ぜんっ然分からないっ!
脱兎の如く駆け出しテーブルの合間を縫う。
料理を運ぶリザおばさんをひらりとかわし、すり抜けざま葡萄酒をくすねる。
勢いそのまま、演武を停止してる駆け出し勇者に飛びかかる。
幹を駆けるリスのように素早く体をよじ登り、葡萄酒を顔にぶちまける。
怯んで緩んだ手から剣を奪い取った。
「ダメだモコちゃん!」
聞いたことのない強い語気でドルフが叫ぶ。
私はテーブルに華麗に着地してみせる。
「わっはっはっ。遂に手に入れたわよ、勇者の聖剣っ!」
高らか剣を掲げてみせた。
一瞬にして酒場の空気が張り詰める。
葡萄酒を浴びたアーノはバランスを崩し倒れ、目を回してしまったようだ。
うん。ちょっとだけ心が痛むよ。
「そうじゃない。そういうことじゃないんだ。正しく認められた者しか力を使うことは許されないんだよ。力は正しく使わなきゃただの暴力だろ。罰せられるべき罪なんだよ」
おやっさんの顔はひどく緊張して狼狽えていた。
そんなに悪いことなの?
「ぜんっ然分からないっ!」
全身を使って地団駄を踏もうとした。だが動かない。
――っ。
全身に針が刺さるような痛みが襲った。真冬の湖に突き落とされたように体が凍え、ガタガタと震える。
(モコにいったい何が起こったのか?続く)