夕闇の死神
走り続けたアダムは森へとたどり着いた。先ほどまでいた荒野と違い、森林が生い茂り、ひたすらそこは静かだった。
茂みに隠れ、息を殺すアダムの目の前を、ぬめりとしたアストラの巨体が通った。アストラは二メートル近くある怪物だ。だが、その視界は、やや暗い場所に入ると鈍る。
アダムはアストラが通り過ぎるのを待ってから、ホログラムで討伐設定数を確認する。
残り80。残り一時間。どう考えても間に合わない。だが、武器なしではもはや、どうにもならない。下手に出ていき、殺されるのがおちだ。
アストラは専用討伐武器『神の牙』でなくては殺せない。
森に隠れ、制限時間は刻一刻と過ぎていく。
粛清による死。それを意識したアダムは、体中の血が冷えていくような感覚に陥った。アダムは実際に、そうやって死んだ友を目にしたことはない。彼らは別地区に行っているときに死に至り、どのように「そのとき」が訪れたのかを知る方法がなかったのだ。
膝を抱えたアダムは心臓の鼓動が高鳴るのを感じる。
僕は一体、どんな風に死ぬのだろう?
ギギ……。ギギギギ!
頭上からその音がして、アダムははっと上を見上げた。するとそこには、頭部から無数の触手を突き出し、今にもアダムを貫かんとする怪物がいた。
アダムは口を開け、何かを叫ぼうとした。だが、その叫びの前に、銀の光が目の前に現れた。
夕暮れの赤い光を反射した白い大鎌がアストラを切り裂く。そして、銀色の長い髪をした少年はこちらを振り返る。
王駒、ガイアだ。でも、なぜ僕を? アダムが思考を整理するのを遮るかのように、ガイアは言い放つ。
「一緒に来て」
そしてアダムの腕をつかむ。
「ちょっ、ちょっと待って!」
アダムは腕を掴まれたまま、ガイアと共に走っていった。