再会
「俺も行こう」
ガイアは声のした背後を振り返る。いつの間にかそこにいた長身の男を見上げた。190センチを超える彼、アキリーズと比較すれば、今年十六歳になるガイアは華奢な体型であることも手伝い、ほんの小さな子供に見えた。
そして、アキリーズは年齢も、ガイアの一回り上だった。
殲神の特殊階級、七人の『王駒』たちのなかでは最年長とされるアキリーズは顔の半分を黒い仮面で覆い、半身には同色の装甲を身に着けている。彼の短く切りそろえた、くすんだ茶色の髪が風に揺れた。背には『神の牙』:大剣形状を帯刀している。
討伐設定数1000をこなす階級:ルークのアキリーズに、本来は装甲など必要ないが、体内の邪神に『浸食』された体を隠し、そして、いずれかは訪れる、浸食による身体の暴走を抑えるためには、致し方がないことだった。
「遠慮しておくよ。だって、アキリーズは僕の『メイト』じゃない。協力してもらったところで、君に何のメリットもないさ。それに」
アキリーズの顔が半分隠れているものの、深い緑の瞳がわずかに揺らいだ。
「……おまえの運命には、そう書いていない、というのか?」
アキリーズの言葉にガイアはふっと笑みを浮かべた。
「ああ」
アキリーズはわずかに唇をかみしめる。
「好きにしろ」
そう言い残し、アキリーズは軍服の上に装着した黒い外套を翻して去っていった。
『おい、見ろよ。あれが《死の黒騎士》だ』。
すれ違いざまの『ポーン』たちがそう囁くのにふさわしいほど、彼の長身は異様な気迫というものに満ちていた。
ダーレスは遠くから、アキリーズを呼び止める。
「どこに行く気だ?」
アキリーズは立ち止まり、
「お前たちが、集落周辺に現れたアストラを討伐している間、俺は発生源直下のアストラたちを討伐しておく。おそらく、最後の『複製核』はそのあたりへ現れるはずだ」
そう答え、再び歩いていった。
「想定した指示通りだ。助かるよ」
ダーレスはそう告げる。ヴァルトロは去っていくアキリーズの姿を遠くから眺め、呟く。
「《複製核》ボーナスで一人勝ちさせてたまるかよ、『キング』になるのは俺だ」
ガイアは、戦いへの不安や緊張に満ちたポーンたちの列の側を通り過ぎる。
そして、瞳は自然と『彼』を探していた。
殲神の中でも、精鋭小隊とされる七人の『王駒』と、通常の殲神、ポーンは別配置となることが多い。今回の討伐は珍しく、王駒とポーンが一堂に集められたのだ。
ガイアの青い瞳は、幾度も演算の『ヴィジョン』の中で見つめた彼を探す。
――ああ、そこにいたんだね。
ガイアは思わず、ほほ笑む。見つめた赤毛の少年は一瞬目を丸くしたあと、やや眉をしかめ、ガイアのほうを見た。
「あの……何?」
――懐かしい声だ。
ガイアは彼にどう声をかけるべきか、迷った。思わず、黙ってしまう。
そして、目の前の少年がやはり、『演算』の通り、自分について何も覚えていないのだと理解した。ガイアはそれでも、震えるちいさな唇を静かに開こうとする。
――ねえ、君は。
ガイアが言葉を発する前に、勅令放送が響いた。
「王より勅令。王より勅令。ただいまより、各殲神の『制限時間』の打刻を開始する」
ガイアはあきらめたように、彼に背を向け、歩き始めた。
――そうだ……『今』はまだ、その時ではない。