原書に挑戦、……しかし、挫折
[1]
The Hobbit
J. R. R. Tolkien
HarperCollins
とある書店で表紙が目にとまりました。本の表紙にはドラゴンの姿が描かれています。そのドラゴンは、金銀財宝の上で前肢を組み、組んだ前肢の上に頭を置き、本を手に取る者を射貫くかのように目を向けています。全一冊でお値段も手頃でしたので、つい買ってしまいました。翻訳を読んだことがあったのですが、ずいぶん昔のことであり、内容もあまり覚えていなかったため、原書で読み直してみようと思い立ち、買った次第です。
子ども向けの作品なので、原書で読めるかと思ったのですが、間違いでした。まず、単語の意味がわかりません。英語の授業を受けたのは遠い昔のことであるためのせいもありますが、出てくる単語の意味がわかりません。情景や状況を説明していることだけは何となく想像できますが、細かいところまでは理解できません。次に、文章の構造を読み取るのに苦労します。関係詞やカンマなどが鏤められた文の中から修飾関係を把握するのに気を取られ、内容を楽しむどころではありません。英語の教科書に載っているような、整った文章というわけでもなく、作者の癖が強く出ている文章のため、なかなか読み進められません。そして、内容が理解できないため、同じ所を何度も読み返すことになり、しかし、内容は頭に入らず、結果として睡魔に襲われ、いつの間にか目の前が暗くなっていることが多々ありました。
技術文書(OSのインストール手順書や、各種設定、コマンドのマニュアル、など)については何とか読めるのですが、文学作品には歯が立ちませんでした。そもそも、使われている語彙も異なりますし、文章の構造も異なります。技術文書ではそれほど難しい単語が使われず、たとえ使われていたとしても専門用語であり、それらを覚えてしまえば読み進めるのにそれほど苦労はしません。
結局、原書の第一章も読み終えることもできず、そのまま読み進めることを諦め、翻訳を読みました。
翻訳:
『ホビットの冒険』上、下
訳:瀬田 貞二
岩波少年文庫
[2]
Alice's Adventures in Wonderland and Through the Looking-Glass
Lewis Caroll
Bantam Classic
懲りもせず、二作品めです。この作品は小さな書店でも置いてあることが多く、常備しているのかと思うほどによく目にします。二作品で一冊に収録されているものが多いようです。購入した本は、子ども向けのレーベルではないようで、活字も細かくみっしりと印刷されています。その分ページ数も少なく、"Alice's Adventures in Wonderland" だけで約百ページでしたので、これなら何とか読み進められるだろうと淡い期待を抱きました。
"Alice's Adventures in Wonderland" だけを読みました。というより、文字を目で追いました、というほうが正確でした。今までこの作品を読んだことはなかったのですが、内容については何となく知っていたため、このようなことが書いてあるのだろう、と推測しながら読み進めました。ですが、作品の本質ともいえる、言葉遊びや奇想天外な内容についてはあまり読み取れませんでした。
原書を読み終わり、読み取った内容の答え合わせのためと思い、翻訳書を購入しました。翻訳書を読んでみたところ、原書を読んでおおよそ半分くらいは読み取れていたのかなというような感じでした。"Through the Looking-Glass" については、原書で読むのを諦め、翻訳書を読みました。原書では二作品で一冊なのですが、翻訳書では一作品一冊です。何だか腑に落ちないものを感じますが、翻訳書二冊の値段と原書一冊の値段はあまり変わらないため、そういうものなのかと思いました。
翻訳:
『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』
訳:脇 明子
岩波少年文庫
[3]
When Marnie Was There
Joan G. Robinson
HarperCollins
この作品も常備リストに入っているのか、購入後しばらくして書店を訪れたところ、補充されているのを確認しました。常備(?)されているのは、映画化されたのが原因かもしれません(映画は観ていません)。海外の作品であるにもかかわらず、裏表紙に『アニメーション映画化された』旨の宣伝文句が印刷されています。この点でも驚きです。本の表紙には二人の少女のイラストが描かれています。葦原に佇む二人の少女の内、向かって左側に描かれた一人(主人公)には影が描かれているのですが、向かって右側の一人は影が描かれていません。本を開く前から登場人物の素性を暗示しているようです。
三度目ということで、原書だけを読むのを諦め、翻訳書(角川文庫版)を同時に購入しました。原書の章を一つ読み進めるごとに翻訳書でも同じ章を読むことで、随時答え合わせしながら読み進められるという思いからでした。
……半分ほどで挫折しました。原書では、自由間接話法を使用した書き方が多用されており、主人公の心の内を描いています。が、そこを読み取るのに苦労し、物語を追いかけられなくなり、挫折しました。英文法書で読んだだけでは、実際の文章を読み進めるには練習が足りないと痛感しました。原書を読むのを諦め、原書で読んだところから先の部分は翻訳書(角川文庫版)を読んだのですが、答え合わせのときから感じていた、文体についての違和感から、改めて別の翻訳書(岩波少年文庫版)を購入し、初めから読み直しました。こちらの翻訳書は、違和感なく読み進められました。
翻訳:
『新訳 思い出のマーニー』
訳 越前 敏弥、ないとう ふみこ
角川文庫
『思い出のマーニー』上、下
訳:松野 正子
岩波少年文庫
結論のようなもの:
原書をすらすらと読むには、それなりの語彙と文法知識が必要で、それらは一朝一夕では身につくものでもないため、地道な練習が必要であることを思い知らされた次第です。
海外の作品は、翻訳書を読み比べるという楽しみもあります。同じ作品でも翻訳が異なると別の作品かと思うほどに異なる印象を受けることがあります。翻訳権独占の作品では比較して楽しむことはできませんが。また、誤訳を探すのもおもしろいです。翻訳を読んで何となく意味の通じないところがあったりした場合に、原文を参照すると、そういうことだったのか、というのがたまにあります。




