レベルアップ……(脱線)
『ステータス、レベル、ジョブ、スキル、……』の回の二人を想定しています。
「あれ、まだ勉強されて……。ということは、試験、受からなかったのですか?」
「ん、試験? ああ、受かったぞ。」
「それは、おめでとうございます。でも、試験に受かったのに、何故まだ勉強されているのですか? 復習ですか?」
「ああ、これな……。」
「何か、あったのですか?」
「この前の試験に合格したから、部長のとこに資格取得奨励金の申請書類を出しにいったんだよ。あんのタコ部長のところにな。そうしたら、あんのタコ部長、なんて言ったと思う?」
「さあ、何とも……。」
「『やればできるじゃないか、この調子で頑張り給えよ。資格を取れば君の評価が上がる、君を部下として持つ俺の評価も上がる、いいことばかりじゃないか』だとよ。」
「ああ……、あの部長でしたら言いそうですね。それで、それと試験勉強とが何か関係があるのですか?」
「タコ部長の話には続きがあってな、『この勢いだったら、次のレベルも受かるんじゃないのか?』などと宣いやがった。『君の実力なら簡単だろう』だと。ニヤニヤ笑いながら宣いやがった、あの狸親父。思い出しても腹が立つ。」
「部長がそう言えば、試験を受けられるということを、部長はわかってらっしゃるのではないのですか?」
「ああ、わかってる。俺は、狸親父なタコ部長の掌の上で踊らされている、というのはわかってる。わかってるだけに、無性に腹が立つ。」
「部長もそのことはわかってらっしゃるのでは?」
「そこもわかってる。タコ部長の思い通りに俺が動いているのだろうってこともわかってる。だから、腹が立つってもんだ。」
「そうですか……。」
「あぁあ、簡単に知識を頭に入れることができればなぁ。ソフトウェアをインストールするみたいに、知識を得られれば、どれだけ楽か。誰でも専門知識を手に入れられれば、こんなに苦労することもないんだろうな。」
「でも、それだと、私たちみたいな技術職の人間は要らなくなってしまいませんか? 誰でも専門知識をインストールできるのでしたら、専門知識をわざわざ苦労して得ようなんてことはしなくなりますよ。インストールするための知識を作るためには、それ相応の知識は必要ですから、技術職の人間そのものが要らなくなることはないと思いますけど。」
「だよなぁ。知識を得るには楽にはなるかもしれないけど、別のところで苦労することになるんだろうなぁ。知識は得られても、知恵は得られないかもしれないしな。知識も技術も、地道に身に付けていくしかないんだよな。部長には腹が立つが、仕方ない。」
「次の資格試験の出題範囲は、広いのでしたっけ?」
「広いぞ。それぞれの章の内容で、一冊ずつ専門書が出版されているくらい広いぞ。全部の章の専門書だけで……、何冊になるんだ? というくらいには広いぞ。」
「それは……、たいへんですね。」
「たいへんはたいへんだが、そうでもない。」
「と言いますと?」
「それぞれの分野のほんの少しの基礎的な内容が出題されるだけだからな。深い内容は問われない。それだけに……、暗記科目なんだよ。わかるか? マニュアル見るほうが確実な内容のことばかり、言葉遊びみたいな問題ばかり。それに、問題文は日本語で読むよりも英語で読んだほうがわかりやすいという、この何とも言えない脱力感。」
「暗記は苦手だって仰っていましたね。英語のほうがわかりやすいということは、日本語訳がわかりづらい、ということですか? そう言えば、元の試験は英語でしたよね。それを日本向けに翻訳しているのですね。」
「一応、世界共通資格らしいから、英語が基本なんだよな。日本に居るから日本語で試験を受けられるが、如何せん、翻訳がいまいち。翻訳にあまり手間暇かけていないらしい。機械翻訳とまではいかないが、それでも、普通の日本語よりは読みづらい。特に、修飾語と被修飾語との関係がわかりづらい。こんなところで、英語と日本語では言語の構造が違うんだってことを思い知らされるよ。」
「いろいろと文句を仰っていますけど、とても楽しそうですよ。普段よりも活き活きとしていて。」
「それはそれで、納得いかん。端から見ると、そう見えるのか?」
「ええ。前々からお話をうかがう限り、仕事は嫌いだと仰りつつ、ご自宅でも動作検証のようなことをされているみたいですし。」
「そうか、そう見えるか……。」




