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直接話法、間接話法、自由間接話法

 『日本語文法』の回の後書きに挙げました英文法書(後書きを参照)を読み進めています。読んでいるだけで、学習しているわけではありません。今まで一度も全てのページに目を通したことがなかったので、この機会に一度目を通してみようと思い、読み進めています。座って読むとすぐに睡魔に襲われるため、主に列車の中で立った状態で読んでいます。購入時(何年前だろうか……)よりは、楽に読み進められるので、そのときよりは英語を読む力はついたのだと信じたいです。


 その英文法書を読んでいたら、"Free indirect speech" の項目に行き当たりました("Free indirect speech" 自由間接話法)。英文法書に載っているとは思ってもみなかったのですが、よくよく考えてみれば、載っていてもおかしくはないのかと。英語の小説は英語の文法に則って書かれているので、外国人学習者向けの英文法書に載っていて当然かもしれないと思い至りました。


 "Free indirect speech" の説明ですが、以下のようになっていました。説明に続いて、例文が載っています。


Longman English Grammar p.298 より抜粋:

--------

15.27.3 'Free indirect speech'

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The following is an example of fiction in which indirect speech is freely woven into the narrative to reveal a person's thoughts, motives, etc.:

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Opening his case he found a handkerchief inside it. It was certainly not his, for the initials M.D.B. were stitched into the corner. So that was their little game, he thought. Someone had opened his case to plant this evidence. But how did they open the case? How did they even know the case was his, he wondered, as he slowly unfolded the dead man's handkerchief.

--------


上述の例文を訳してみます。


【試訳1】

----------------

スーツケースを開けた彼は、中にハンカチがあることを発見した。そのハンカチは確かに彼のものではなかった。なぜなら、隅には M.D.B. の頭文字が飾り縫いされていたためだった。これは彼らが仕組んだちょっとしたゲームなのかと彼は考えた。誰かが彼のスーツケースを開け、証拠の品をねじ込んだ。だが、彼らはどのようにしてスーツケースを開けたのだろうか。そして、どのようにして、そのスーツケースが彼のものであることを突き止めたのだろうかと、彼は、死んだ男のハンカチをゆっくりと広げながら、思いを巡らせた。

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【試訳2】

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スーツケースを開けた彼が目にしたのは、一枚のハンカチだった。そのハンカチは明らかに彼のものではなかった。ハンカチの隅には頭文字 M.D.B. が飾り縫いされていた。これは、奴らが仕掛けたちょっとしたゲームなのだろうか、と彼は考えた。誰かが彼のスーツケースを開け、証拠の品をねじ込んだ。しかし、奴らはどうやってスーツケースを開けたのだろうか。それに、いったいどうやって奴らは彼のスーツケースを探し当てたのだろうか。死んだ男の、折りたたまれたハンカチを広げながら、彼は思いを巡らせた。

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【試訳3】

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スーツケースを開けた彼が目にしたのは、中に入っていた一枚のハンカチだった。そのハンカチは明らかに彼のものではなかった。なぜなら、ハンカチの隅には頭文字 M.D.B. が飾り縫いされていたためだった。さてと、今のこの状況は、奴らが仕掛けたちょっとしたゲームということか。彼は思案した。誰かが俺のスーツケースを開けて、証拠の品をねじ込んだ。だが、奴らはどうやってスーツケースを開けた? それに、いったいどうやって奴らは俺のスーツケースを探し当てた? 彼は思いを巡らせた。死んだ男のものだった、折りたたまれたハンカチを広げながら。

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【試訳4】

----------------

スーツケースを開けた彼が目にしたのは、中に入っていた一枚のハンカチだった。そのハンカチは明らかに彼のものではなかった。なぜなら、ハンカチの隅には頭文字 M.D.B. が飾り縫いされていたためだった。――さてと、今のこの状況は、奴らが仕掛けたちょっとしたゲームということか――。彼は思案した。――誰かが俺のスーツケースを開けて、証拠の品をねじ込んだ。だが、奴らはどうやってスーツケースを開けた? それに、いったいどうやって奴らは俺のスーツケースを探し当てた?―― 彼は思いを巡らせた。死んだ男のものだった、折りたたまれたハンカチを広げながら。

----------------


ミステリー小説の一節を模した例文のようです。試訳してみたのですが、誤訳がありましたらお許しください。いずれにしましても、自由間接話法の部分をそれらしく日本語に置き換えるのは、私の今の英語力と日本語力では不可能でした。どのように考えても、三人称に一人称が混ざったようにしかできませんでした。自由間接話法を表現するのであれば、ダッシュ ”――”や、かっこ ”()”で囲むほうが無難のような気がします。ダッシュやかっこがあれば、その部分は地の文ではないということは読む側に伝わるかと思います。


 英文法書とは別に読んでいる、ヴァージニア・ウルフ作の『灯台へ』も、自由間接話法を駆使しているとみられます。原書を確認したわけではないので確証は無いのですが、ほぼ全ての登場人物たちの心情が書かれており、それらの部分が自由間接話法を使用しているとみられます。読み進めていると、時折、誰の心情なのかと混乱し、前に戻って確認することがあります。おそらく、それが作者の狙ったところなのでしょう。


※『灯台へ』は、文字充填率(前回を参照)百パーセントのページが頻出します。複数の登場人物たちの心情を書くという点でも、現代日本の新人賞などでは即落とされるかもしれません。


 間接話法や時制に関する文法が英語ほどには厳しくない日本語に於いて、自由間接話法を使用するのは、不可能ではないにしても、困難だという印象を持ちました。日本語で自由間接話法を表現するのであれば、ダッシュ ”――”や、かっこ ”()”で囲み、囲んだ部分は直接話法のように書くのが無難かもしれません。ありきたりの結論ではありますが。


参考文献:


[1]

Longman English Grammar

著: L. G. Alexander

Longman


[2]

『灯台へ』

著:ヴァージニア・ウルフ

訳:御輿 哲也

岩波文庫


[3]

『物語論 基礎と応用』

著:橋本 陽介

講談社選書メチエ


[4]

『日本語の謎を解く―最新言語学Q&A―』

著:橋本 陽介

新潮選書


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