夢の断絶
そこはすべてが白に覆われた空間、という他なかった。
目覚めたばかりの、赤い髪に緑の瞳をした少年は一糸纏わぬ姿で寝台に座り、ただ辺りを見渡していた。
ここはどこだ?
夢の……続きは?
少年は長い、長い夢を見ていた。彼はその夢の内容をはっきりとは思い出すことができない。だが、一つだけわかることがある。
……僕は夢の中、少女であり、少年だった。
そして、僕とわたしは、必ず死に絶えた誰かのために、涙を流しているのだ。だが、目の前の屍は涙と後悔に応えることはなく、永遠に、再び動き出すことはない。
ぜんぶ、僕の、わたしのせいなんだ。何もかも。
その意識が頭にこびりついて離れなかった。
何より、僕は……一体「誰」なんだ?
ふと、見下ろすと、自分の胸には鍵がぶら下がっていた。
「この鍵……なに?」
突如、白の部屋に、違う色が差し込んだ。シュン、と音がする。
自動式扉が開かれたのだ。ブーツの足音がこつ、こつ、と響き、近づいてくる。
「やっと目覚めたんだね。アダム」
目の前に立つ少年は、白い服を身に着けていた。そして長い金の髪を結わえ、整った顔立ちには笑みが浮かべられている。
綺麗な子だ。そして何より、血のように赤い瞳が印象的だと思った。
「アダム……それって、僕の名前? 君は一体誰なの?」
「僕はクリフ。この国の王であり、君の友達だ。」
少年はアダムのベッドの前で、目線を合わせ、そう告げた。そして、白い手でアダムの頬に触れる。アダムはその手の冷たさと骨のような細さに驚き、びくっと身震いをした。
「王様……君が? 僕の……友達……」
アダムはあらゆる疑問が渦巻くあまり、問いかけをうまく言葉にすることができない。
「ああ。僕はずっと、君が目覚めるのを待っていたんだよ」
若い王クリフの声には、感情が籠っているようで、ひどく冷たかった。
なんだ? 『これ』は……?
アダムはクリフと名乗った少年の声に、どこか懐かしさを感じた。
だが、その懐かしさの底には、ひどく恐ろしく、悲しいものがあった。
アダムはクリフの瞳を意識のどこかで恐れながら見つめる。
その瞳は最高権力者としての威厳と冷酷を湛えながらも、悲しみに満ちていた。
笑顔を浮かべているはずなのに、少しも「この子は笑っていない」。そう感じた。アダムは問いかける。
「ねえ、君はなぜ、そんなに悲しい目をしているの?」
その言葉で、ほんの一瞬だけ、クリフの冷酷な目が揺らいだ気がした。
「わからない……ずっと君が眠っていたせいかな、アダム。でも、君が目覚めた今のほうが、なぜか寂しいんだ」
寂しい。その言葉がふっと、冷たく悲しいクリフの姿を変えた気がした。アダムは思わず、頬に当てられた細い手を握った。
この子を助けてあげなきゃ。
何も覚えていないはずの自分の中にある何かが、そう言っている気がした。アダムはクリフに向かって囁く。
「そう。でも、もう大丈夫だ」
クリフは下を向き、低い声で絞りだすように言う。
「何が……?」
「これからは僕がいるから。何も覚えてないけど、僕は君の友達なんだろう? もう一人じゃないよ。」
だが、アダムの言葉と同時に、クリフの揺らいだ目は瞬時に、怒りの炎をともした。そして、彼は胸元から何かを取り出した。