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参考文献を読む(四)――『聖書』……物語形式と文語訳と――

 ヨーロッパの文化・芸術に影響を与えているものとして、『聖書』があります。ヨーロッパだけではなく、世界中に影響を与えていますが、全て読み通すのはなかなかたいへんです。まずは、ということで、購入したのが以下の書籍でした。


[一]

『聖書』/插画:ギュスターヴ・ドレ、訳・構成:谷口江里也/JICC出版局


この作品は、『聖書』を基に物語として再構成されたものですので、物語ではない部分(『詩篇』など)は省かれています。また、物語の部分も全てが含まれているわけではなく、細かい部分(供物の数など)も省かれています。『聖書』に目を通そうと思って購入したのですが、どちらかといえば、ギュスターヴ・ドレの挿絵のほうが主たる目的でした。この当時、ギュスターヴ・ドレの絵を気に入り、作品を探していましたので。


    ◇


 その後、本格的な資料として購入したのが以下です。


[二]

『舊新約聖書 文語訳 JL63』/一般財団法人 日本聖書協会


文語訳です。口語訳ではありません。文語訳を選択したのは、こちらのほうが音の響きが心地よい、という思い込みからです。確かにそうなのですが、耳から聞くのと実際に読むのとでは大きな差がありました。読む際に幾つかの壁に直面したからです。


 第一に、使われている漢字が旧字体です。例として、「虫」は「蟲」と表記されています。新字体と差が少ないものも多いのですが、中には一見しただけではどの漢字に相当するのか判別しづらいものあります。それでも前後の文字から類推することは可能ですので、少々ひっかかりを感じる程度ではありますが、そのひっかかりも数が多くなると読むのも疲れてきます。


 第二に、ひらがな部分が歴史的仮名遣いで書かれています。文語訳なので当然と言えば当然ですが、ルビも歴史的仮名遣いで振られています。例えば、「(なんじ)」は「(なんぢ)」、「(おう)」は「(わう)」とルビが振られています。ルビは本文に比べて小さな書体ですので、読むときに戸惑うことがありました。前項とも関連しますが、ほぼ全ての漢字にルビが振られていますので、読めない漢字というのは基本的にありません。意味をとれるかはまた別の話ではありますが。


 第三に、句読点、および、発話を表すかぎ括弧は原則として使用されていません(注:『旧約聖書』の場合。『新約聖書』では使用されている)。読点(『、』)については、カタカナの名称が連続する際にそれらを区切るために使用されていますが、その他の部分では使用されていません。地の文も発話の文も連続して書かれています。この書き方は日本の古典作品とほぼ同様だと思います。読み慣れないと、地の文と発話の文との区別がつきません。地の文の「~いひけるは」の部分から、誰かの発言が始まることはわかるのですが、どこで終わるのかを見つけられないことがしばしばありました。


 結局のところ、読むのに挫折しました。『創世記』の半ばまでは読み進めたのですが、そこまでが限界でした。読んでいるうちにわけがわからなくなり、そのうち目の前が暗くなり、舟をこぐ始末。本棚の飾りになってしまいました。その後も幾度か読もうと挑んだのですが、そのたびに挫折。本棚の一角を占めたままの状態が続きました。


    ◇


 つい最近、といっても何年か前になりますが、文語訳の聖書が文庫本で出版されていることに気づきました。それが以下です。


[三]

『文語訳 旧約聖書 Ⅰ 律法』/岩波文庫

『文語訳 旧約聖書 Ⅱ 歴史』/岩波文庫

『文語訳 旧約聖書 Ⅲ 諸書』/岩波文庫

『文語訳 旧約聖書 Ⅳ 預言』/岩波文庫

『文語訳 新約聖書 詩篇付』/岩波文庫


書店で『文語訳 新約聖書 詩篇付』を見かけて、すぐに購入し、その後、『文語訳 旧約聖書 Ⅰ 律法』も出版されたため購入し、以降、全て購入しました。これらも文語訳ではありますが、漢字が新字体に改められているため、その分だけ読みやすくなっていると感じます。ですが、句読点、かぎ括弧、歴史的仮名遣いについてはそのままですので、読みづらいことには変わりありません。これらも、購入はしたものの積ん読の状態が続いていました。


 ですが、最近(二〇一九年〇五月頃)ふと思い立ち、『文語訳 旧約聖書 Ⅰ 律法』から読み始めました。すると、以前よりも読めるという感覚があり、現在(二〇一九年〇六月)、『文語訳 旧約聖書 Ⅱ 歴史』の半ばまで読み進めています。ようやく、ソロモン王の登場するところ(『文語訳 旧約聖書 Ⅱ 歴史』の「列王紀略上」)まで読み進めました。もう少しで「シバの女王」が登場します。漢字が新字体であることと、文庫であることとが読みやすさに繋がっているのかもしれません。


 文語訳の聖書は、前述のとおり、本文は句点(『。』)無し、読点(『、』)については一部を除いて無し、かぎ括弧無しです。この本文をどのように読んでいくかが問題です。まずは原文です。


――――

元始(はじめ)(かみ)天地(てんち)創造(つくり)たまへり  ()定形(かたち)なく曠空(むなし)くして黒暗(やみ)(わだ)(おもて)にあり(かみ)(れい)(みづ)(おもて)(おほ)ひたりき  (かみ)(ひかり)あれと(いひ)たまひければ(ひかり)ありき  (かみ)(ひかり)(よし)()たまへり(かみ)(ひかり)(やみ)(わか)ちたまへり  (かみ)(ひかり)(ひる)(なづ)(やみ)(よる)(なづ)けたまへり(ゆふ)あり(あさ)ありき(これ)(はじめ)()なり

――――

  ※「創世記」――『文語訳 旧約聖書 Ⅰ 律法』/岩波文庫――より抜粋

  ※節番号を省略


句読点もかぎ括弧もありません。実際の紙面では節番号が振られているため、文と文との間に若干の空白部分があり、それらを頼りに文の切れ目を探しています。読もうと思えば読めなくもありませんが、読みづらいことには変わりありません。


 前述の原文に、頭の中で以下のように句読点やかぎ括弧を補っていきます。以下は例ですので、これが正しいかは何とも言えません。


――――

元始(はじめ)に、(かみ)天地(てんち)創造(つくり)たまへり。  ()定形(かたち)なく、曠空(むなし)くして、黒暗(やみ)(わだ)(おもて)にあり。(かみ)(れい)(みづ)(おもて)(おほ)ひたりき。  (かみ)、「(ひかり)、あれ」と(いひ)たまひければ、(ひかり)ありき。  (かみ)(ひかり)(よし)()たまへり。(かみ)(ひかり)(やみ)(わか)ちたまへり。  (かみ)(ひかり)(ひる)(なづ)け、(やみ)(よる)(なづ)けたまへり。(ゆふ)あり、(あさ)ありき。(これ)(はじめ)()なり。

――――


 初めのうちは、本文を読み、句読点とかぎ括弧を補いながら読み、再び読み、ということを繰り返していましたので、普段の約三倍の時間を要していました。ですが、読んでいるうちに慣れるもので、ほぼ一度で読めるようになっていきました。それでも読み取れない箇所はありますので、その箇所については何度か読み返すのですが、それでも、どうしても意味をとれない箇所もあります。そのようなときは、後ろの部分を読めば理解できるだろう、と予想して、飛ばして読み進めます。取り敢えず目を通すというのが目的ですので、細かいことは気にしない……。


 全巻を読み終える頃には、古文らしきものを書けるようになれれば嬉しいなあ、とも思いつつ……。


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