表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断暦の殲神〜闇に沈む王と暁の叛逆者〜  作者: 夜叉
神話と世界の真実
18/23

喪われた神の神話4

 いつのまにか、壮年の王の姿は消滅していた。

ドームが開かれていき、あたりは太陽の光が射す中庭へと戻っていく。暗闇に目がなれたアダムは眩しさに思わず目を閉じた。

「父上の記憶を見せるのはここまで。……さすがに、頭の中をそう多くは覗かれたくないだろうからね」

 クリフは、わずかにさみしげな口調でそう言った。アダムは思わず戸惑った。

 クリフはいつも冷酷さの中に、寂しさを隠している。そう感じるからだ。

「ごめん、クリフ。そんな大切なものを見せてもらって」

 クリフの目が少しだけ揺らいだように見えた。クリフは少しだけ笑って言った。

「……いいんだ。君は友達だから、当然だよ」

 アダムがそれに返す言葉を探しているうちに、クリフは言葉をつづけた。

「父上はそれから躍起になり、大陸すべてのヤドリギの下を掘り起こし、ヨグ・ソトースの屍を探し、一年をかけて発見。そして、それと同時に出てきた古代神官の記憶を使い、過去に行われていた《殲神の儀式》を再現しようとした」

「殲神の儀式……?」

「ああ。古代王の姿を見たとき、彼の腕に刻印があっただろう? 彼は、ヨグ・ソトースと契約し、その眼球を自らの心臓のそばに埋め込んで、力を得ていたんだ」

「あの、若い王様が!?」

「刻印はその契約の証。だが、いまだ細胞が鼓動を続けていようとも、既に屍のヨグ・ソトースは人間と話せないからね。契約を交わすことなど不可能だ。だが、古代王とヨグ・ソトースの契約の仕組みを知った時、それを科学技術で再現可能だと知った。」

「契約の仕組み?」

「ああ。ヨグ・ソトースの記憶と自分の記憶を共鳴させるんだ。実験台を使って何度も失敗したけど、前頭葉部分の脳細胞にヨグ・ソトースの細胞を移植する。そうすれば、自然と細胞融合が行われ、ヨグ・ソトースの細胞に適合する者たちが現れ始めた」

「それが、殲神だっていうのか……!?」

 アダムは思わず、自分の頭に手をやっていた。

 この中に、ヨグ・ソトースがいる? では、時折流れ込んでくる記憶の奔流は、僕のものなのか、それとも……。

「ヨグ・ソトースはその肉体の全てが脳細胞だと言っていい。しかも、その本質は記憶を収納する部分の前頭葉と酷似している。つまり、記憶によって体が構成されているのと同然だ。だからこそ、この細胞移植はうまくいった。でも、完全なる適合者はわずかでね、感情的な部分で、ヨグ・ソトースと共通するものを持っていなければ、不可能なんだ」

「待って。完全なる適合者とそうじゃない適合者がいるということなのか?」

「ああ。たとえば君はまだ、完全なる適合者じゃない。ほかのポーンたちと同じ、「たまたま」ヨグ・ソトースの脳細胞との周波が適合した者だといえる。それに比べ、異能に目覚めた《王駒》たちは完全適合者だ。何せ、ヨグ・ソトースの屍の細胞とほぼ一体化するほど、共鳴しなくては、彼の喪われた力を継承できないからね。」

 アダムは思わず、ガイアが手をかざして見た青白い光を思い出していた。

 ガイアは特別な殲神、《王駒》、つまり、ヨグ・ソトースの記憶に強く共鳴したということか。あの子はでは、一体何に共鳴したというのだろう……?

「ねえ、まだってことは?」

 クリフはふっと笑う。

「そう。完全適合者かどうかは、すぐにわかることじゃない。より強く、ヨグ・ソトースの中に眠る脳細胞の記憶と共鳴した者が細胞との完全融合を果たし、ヨグ・ソトースの喪われた異能力に目覚めることができる」

「より、強く……?」

「ああ、もちろん、本人の素質は重要だ。だがなぜか、アストラを多く殺した者はその共鳴指数が高まるようでね。ヨグ・ソトースの喪われた力は合計八つ。そして、能力に目覚めた王駒はまだ七人。だからこそ、より多くのアストラを狩らせ、残った能力に目覚めさせる必要がある」

「でも、王駒にそんな必要はないんじゃないの? だって、もう能力目覚めてるんでしょ?」

「王駒だって完璧じゃないよ。階級の高い者は、共鳴指数が高まり、かつてヨグ・ソトースが持っていた力とより同質の力を手に入れることができる。でも、まだ不十分だ。だから、完璧な覚醒者であるキングやクイーンを生み出すことはできていない」

 クリフは最後の言葉を恐ろしく冷たく言い切った。

「そのキングを作るために、あんなにも多くの数を狩らせてるの?」

「理不尽だって言いたい? 残念だけど、状況が状況だ。理不尽にならざるを得ないんだよ。君たちは臣民のための尊い犠牲だ。討伐数を重ね、努力してもらわないと。」

 尊い犠牲。幾度か発せられたその言葉にアダムは嫌悪感を抱く。

「状況って、アストラがあふれかえっていること?」

「ああ、それに、邪神の王は人の記憶や意識に干渉する力を持つ。殲神を作った日、邪神の王は僕の意識に干渉してきて、予言したんだよ。彼らもまた、地層深くにある魔岩と結びつき、力を強めている。……いずれかは、殲神も歯が立たなくなる日が来ると彼は予言した。僕は王として、この大陸に残された人々を守る必要がある。そのために、喪われた力を全て復活させ、一つに集結することのできる《キング》を作る必要があるんだ。」

「すべての力を一つにする……それがキング?」

「ああ、そうだよ。だから、討伐設定数を下げることなんてできはしない。人は、命がかかっていないと努力しないだろう? それに、粛清機能を使わなきゃ、まともに頼んだところで、誰も僕に従いもしないさ。」

 クリフの声は低くなる。華奢な肩が、いつもよりさらに細く見えた。




閲覧いただきまことにありがとうございます。

もし、お気に召しましたら、ブクマなどよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ