会話の始まりを表すかぎ括弧を字下げするか否か
書き方について述べたエッセイや、書き方指南のサイトを見ると、「会話の始まりを表すかぎ括弧については字下げしない」と書かれているものが多くあります。中には「これが規則だ」というような強い論調のものもありますが、あまり気にしなくてもよいのではないかと思っています。作品によっては、かぎ括弧を字下げしないことによって要らぬ混乱を招く可能性があります。
会話の始まりを表すかぎ括弧を字下げしない場合、特に、組版せずにテキストデータをほぼそのまま Web 上で表示するような場合、以下の二つの区別がつかなくなります。
[A] 純粋に、会話の始まりを表すかぎ括弧の場合
[B] 地の文の中に含まれるかぎ括弧が、画面の表示上、偶然、行頭に来た場合
会話の始まりを表すかぎ括弧を字下げしない状態で組版されている書籍でも、よくよく見ると、上述の [A] および [B] は区別されて印字されています。[A] の場合は、かぎ括弧の上の部分に若干の空白(半角分の空白)がありますが、[B] の場合は、かぎ括弧の上の部分には空白がありません。
※詳しくは以下をご参照ください。
Requirements for Japanese Text Layout 日本語組版処理の要件(日本語版)
https://www.w3.org/TR/jlreq/
より、
Figure 71 Examples of positioning of opening brackets at line head. 行頭に配置する始め括弧類の配置例
組版では [A] および [B] の区別をつけられますが、テキストデータの表示に使用するフォントでは全て同じ全角文字のかぎ括弧となっているため [A] および [B] の区別がつかないのです。ですので、私が原稿を作成する場合は(投稿する場合も)、会話の始まりを表すかぎ括弧も字下げすることにしています。
会話の始まりを表すかぎ括弧を字下げしているのは、今では岩波書店くらいでしょうか。岩波文庫と岩波少年文庫では字下げされています。しかし、岩波文庫と岩波少年文庫でも、出版年代によって字下げの幅が異なります。少し前のものは「全角一つ分+半角一つ分」でしたが、今のものは「全角一つ分」となっているようです。古い版を新しい版に組み直したときに変更されているようですが、新しい版でも「全角一つ分+半角一つ分」となっているものもあるので、どのような基準で字下げ幅を決定しているのかは読み取れませんでした。
その他の出版社として、見つけられた限りでは、角川文庫の夏目漱石作品の一部で会話の始まりを表すかぎ括弧が字下げされています。出版年代を確認したところ、案の定、かなり前のものでした(昭和の中頃よりも前)。