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下書き(二)

前回からの続きです。

 ノートに書くのであれば、筆記具が必要になります。ボールペンでもよかったのですが、シャープペンシルを選択しました。特に根拠があったわけでもありません。敢えて言えば、書き心地が好みだったということくらいです。加えて、下敷きを購入しました。「硬筆習字用の柔らかい下敷き」です。字面(じづら)だけ読むと、何じゃそら、という下敷きですが、通常の固い下敷きではなく、ふにゃふにゃの下敷きです。これを下に敷くと、ペンの滑りがよくなるのと、ノートを曲げた状態でも書けるのとで、非常に重宝します。文房具店ではB5版とA4版とが売られていましたので、A4版を購入し半分に切って使うことにしました。


 ノート、ペン、下敷きを準備できたところで、下書きを始めました。すると、PCの前で指が動かなかったのが嘘のように筆が進みました。「下書きが終わったら清書するのだから、何か変なところがあってもそのときに直せばいい」という思いから、気が楽になったのかもしれません。第一章は情景描写を後回しにして、まずは戯曲のような形式で登場人物たちの会話だけを書いていきましたが、それこそ、するすると書くことができました。頭で考えた文章を書いていくのですが、手がもっと速く動けばと感じたくらいです(速記を勉強しておけばよかったとそのとき思いました)。


 手書きで下書きを始めて思い知ったのは、漢字を書けなくなっていた、ということでした。簡単な漢字さえ書けずにしばしば手が止まりました。ですが、いちいち調べるのも面倒です。書けない漢字については清書するときに漢字にすればいい、と割り切ることにし、ルビだけをふったような状態にして先に進みました(ノートを見返したら、一例として「爪」という漢字が書けず、ルビだけを書いたようにしている箇所がありました。今でも「爪(つめ)」と「瓜(うり)」とは、どちらがどちらだか迷うのですが……)。


 さらに思い知ったのは、「普段、PC上で文章を作成するときは、取り敢えず思いついた文章を作って、後から切り貼りしていた」、ということでした。手書きでは切り貼りの手法を使えません。使おうとすれば、消した後で書き直す必要があります。下書きの際は消しゴムで消さないと決めていたので、切り貼りの手法を擬似的に再現するとなると、矢印を使用して文を繋げ直したり、番号をふったりということになります。ただ、それも多用すると非常に見づらくなります。なので、文章をある程度頭の中で考えてから書き記すことにしました。「考えてから書く」という、当然と言えば当然のことなのですが、手書きをする機会が減っていたため、改めて認識した次第です。


 第一作の下書きは、ノート(A5版、6ミリ幅、30枚綴り)八冊で約二百ページになりました。一行あたりの文字の密度が低かったためにこれだけのページ数になりましたが、横書きにしていたとしたら、さらに少ないページ数になったはずです。下書きに要した期間は、約三ヶ月でした(二〇一六年八月半ばから同年十一月にかけて作成)。この期間が長いのか短いのかは、何とも判断しづらいものがあります。四六時中、執筆しているわけではありませんでしたので。


 手書きで下書きする利点として、物語の内容が頭の中にほぼ入る、というのがあります。文章を作成する際に、キーボードで入力するよりも手書きのほうが頭を使っているような感じです(これは個人差があるかもしれません。あくまで、個人的な感想です)。「あのとき、あの人物が、どのような発言をしたか」のようなことが頭に入りますので、物語全体を通しての大きな矛盾は発生しないと思われます。また、紙(ノート)に書いているので、濡れて読めなくなるということは、まずありません。水性のボールペンを使用した場合はその限りではありませんが、油性のボールペンや鉛筆(シャープペンシル)を使用する限りは、紙を乾燥させれば読めるでしょう。


 手書きの欠点としては、時間と手間がかかるということがあります。単位時間あたりに書ける文字数は、キーボード入力に比ぶべくもありません。一文字一文字、手で書いていくのですから、言わずもがなです。また、ノートが複数冊になりかさばるということがあります。ノートに含まれるページ数が少ないと、下書きに要する冊数が増えることになり、場所を取ることになります。ですが、これは欠点とは言えなくもありません。前述しましたように、水に濡れても乾かせば読めるからです。


※マシンの中のデータは(PCの不具合などで)いつか破壊されるかもしれないという不安がつきまといます。定期的にバックアップを取得すればそれはよいのですが、今度はバックアップ先の媒体のことも心配する必要が出てきます。クラウド上での保管は、情報漏洩などセキュリティ面が心配です。心配しすぎかもしれませんが。


 結局、自分にとって最良の方法を模索するよりほかにないのかもしれません。


「下書き」は、今回で終わりです。

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