの子はどう見てもそんな風に見えなかった。女の子みたいな顔立ちに、あの笑顔。アダムは思い出すと、わずかに顔が赤くなる。
殲神になってからというもの、一度も女性兵士を見たことはない。たぶん、あの子は男の子だ。だが、男の子にしては、あまりに綺麗すぎる、と思った。
僕に首輪をつけた王様も、並外れて綺麗な子だったが、あのガイアという子には、王様の冷たく、すべてを遮断するかのような美貌とは違う柔らかさがある。そう思った。
ふと、その思考を遮るかのように、隊長の硬質な声が響く。
「顕現確認! 本地区におけるアストラたちの『複製』が開始された! 全員、討伐を開始せよ!」
その言葉と同時に、アダムの目の前に派手な地響きと共に、激しく土を割って、全身が触手と無数の眼球に覆われた怪物、アストラが現れた。
イリヤが声をかける。
「来たぜ」
「わかってる」
アダムは『神の牙』:短剣形状を手に、目の前に現れた怪物の、ひときわ赤く光る眼球の一つ《コア》を勢いよく突き刺した。
怪物、『アストラ』は機械音のような悲鳴を上げ、消滅する。いまだ、その光景にはなれないが、アダムは次なる怪物を確認しようと、辺りを見渡した。
四方を複数体のアストラに囲まれたダーレスは目を閉じ、自身の刀を抜刀して囁く。
「我が魂は『始祖』と共鳴しし者。それゆえ、我が神の牙、《羅刹焔鬼》と一体となる。」
そして、目を見開き、叫んだ。
「強度転換! 羅刹焔鬼よ、刀身に蒼き炎を纏え!」
瞬間、ダーレスの刀は発光し、そして言葉の通り、蒼い炎がまとわりついた。
「ふっ!」
ダーレスは旋回しながら、自身を囲んだアストラを全て殲滅する。
「隊長、やるぅ」
グレンは細剣で目の前にいるアストラのコアを貫きながら言った。
「ギーヴル! お願い!」
隊列の後方では、ゼファーがアストラに向かい、光弾銃を撃つ。コアを破壊されたアストラが消滅していく。
レオンはゼファーの背後に背中合わせで立ち、次なる侵攻を見定めようとしていた。
「王駒が一つのエリアに偏ったところで意味ないよ、レオン。散ったほうがいいんじゃない?」
「どのみち、『複製核』は最後まで現れない。それに、君の背中を守るのは僕だ」
レオンはそう言い、地面から湧き出た一体のアストラを撃ち殺した。ゼファーは軽く尋ねる。
「ま、そーだけどさ。討伐設定数、残りいくつ?」
レオンは腕のガントレットを操作し、ホログラムを表示する。そこには「150/600」という数字が表示されていた。
「450です」
「ビジョップともなると大変だね。やっぱ僕はナイトで十分」
「そうですね。……君は今のままがいい」
レオンはやや声を曇らせてそう言ってから、続いて現れたアストラを撃ち殺す。
ふと、ゼファーは頭を抑えていた。
そして、ゼファーの声がわずかに低くなる。
「ハァ? ふざけんなよ、ばぁか」
レオンは『嫌な予感』に背を震わせる。だが、振り返る勇気はなかった。
「ゼファー……?」
ゼファーは口元をゆがめ、瞬時にフラップに隠れたもう一つの拳銃を取り出す。
「オレはこのまま終わる気ねえから。さあ、お前の出番だ、《ウロボロス》!!」
そして、二丁の拳銃をクロスさせ、ゼファーは自分の双方向に現れたアストラを「一切見ず」に殲滅した。