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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

その教室は夕日に満ちていて

作者: 白狐さぐじ

 まず始めに、あらすじの下に書いた通り作者が続きを書くことを諦めた作品です。続きを何時書くのか一切不明です。

 それでも、結構な大作を書くつもりでいたので、文字数は多いと思います。

 途中で終わっていますが、読んでもらえるのならそれだけで嬉しく思います。



 作者は 力尽きてしまった

 残念ながら 冒険の書(話の続き)を 無くしてしまった


 その日の朝は普通で、少し過ごしやすい風が吹いていた。



 夏休みの補習で学校に来るのは一苦労だ。登校途中に日陰になるところは一つしかない。しかもそれは、建物ではなく巨木。此処の土地で一番大きい木だ。いつから此処に居るのか、それを知るものは居ない。

 学校に行くときは必ずそこで一休みをする。巨木に無断で休むのは悪いので一言「少し涼ませてもらうよ」と言って座る。巨木は僕が話しかけると喜んでいるような気がした。

 それでも学校に行かないといけないので程よく汗が引いたら、「帰りにまた来るよ」と声を掛けて巨木の側を離れた。



 この教室で補習をやっているのは僕合わせて7人だ。男子が4人、女子が3人になる。まあ、その内寝ているのは3人。先生も呆れて起こそうとはしていない。

 教室ではシャーペンが紙の上を走る音や先生の声、寝息が聞こえる。そんなことに意識がいっているが、これでもちゃんと勉強はしているつもりだ。クラスの中での僕のテストの点数は、真ん中と上位の中間辺りだ。そんな僕が突然赤点を取ったのだが、担任はあまり僕に関心が無いようで、何故赤点を取ったのか理由を聞いてはこなかった。僕もあまり聞いてほしくなかったから良かったと思っている。

 それで僕が赤点を取った理由は特に無い。僕もなんでこんな点数を取ったのか心当たりがないのだ。勉強は嫌いではない、でも好きというわけではではない。家で勉強するより冷房が効いた学校で勉強するほうが捗るので、僕にとってこの補習は楽しい。

 他のみんなはどうだろうかと見渡す。僕がいるのは一番後ろの席だ。先生は何処に座ってもいいと言ったからだ。寝ている3人はすべて窓際の席にいる。

 寝ている3人と僕を除くと、前列に女子と男子が一人ずつ、廊下側の列の真ん中あたりに女子が一人だ。前列の2人は先生の話を聞き、ノートに熱心に書き留めている。廊下側の女子は、先生の話は聞いているものの、あまりノートに書き留めている様子はない。僕みたいな思いで勉強している人は居ないことはわかっていたけど、なんとなく残念だった。


 頬杖を突きながら外の風景を眺める。雲は優雅に流れ、風は優しく通り過ぎていた。



 補習は三時になったので解散になった。寝ていた三人は勿論、前列の2人も疲れたようで、早々と帰っていった。

 僕は家に帰っても一人ですることがない。かと言って、行きの途中の巨木に寄るには時間が長すぎる。なので、誰も居なくなった教室で僕は一人で過ごす事にしている。

 本当はやってはいけない事なのだが教卓の上で胡坐をかき、眼鏡を外して眼鏡入れに入れてリュックにしまう。それから目を少しの間瞑って、そして開ける。

 そこは異世界のような風景だった。教室の壁や黒板、天井が透けて、夕焼けの空が見えていた。風が通り抜ける。それと供に、不思議な格好の人とは言えないようなモノたちが歩いてくる。深編笠を被った小学生低学年ほどの身長の小人と言うべきヒトや、異形な手足のヒト。そんな不可思議なヒトたちは僕には目もくれず過ぎ去っていく。

 僕は昔から目が良かった。だからと言って眼鏡は伊達ではない。ただ単に目が良いというわけではない。他人には見えない世界が見えてしまう。そういう目が良いだ。まあ、他人よりも遠くのモノが見えやすのは確かだ。

 この目は子供の時からだ。親は何も不思議に思わずそのまま育ててくれたことは感謝している。普通に育ててくれたはいいが、他人には見えない世界が見えるということは自慢できる物ではなく、自分を孤独に追い込む原因にすぎない。

 それでも僕はこの世界が好きだ。最近はこの世界の住人(先程の小人など)と喋れはしないがコミュニケーションは取れてきた。この世界の住人に触れることは出来る。でも大体の場合嫌がって触らせてくれない。撫でるくらいは僕でもやりたいけど、無理にすることでも無いしいつの日か触れる日が来ればいいなと思って…『ガタっ』

 突然の音に僕は後ろを向いた。そこには補習中に廊下側に座っていた女子だった。胸はドキドキで頭の中は真っ白。何を言われるのかさえ考えられなかった。

「き、君はあれが見えるの?」

 まさかのことを聞かれた。「あれ」とは何だろうか?勿論あの世界のことなのだろう。

「あれ?私変なこと言ったかな?そのやっぱり聞かなかっ」


「…み、見えてるよ」

 とっさに出た返事はそれだけ。でもそれだけの事で話は通じた。

「本当に、本当に見えてるの!?(そうなんだ、私と同じ人居たんだ)」

 最後のほうは良く聞こえなかったが、僕の肯定したことが嬉しいみたいだ。僕はリュックに仕舞ってあった眼鏡を取り出し掛け、教卓から降りる。彼女は僕が教卓から降りると話をし始めた。

「私はあまりこういう事は聞かないの。私はその…昔、このことに関しての虐めがあって…。でも、君がその不思議な生き物に触れようとしてるのを見て、もしかしたらって。

 ああ、えーと、私は君と同じクラスの桜ヶ丘 彩です。その、できれば君の事も聞かせて欲しいなーって」

 僕の事をか…。何を話せばいいのだろう。とりあえず名前は言ったほうがいいよな。

「僕は…僕の名前は黒沢(くろさわ) 一条(たくや)。桜ヶ丘さんはあの世界が本当に見えるの?」


「うーん、何時もってわけじゃないけど見えるよ。呼び方は彩でいいよ。それとさん付けは要らない」

 僕とは違うのか。「何時もじゃない」ってことは、見えない時もあるってこと。

「え、あ…彩は『――――』」

 そう僕が彼女に問おうした途端、学校のチャイムがなった。慌てて壁に掛かってる時計を見る。時計の針は5時を指している。

「あー、時間になっちゃったね。家はどっち?」

 僕は家のある方、今住んでいる家の方角を指さした。

「私と同じだね。それじゃあ話の続きは歩きながら話そっか」


「…わかった」

 断れないし、断る理由も特に無いので同意した。



 今日はあの巨木に寄ることは叶わないかもしれない。そんな事を思いながら昇降口を出る。校門の前で待つ彼女に近づき、彼女と同じ速度で歩く。

「一条君はその世界が何時でも見えるってことなの?」

 今は眼鏡を付けている。そのほうが何時も通りだからだ。

「うん。見たい時に見ることが出来るよ。彩はあの世界で何か生き物とかは見えてないか?見えてるのならどんな見た目なんだ?」


「生き物なのかな~?よく分からいけど、人のようなモノは見えるよ。尺八を吹いている人が被っている帽子を被ってる子供とか、鷹のような翼が生えた子供とかよく見る」

 成る程、僕が見ている世界と全く同じだ。彼女が見た不思議なヒトは僕もよく見るし、彼女が言った以外のヒトも僕は見ることが出来る。

「僕が見ている世界と彩が見ている世界は同じだと思う。僕は最近やっと彼ら…彼女らこもしれないけど、コミュニケーションが取れてきたんだ。まだ触れることは出来ないけど、仲良くなれる気がするんだ」


「え?!そうなの?そんなこと考えもしなかった。一条君は凄いんだね」

 僕は凄いのか。そんなことを褒められるなんて初めてだ。少し嬉しいかも。いや、最近は他人と喋ることも少なかったし、喋れたことが嬉しいのかもしれない。でも僕は凄くない。凄くなんかない…。


「いや、僕はそんなに凄くないよ。傍から見たら変わり者の変人だよ」


「そんなことないよ!憧れるな~。私も一条君みたいに成りたいな~」

 巨木の横を通り過ぎた。巨木は僕たちを見守ってる気がした。

 僕が巨木を見ていることの気づいたのか、彼女は立ち止まった。そして僕も止まった。


「彩はあの気が何時から在るか知ってる?」

 ふと、頭に浮かんだ言葉が何気なく口に出た。

「ん?あー知らない。一条君は知ってたりするの?」

 やっぱり知らないか…。何となく分かってた。

「実を言うと僕もあまり知らない。結構なお歳で、ここら辺の地域の人も何時から此処に在るのか知らないらしいんだ」


「そうなの?知らないんだー。あ!あぁ…私は此処でお別れだよ。一条君はどっち?」

 そう言われて周りを見ると結構暗くなっていた。スマホで時間を確認すると『6:32』が表示されている。そう考えると周りがこんなにも暗い理由がわかった。

 彼女が帰る方角にとある建物が見えた。

「僕はこっち。彩はあそこのアパートなのか?」


「え?もしかして、そんな遠くの建物が見えるの?!」

 あれ?そんなに遠くのほうだったの?…失敗したな。


「それで一条君はこっちで……、も、森?木の橋?」


「その木製の橋を渡って、少し森の中を進んだ先にある家に住んでる。古ぼけたお屋敷だけどね」

 こんな台風が来たらすぐ壊れそな橋だもんな。しかも森を歩かないといけない。もし、道に迷ったら辿り着けないのが我が家だ。

 彼女は文字通り驚いた顔をしている。

「オヤシキ」


 ああ、そっちか。まあ普通、こんな田舎に学生がお屋敷に住んでいるなんて驚くか。僕は普通に住んでいたからそれ程気にする事でも無かったし、中学生の時はそれが普通だと思ってた時があったしな。


「!!!!ヤバいよ7時になっちゃう!もう帰るね。あ、そうだ、今度の休みに一条君の家に遊びに行っていいかな?」

 当然彼女が叫んだのでビックリしたが、本当に7時近かった。でも最後の言葉は少し引っかかる。

「休みは明日だよ」


「あれ、そうだっけ?なら、急いで帰らなくてもいいか。それで返事はどう?」

 『いいのかい!』と、つい心の中で突っ込んでしまった。

 返信か、明日も明後日もそれと言って用事はないしな。

「んー…、いいよ。用事とか特に無いし」


「やったー!あ、でも私、一条君の家の場所分からないや。何処かで待ち合わせする?」

 どうしようか。待ち合わせ出来そうな所、出来そうな所、出来そ……。

「あーじゃあ、さっき見た巨木でいいかな?」


 さっき僕が見ていたあの巨木。あそこなら彼女も知ってるし、分かりやすいだろう。


「了解!時間は朝の7時半くらいでいい?早いかな」

 7時…、僕にとっては其ほど早いとは思わない時間だけど、彼女がそう言うならそれでいいかな。

「早起きだし、いいよ」


「ほんと?明日は7時半集合。じゃあ、さようなら。また明日ね」

 彼女は手を振って去っていった。そんな彼女が(一般的な視力の範囲で)見えなくなるまで見送ると、僕は古ぼけた木橋を渡って森の中に入っていった。

 ああ、そうだ、いい忘れてた。

「また明日…」

 彼女はもう居ないけど言ってみた。そんな僕の言葉がは夜の森に溶け込んで消えた。

 あれ?何で彼女は僕の家に来たかったんだ?聞き忘れたのは僕が悪いけど。

 あ、あー、そうか、あの世界の話を詳しく話せてなかったな。多分、まだ詳しく聞きたいんだろうな。

 それなら、彼女を招くための部屋を綺麗にしないと。最近は使ってないし、人の出入りも無いに等しいから埃っぽいと考えると、箒とハタキと雑巾か。

 寝るのは少し遅くなるけど、まあいいか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 暗い暗い、廻りは廻れど闇の闇


 いくら進んでも同じ場所


 月は沈まず、日は出ない


 足が痛い


 疲れた


 眠い


 聴こえない


 暗い


 助けて


 捨てないで


 美味しくない


 僕は……



「ッ!……ぁ、夢か」


 額から垂れた汗が布団に染みを作る。どんな夢だったのかもう覚えていない。でも、とても恐ろしい夢だったのは分かる。何かに追われて逃げているような恐ろしい夢。

 心が落ち着いてきたので壁時計を見ると、まだ4時だった。此処で寝れば寝過ごす気がしたので起きることにした。

 寝ていた布団を畳み、部屋の隅に置く。障子を開けて廊下に出るとまだ肌寒く、床が冷たかった。その冷たさで目が完全に冴えたので台所に向かった。



 釜戸に薪と小枝と新聞紙を置き、マッチの棒を摩って火を付け、新聞紙から小枝へ。小枝から薪へ火が移ったのを確認すると、立ち上がって次の準備に取りかかる。

 水場へ行き米をとぐ。あらかた準備が整ったのでお釜でご飯を炊き始めた。米の炊き方の「はじめチョロチョロ、中パッパ、ブツブツいうころ火を引いて、一握りの藁燃やし、赤子泣いても蓋取るな」のとおりにする。何時も通りなのであまりむつかしくはない。

 まあ、炊きはじめなので他の作業に移る。昨日の残りの味噌汁を適当な器に移し、電子レンジかけ温める。この家に釜戸があるからと言って、電気が通っていないというわけではない。ちゃんと電気は来ているし、冷蔵庫もテレビもある。

 家の見た目がおんぼろなだけで普通の家の変わりない環境があり、設備がある。僕はそんなこの家を気に入ってたりする。



 炊けたご飯を茶碗に盛り、ちゃぶ台の上に置く。正座をして「いただきます」と言って食べ始める。温めなおした味噌汁は美味しい、炊いたばかりのご飯も美味しい。たくあんをポリポリと食べ、味噌汁とご飯を口の中に流し込み飲み込む。「ごちそうさま」。立ち上がって水場に行き、米のとぎ汁で洗い流す。真水で洗いなおした茶碗たちの水けを切り、食器棚に仕舞う。

 余ったご飯をラップで包み、いくつか塩むすびを作っておく。後で待ち合わせ場所に行く時に持っていくつもりだ。適当な風呂敷に包みこみ、目につく場所に置いておく。

 ふと、寝間着のままだったことに気づいたので、適当な服に着替えた。まだ外は肌寒いので何か羽織るものを用意する。


 風呂敷に包んだおにぎりを持って、扉の戸締りを確認して出かける。歩き始めて、ふと空を見上げると、今日は暑くなりそうな空の色をしていた。



 昨日は立ち寄ることの出来なかった巨木に少し謝った。それから巨木に寄りかかって彼女を、彩を待つ。家を出たのが早かったので、待つ時間が少し長いのはしょうがない。

 空を流れる雲、涼しい夏の風。目を閉じて、開ける。世界は一転する。あの深編笠を被った子供が隣に座っていた。これは最近では普通になってきたので、あまり驚きもしない。深編笠の子供に、持ってきた塩むすびを渡してあげた。深編笠の子供は戸惑いながらも受け取って口に運んだ。感情は分からないが喜んでいるような雰囲気だ。

 深編笠の子供以外に、僕に接してくれる異界の住人は少ない。僕がよく見るのは深編笠の子供と翼の生えた少女だ。何故、僕の近くに居るのかわからない。だけど彼らが近くに居ると安心する気がする。

「ごめん、待ったかな?」

 突然声がする。僕は振り向いて否定する。彼女は「そっかー、良かった。出る時間間違えたかと思っちゃったよ」と言って、僕の隣に座ってきた。

「走ってきたから疲れちゃった、えへへー」

 彼女の疲れが取れ次第に行くことにしよう。

「一条君の近くに居るとあの世界が良く見えるんだよね」






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