私達のスタート
一人暮らしを始めた。ウキウキした気持ちは三日で消えた。会社も、楽しそうなカップルも、何もかもが恨めしい。友達とはいつの間にか疎遠になった。彼氏なんて元々いなかったし出会いもない。家族に頼る気もなければ実家に帰るのも嫌。いつの間にか私はたった一人になっていたのだ。
洗濯機にたまりきった洗濯物をぶちこんでやった。ぐわんぐわんと全身を揺らしながら多すぎる洗濯物を洗っている。洗濯機なのだからそれくらいやれよと思う。
埃っぽい床に掃除機をかけた。お手入れサインが出たけど放置してやった。お手入れお手入れ。すぐそうやって手間を、仕事を増やすのだ。もう少し頑張れよ。
テレビをつけた。録画してるもの、もう随分チェックしてないと思えばもう容量がいっぱいで見たかったはずの映画は最初の10分で切れていた。肝心なものが何も撮れてないじゃないか。何のためにお前はいるんだよ。
イラついて冷蔵庫の中からコーラを取り出した。炭酸の抜けた甘い水。今度こそ投げ出したくなった。
ぐわんぐわん。洗濯機が回る。掃除機のお手入れサインが見える。容量不足の注意書が見える。気のないコーラが目の前にある。
掃除機のごみ受けを外してやる。中には圧縮され、どうにもならないゴミが行き場を失って舞い上がった。
録画内容を見てみた。どうでもいいものが多くて残量はなし。見る気もないものは片っ端から消した。
洗濯機を止め、中の洗濯物を半分出してみた。カゴに溢れ返った洗濯物はほとんどまともに洗えていなかった。
私はもう一度スタートボタンを押すと、コーラを持って洗濯機にそっと背中をもたれさせた。
「私達は似た者同士だね。改めてよろしくね、私達」
炭酸の抜けたコーラを飲み干した。
口のなかに初めて広がる爽やかな甘味に、私は微笑みながらそっと目を閉じた。洗濯機の音が初めて聞くみたいに新鮮だった。
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