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今日こそ見てなさいよっ!

「冷やしますかい?」

 おやっさんは愛想笑いを貼り付かせ、カウンター端の席でキザに足を組む男に麦酒を出す。

 飲んだことないから分からないけど、常温で提供されるビールを客の好みに応じて、リザおばさんが魔法で冷やしてあげることもあるようだ。

 しっかし、なんちゅう舞い上がるフェニックスだこと。復活神話でも再現してるのかしらね。

 カウンターの客は、目を覆いたくなるような派手な羽帽子を指先で軽く持ち上げる。とても理解しがたい美的感覚だが、そんなどぎつい帽子にも、しっかり翼剣紋章が金糸で刺繍されている。

 どいつもこいつも勇者様ってわけなのね。

 フェニックスは小指を立てた手でジョッキを覆い、軽やかなワルツのリズムで呪文を口ずさむ。

 指の隙間から覗く銀地が、みるみる白く濁りピキピキと悲鳴を上げた。

 その悲鳴を聞いて満足したようで、翼に抱いた財宝を披露するかのように大仰に腕を広げる。 ジョッキは水結晶を纏い白むオーラを発していた。

「聖武具の媒なしで見事な魔法制御だ。近頃じゃ道具任せにぶっ放すだけの若造ばかりで、こういう生かさず殺さずの美技にはとんとお目にかかれない。さぞ高名な勇者殿なんでしょうな」

 白々しいわね。すっかりでっぷり腹のあなただって、元は名の知れた勇者でしょうよ。

「エーベルと申す。お見知りおきを」

 さぞ高名な勇者殿は、抑揚のない冷たい声で名乗り、帽子の縁を指先で軽くつまむ。

「おぉ。最近あなたの噂しょっちゅう耳にしますよ。なんでも西国テームラミッドで――」

「ちょっとぉっ!」

 私はカウンターを両手で叩く。土下座の構えは崩さないまま、正面方向はしっかりおやっさんを捕捉し続けている。

 なんで鳩が豆鉄砲くらったような顔してるのよ。

「お忘れじゃないですかっ?」

「あぁ、そうだったね」

 禿げ上がった元勇者は、傍らの果物ナイフをおもむろに掴み、私の前に突き立てる。

「一応やってみるかい?」

 特例は認められなかったか。

「あ、あったり前でしょっ」

 酒場中の勇者たちも興を誘われ、カウンター上に立ち上がった少女に視線を注いだ。

「待ってたぜモコちゃん」「今日こそ抜けよー」すっかり馴染みになってしまった顔ぶれが口々に声援を上げる。案外いいやつなアーノ君も健気に声援を送ってくる。

 今日こそ見てなさいよっ!


(元勇者が突き立てた果物ナイフ、モコに引き抜くことが出来るだろうか?続く)

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