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うっふっふ

「うっしゃーーーっ!!」両足を踏ん張り雄叫びを上げ自らに活を入れる。

 声援のボルテージも一層上がる。

 あぁーー、気持ちいい。

 ゾワゾワする歓喜に満たされ主役気分を堪能する。しかし徐々に取って代わる緊張で鼻息が荒くなっていく。

 意を決し汗ばむ両手でナイフの柄をがっしり掴む。体重を乗せて思いっきり引っ張る。奥歯を噛みしめ額に筋が浮かぶほど力を込めた。「ぐぎぎぎぎ」全身がブルブル震える。

 ナイフはピクリともしない。

「なんっでよっ!」

 声援は明らかに盛り下がっていく。

 ドルフは顔を覆うようにこめかみを押さえている。

「な。もう諦めなって……」

 何か言いたそうだが、その先を言い淀む。

「もう抜けそうよっ」

 そう言い返すだけで精一杯だった。

 おやっさんは微動だにしていないナイフに視線を落とす。

「才能もねえ夢追ったって辛いだけだろ?」

 グサリと痛いところを突き刺された。そんなことは自分でもとっくに気づいていた。

 随分はっきり言ってくれるじゃない。何年もずっとずっと続けて来たことを、それを『もう止めよう』なんて、どうすりゃ決めれるのよ。

「おやっさん言い過ぎだぞ」「モコちゃんだっていつか抜けるに決まってるだろ」

 とても温かい援護射撃だった。しかし運良く才能に恵まれ勇者になった連中の慰めは、余計に心を掻き乱す。

 才能って何なのよ?魔法でも使えりゃエラいわけ?

「無責任なこと言うんじゃねえ。見込みもねえのに希望持たせたって傷が深くなるだけなんだよ。バカどもが」

「バカとはなんだハゲジジイ」

「あぁ? 毛根焼かれてから出直して来いってんだ! ドラゴンも倒したことねえ青二才が!」

 ドルフと若い勇者たちの怒鳴り合いに酒場の視線は移っていく。

「そこの任務にだってドラゴン討伐はあんだぞ」

 ドルフは入口の脇で存在感を放つ壁掛け掲示板を指差す。

「ドラゴンや魔人は俺たち駆け出しの仕事じゃないでしょ……」

 また私を部外者扱いするわけね?

 緩んだ手がすっぽ抜け私は盛大に尻餅を突く。

 だが、もはや誰も私を気に止めていない。

 いいわ!やってやろうじゃないっ!

 くるりと体をひねってカウンターから飛び降りた。

 静かに目を閉じ、大地から大気から流れ込む力をイメージする。胸前の空気を両手で掴み力が収束するよう念じる。

 辺りは水を打ったように静まり返った。

 片目だけ開き周囲を窺う。

 酒場中の視線を奪還することに成功したようだ。

 おやっさんは呆れ顔をしていた。

「いやいや、出来ないでしょモコちゃん。出来ても使っちゃダメだけど」

 ――えへ。

 目が合ったおやっさんに舌を出して戯けて見せる。

 これから起こることの謝罪みたいなものだった。

 うっふっふ。こんなチャンス二度とないわ。


(余計なことを思いついたモコ、いったい何をしでかす気だ。続く)

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