踊る心は走馬灯のように一瞬にして過ぎ去る
読んで頂いて、有難うございます。
ジャンルを完全に間違えた、筆が進まん。
「また来ました」
そう言って約束どおりアデルは明日にやって来た。
「……どうも」
「まだ怒っていますか?」
「……怒って無いです」
自分の気持ちに気付いたリンファは急にしおらしくなってしまった、彼女の持前の元気さや笑顔はそこには無かった。
ただ一人の少女として恋をしたのだ。
「ねぇ……アデルさん、少し話をしませんか?」
そう自分から話しかけるのは初めてのことだった、アデルは優しそうな顔で頷いてくれた。
故郷のこと、砂漠のこと様々な町のこと。
リンファは自分にはまだ知らない世界が広がっている事を話してくれた、そして話を聞いていくうちにそんな旅を続けているアデルが羨ましくなった。
「貴方の故郷の花を見て見たいわ」
「それはいい! 一緒に観に行きましょう」
リンファの軽い冗談にも真面目に付き合ってくれる、そんな彼とのやりとりが余りにも楽しくて時間がすぐに過ぎて行くことに気付けなかった。
結局夕方まで話し続けた二人はその一瞬にして過ぎた時間を惜しむように別れるのだった。
「……もうこんな時間ね」
「はい……あっという間でしたね」
昼から話していたのにこんなにも時間が早く進むなんて初めてのことだった、リンファはまた会える事を願ってこちらから提案をする。
「ねぇアデルさん、明日また来てくれますか」
その質問にアデルは驚きながらも一つ間をおいて答えた。
「えぇ、私がこの街にいる間毎日貴方に会いに行きます」
毎日これから会える、その返事はリンファを満足させるには十分だった。
「明日はこの街を紹介してあげる」
だからそんなアデルに対してリンファはデートの約束をする、勿論のこと彼は二つ返事で答えてくれた。
その後も毎日毎日飽きもせず、リンファとアデルは二人で会い、他愛の無い話をしながら過ごしていった。
そんな日が二週間づついた、リンファはずっとこんなに楽しい時間が続くと思っていた、だから彼から話を聞いた時最初その意味が分からなかった。
「ねぇリンファ、僕と一緒に故郷について来てくれないか?」
その提案は二週間後に唐突に言われた。
「どうして? アデルはまだいるんでしょう?」
「そうなんだけど、僕がこの街にいられるのも後一週間なんだ」
一週間、その時間がリンファにとって目の瞬きと同じくらい早く進むだろうことは予感していた。
「……後一週間」
「そう、だからリンファ……君も僕と一緒にきてくれないか? 君と離れたく無い」
その言葉はリンファにとって舞い上がるほど嬉しいものだった、けど……
「アデル、ついて行くことはできないわ」
「なんで!」
思わずアデルは声を張り上げた、アデルの心の奥底ではついて来てくれると思っていた。
「貴方との毎日は今までの退屈な毎日を心踊るくらい楽しい日々に変えてくれた」
「じゃあ……」
「それでもこの街を、お父さんやお母さんを見捨てて離れることはできないわ」
リンファの家は確かに裕福だった、だが今でさえ家族全員で手伝いながらお店を切り盛りして来たのだ、リンファが居なくなった後を思うと心配になるのは親の子として当然だった。
「そんな……」
「だから、ごめんなさい貴方について行くことはできないの」
その言葉はアデルを絶望させた、離れるという現実が信じられなかった。
「私もアデルとは離れたいくない、アデル……この街に残ってくれないの?」
逆にリンファから質問をした、アデルなら残ってくれるそう信じている部分が存在して居た。
「……すいません私にも帰りを待つ両親がいます」
「……そんな……そうよね」
リンファがこの街を離れられないように、アデルにも故郷に両親を残していた。
結局二人はそのまま暗い心のわだかまりを残したまま一週間の日々が過ぎていってしまった。
最終日、あの初日に会った時と同じように燦々と照りつける太陽に焼かれながら、二人は街の入り口で別れを済ました。
「……本当に行ってしまうの?」
「……ごめんリンファ、必ず戻ってくるから」
「戻ってくるっていつ?」
「……早くても一年」
「一年……」
「絶対に戻る! だから待っていてくれ!」
青い瞳で懇願する彼をリンファは直視できなかった、一年会えない、それはリンファの中では堪え難い期間を示していた。
「貴方に恋した私がバカだった」
「……」
「ありがとう、『アデルさん』」
「!」
そう言ってリンファは踵を返しアデルの事を見送る事なく帰っていく。
——どうして、どうしてあんな人を好きになってしまったの——
——悔しい、心の中にあの人の記憶が剥がれ落ちない——
——そんなに簡単に『好き』だなんて言わないで——
彼に背を向けたリンファは猛烈に彼といた日々がフラッシュバックしていた、彼女の初恋。
いつもよりも遅く、彼に背を向けて歩いて行くスピードはどんどん落ちていった。
「リンファさん!」
大声で周りの事も考えずアデルは叫ぶ、リンファは振り返らなかった。
「絶対に! 絶対に戻って来ます! だって! ……だって!」
——貴方が好きだから!——
太陽が照りつけて、陽炎が出来るくらい暑いこの場所で。
リンファが振り返って見たものは幻なのだろうか……
私と同じように、恥も外聞も憚らず。
泣き崩れるようにして叫ぶ彼の姿が私にはとても愛しいと感じた。




