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D・M  作者: 足立 和哉
8/14

8.ビルダとカーゴライ

 小蓮華山からはしばらく下りが続く。雪はこれまで以上に深さを増している。と言っても多い所で十センチ位だろうか。登山道は相変わらず真っ白で、所々にハイ松の黒っぽい色が浮き出していた。先行する登山者達が残した雪上の白い足跡を追いながら歩く。周囲に遮る物が無い平坦な登山道だ。当然、日本海側からの風当りも厳しい。体感温度もぐっと下がってきている。リュックサックの中にはダウンジャケットが入っているのでそれを身に着ける事にした。

晴れているので着替えするのには不自由はないが、風が強すぎるので着替える際にこれまで身に着けていたものが飛ばされようものなら二進も三進も行かなくなってしまう。前方に丁度よい頃合いの風除けになりそうな大きな岩場があったので、そこまで我慢して行こうと決める。そこに着くと一人の男性が休憩をしていた。

「こんにちは。すごい風ですね、寒いし」私からその男性に声をかけた。

「風が強くてね。しばらく白馬山荘で待機して、少しはましになってきたもんだから下山してきたんですよ。山荘の主人の話だと気温は零度で、風速は十五メートルだそうです」防寒用の服に身を包んだその男性の言葉も寒さで震えて聞こえた。

しばらく情報交換をしていたが、五分も経たない内に、その男性は「じゃあ、気をつけて」と声をかけて小蓮華山への緩やかな登りに向かって行った。

「普通の人だったな」私は思わずつぶやいた。

これまで私と話をする人はほとんどが不思議な人間達だったからだ。真昼の今でも気温が零度なのかは分からない。風も強いが、これが風速十五メートルの風なのかどうかも分からない。しかし彼の話を一旦聞いてしまうと、今も気温や風速に変わりがないような気持になって不安感が体を包む。

 上着として身に着けていたレインウエアを風に飛ばされないように慎重に脱いで、一旦リュックサックの中にしまい込むと専用の袋の中に折りたたんだダウンジャケットを取り出した。ダウンジャケットを拡げる時もジャケット自体が強風で飛ばされないように慎重に袖に通す。この上にレインウエアを着込めば、取りあえず白馬山荘までは寒さをしのいで行けるはずだ。緊張感が少し解けたのかもしれなかった。私は無造作にリュックサックからレインウエアの上着を取り出した。それを着ようと拡げた時、強風のエネルギーをまともに受けた上着が、バッという音と共に私の手から離れてしまった。アッと思う間もなく私の薄緑色をしたレインウエアの上着が宙に浮き、不自然な動きで白馬岳が形成する谷の方へと飛ばされようとしていた。

これはまずいと私は慌ててウエアを取りに行こうとしたが、雪の下に埋まった小さな岩に足を取られて前のめりに倒れてしまった。顔はさらっとした雪で覆われる。細かい乾いた雪は手で振り払うと直ぐに落とせるが、顔が冷たさで痛い位だ。私は急いでウエアの行先を目で追った。すると白馬岳の谷筋の方向から黄金色の派手な地に銀色のラインが入った防寒着を着た人物が歩いてくるのが見えた。右手には長めのピッケルを持ち、左手には私の薄緑色のレインウエアを持っているようだった。顔は防寒着に付いたフードで覆って口元は見えなかったが、眼の付近は見えた。つぶらな瞳が愛らしい表情を思わせる。この人物は背格好からみて女性のようだった。

「こんにちは。これ、あなたの上着ですよね。今日みたいな日に、これ無くすと危ないわ」その人物は近づきながら、やさしい女性の声で私に声をかけてきた。

「ありがとう。助かった。ちょっと気を抜いた瞬間に飛んでしまったよ。それにしても今日はこんなに晴れているのに風が強過ぎだよね」

 私は彼女から手渡された上着を直ぐに身にまとい心から安堵した。

「それにしても、君はどこから登ってきたの?」私は不思議に思い聞いた。

緩やかな尾根伝いに続く白い登山道の線とは逸脱した方向から彼女は登ってきていた。彼女が私の上着を持ってきた方向の先にあるのは正に谷だった。到底、一般の人が登れるはずのない場所であった。

「私はビルダと言います。私は雪倉岳まで帰るつもりなので、ここから三国境までご一緒して頂けませんか?女の一人登山は何かと危ないかもしれないので」ビルダと名乗った女性は笑顔で私に言った。

「君は、もしかしてルーミン達の仲間なのかな?」私は当然そうだろうと思いつつも敢えて聞いてみた。もし、そうであったら彼女にとって女の一人登山が危ない訳がない。

「ルーミンね。そう言えば、まだ小蓮華山の上空で錫杖を振り回しているわね」

ビルダは遠くに離れてしまった小蓮華山の上空の一点を見つめていた。

「そうか、やはり君にはルーミンが見えるのか」そう言いながら私もビルダが見つめる先を見た。

小さな点のようにしか見えないが、確かに人の形をしたルーミンが長い線に見える錫杖を振り回している光景が見えた。ルーミンが見えるからにはビルダも同類だと確信した。

「ルーミンは小蓮華山の付近を見守る妖精なのよ。そして私は雪倉岳から朝日岳あたりを見守っているのよ」ビルダは自己の担当領域を明らかにした。

彼女が付いて行くと言った三国境までは、ここから五十分近くかかるだろうか。それまで、自称、妖精という者達の仲間と再び一緒に行動する事になるのだ。ビルダと名乗った彼女はどのような能力を持っているのだろうかと興味を持ったが、ともあれ先を急いだ。

「ねえ、ルーミンはあなたに失礼なまねをしなかったかしら?彼女、時々凶暴になる時があるから」急にビルダが声を潜めて尋ねてきた。

 私はルーミンの口元から見えた犬歯のような門歯を思い出していた。しかし彼女が私に直接何かをしたかというと助けてもらった覚えはあっても失礼なまねをされた覚えはなかった。

「私には助けてもらった覚えしかないけれどね」

「それなら良いのよ。特にね、彼女は七十五歳以上の高齢者が相手になると見境がなくなるのよ」ビルダは片目を閉じて軽くウインクをして見せた。

「どうなるんだい」私はビルダの瞳に引き込まれるように話に引き込まれた。

「そうね。気に入らない人だと、まず、あの錫杖でお腹を小突いたりするわ。そうすると普通の人間なら、必ずしばらくの間、お腹の調子が悪くなるわ。それから筋肉に痙攣を起こさせたり、ひどい時は過呼吸状態にさせて、全身に痙攣を起こさせて意識を無くさせてから、あげくの果ては死亡させる時もあるのよ」

「え、あの娘がそんな事までするの。私はたまたまラッキーだったのかな」私はビルダの話に驚きを隠せなかった。

「普段はそんな素振りも見せないし、それにあなたは高齢者と言ってもまだ初老でしょう。七十五歳以上の高齢になるとルーミンの魅力にぐっと引き込まれやすくなるみたいなの、それが逆に彼女の反感を買って痛い目に遭わされるみたいね」ビルダは下りの登山道の足運びに気を使いながら話してくれた。

「そうかね。魅力から言うと、私は君の方がルーミンより魅力的に感じるけれどね」と見た目の判断のままに私が言うとビルダは、それなりに嬉しそうな目をしたが私の言葉に直接返してくる言葉はなかった。

 ビルダが突然立ち止まり周囲を見渡した。

「まだ大丈夫ね。ルコスは周囲にほとんどいないわ。わあ、きれい。ねえ、見て、岩の表面が薄い氷で覆われて太陽の光に輝いてキラキラしているわ」ビルダはあどけない仕草でその感激を私に伝えてきた。

 周囲の濡れた小さな岩つぶが、冷たい強風で表面が凍ってしまったのだろう。ただの岩粒が光輝くダイヤモンドにも見えている。太陽は既に西に傾きだしているが、一日のうち最も暖かい時間帯だった。それでもこの様に凍っていては、今日はこれ以上氷は溶けるはずがない。それだけ今日は寒いのだと改めて感じさせる。白馬岳に徐々に近づき、その巨大な山塊が周囲を圧倒するかのように目に飛び込んでくる。非対称形の山容の急峻な斜面にはほとんど雪が付かず黒いむき出しの岩肌を露わにして山の厳しさを感じさせているが、緩やかな斜面はうっすらと雪で覆われ、山の優しさをも感じさせる。

小蓮華山から下り切った場所に平坦な広場がある。全体が雪で覆われているので広く感じるが、夏場に来るとおそらくガレバの中を登山道が続いている場所で広場とは感じないだろう。そこから白馬岳の山塊の裾を斜めに横切るように、ひたすら登りの登山道が始まる。その登山道の先を見ると青空を横切る稜線のみが見える。雲の動きは早く、見ている間にガスが稜線の向こう側からこちらに向かって降りてきていた。つい先ほどまでの稜線上の青空は、あっという間に見えなくなっていた。

「ねえ、ズボンの上にもレインウエアを穿いた方がいいわよ」行く先を見上げていたビルダが私を振り向いて言った。

「あのガスの中に入って行くと付着した霧が凍って真っ白になるかもしれないな」私もつぶやいた。

 私はレインウエアのズボンをまだ穿いていなかった。脚はあまり寒さを感じないので、上半身と比べるといつも薄着にしているが、さすがに霧氷状態になるのも辛いのでレインウエアを穿く事にした。風は相変わらず強く、何も飛ばされないようにと慎重に作業をした。傍にビルダがいるのも心強かった。

 レインウエアのズボンを穿いてから、これから行く先を望むとガスの中を下りてくる一人の登山者の姿がぼんやりと目に入ってきた。

「行きましょう」ビルダの声で我に帰った私は一歩ずつ登りにかかった。

「あのガスに紛れ込んでカボハイドがルコスをこちらに送り込み始めたわ」数メートルしか歩いていないのに先行するビルダは振り返って言った。

 私はカメラのファインダーを覗き見た。確かにカボハイドの大きな雲の塊りが、先ほどの下ってくる登山者の背後に見えた。カボハイドの下端からは多くのルコスが千切れて地表に降りてきていた。ファインダーを覗いていた私は下りてくる登山者にも注目した。どうやら背中にはリュックサックではないものを担いでいるようだった。

 私の前をキュキュという雪を踏みしめる音を立てながら、ビルダが急ぎ足で登っていく姿がファインダーの中に見えた。下りの登山者も心持ち速度を上げたようだった。私もできるだけビルダに追い着けるように急いでみたが、登山開始から四時間半以上が経過しており、ましてや冷たい強風や不思議な人間達の登場のため疲れがピークに達しているようだった。思うように足が上がってくれない。息も異様に切れている。私は直ぐにペースダウンをして無理してまで彼女に追い着くのを止めにした。

 私の見ている先でビルダとその登山者は合流した。どうやら知り合いのようだ。何やら話し込んでいる様子だったが、その登山者が私の方向を見て納得したような仕草をした後、背中に背負っていたものをビルダに渡した。どうもそれは人間の赤ちゃんのようだった。厚手のおくるみを着せられ防寒の効いた背負子にきちんと収まっているように見えた。ビルダは登山者が再び登り始めるのを確認してから、背負子を背負って私の方へと戻ってきた。

 私はその登山者をファインダー越しに見つめていた。その登山者は雪から浮き出している岩の隙間を長いピッケルの石突部分で盛んに叩いていた。すると岩の周辺に穴が開き、スーリンが飛び出してきた。同じようにスーリンの仲間達も呼び出され、スーリン達は雪面に向けてトレッキングポールの先端を刺しこみ始めていた。白馬大池では苦戦を強いられていたスーリン達だったが、今回は直ぐに穴が開いて坂道を下りてくるルコスたちは次から次へとそこに吸いこまれて行った。

 その時、私の傍で赤ん坊の泣き声がした。カメラから目を離して見るとビルダがニコニコしながら私の傍に立って言った。

「可愛いでしょう。この子、私の息子なのよ。名前はプチタ。今、坂の途中で仕事しているのが私の旦那のカーゴライ」

「若いのに結婚していたのか」と私は驚いてしまった。なによりも山の妖精も結婚するのかと驚いた。

「こればかりは仕方ないでしょう。出来ちゃったんだから」ビルダは片目をつむって軽くウインクをした。

 プチタと名付けられた男の子は厚手の着ぐるみの中で目と鼻だけがかろうじて出ていた。時々一声泣くだけで今はおとなしいようだ。

「普段は旦那がこの子を背負っているから、旦那は自分の仕事が十分にできないのよ。で、旦那が仕事する時間帯だけ私が背負って仕事が済むまで眺めて待っているのよ。最近、あなた達のような登山者が増えてきたから、旦那の仕事も結構に増えてきて、私が背負う時間も長くなってきてね。背中が慢性的に痛くなってきたわよ」ビルダは私を恨むように見つめた。

「私のせいだっていうのかい?でも、最近と言っても産まれてから、この子はどれ位時間が経っているの?段々と歩けるようになってくれば楽になるだろうし」彼女の話に違和感を覚えた私は尋ねた。

「え、産まれたのっていつだっけかな。この付近の山脈が盛り上がりはじめたのが、二百万年前あたりでしょう。一旦、山の活動が収まって二回目の山の活動の時にあの人と逢ったから、大体八十万年くらい前かもしれないわね」遠くを見つめるようにビルダは答えた。

「今の人類が約二十万年前にアフリカで誕生したから、そのプチタはホモ・サピエンスの歴史より長く生きながら、今もってその小さな体型を維持しているわけかい」私は驚いて再度、プチタの顔を覗いて見たが、どう見ても産まれてから半年位の肌も艶々の赤ちゃんそのものであった。

「本当よ。だから、ここわずかな間にあなた達みたいな登山者が増えてきたと言ったの」再び、ビルダは恨めしそうな顔をして私を見つめる。じっと見つめられるとドギマギとしてしまい、何を言って良いのか分からなくなるが私の悪い癖だ。

「聞くけれども、一体、私の何に問題があるのだろうか?今日は色々な妖精とかルコスとかに出逢っているが訳が分からない。スーリンという男はともかく途中で投げ出さず、登り切れというし、いい加減に答えを教えてくれないかな」私は少しイラつきながら聞いた。口調もきつくなっていたのかもしれない。

「そんな怒らなくてもよいのに」と言ってから、ビルダは急に黙りこんで鼻を少しすすったかと思うと私に涙ぐんだ目を向けた。白目は赤く充血して涙が今にもこぼれ落ちそうになっていた。

どうも女は都合が悪くなったり興奮したりすると涙ぐむ手段をとる性癖があるようだ。男はそれに騙されて良いようにされてしまう場合がある。しかし、今の私にそれは通用しない。

キュキュという雪を踏みしめる音がした。ビルダの旦那のカーゴライとスーリンの二人がやってきていた。

「どうした。ビルダ、泣いているのか?」カーゴライは防寒着に身を包んでいたが、フードから見える顔は日に焼けて黒かった。太くV字の形に吊り上った眉毛に、彫りの深い顔は、独特の威圧感を与えていた。

「こいつは直ぐ泣くのでね、気にしないでやって下さい。ルコスはもうほとんど居なくなりましたから、しばらくは安全な登山ができるってもんですよ」カーゴライはスーリンに同意を求めるように振り向いた。

「また、会いましたね。カーゴライとの仕事は楽で良いですね。メピリードとの仕事は正直つらいですからね。カーゴライは厳つい顔の割には優しい男なんですよ。だから、ああやって女房の言いなりになって、いつも赤ん坊を背負っている。背負っている間は何も仕事ができないのにね。ビルダ自身にはルコスをどうにかするという能力は持っていないのですが、旦那を助ける事で間接的にルコスを減らす役割を担っているのです」スーリンはカーゴライがビルダが背負っていた背負子を背負い直している姿を見ながら言った。

「彼はルコスが少ない時には現れないのです。たとえ現われても僕達に対して過大な要求はしてこない。必要な仕事の依頼しかしてこないのです。しかし今みたいにルコスが多いと我々のグループの全員に声をかけて仕事を依頼してきます。その緩急を付けた仕事ができる点が、メピリードとは違うなあ。メピリードはルコスが多かろうと少なかろうとどんな時にでも僕達を鞭打つようにこき使うからね」

 メピリードがどこかでクシャミをしているような言われ様だ。

「確かに優しそうな男ですね」私も同意した。しかし、そろそろ私に何が起きているのかをスーリンに聞かなければならない時期だと思った。

「まだ早いでしょう」スーリンが私の顔を見て即座に言った。彼らにとって私の心の中はお見通しなのはこれまでの経験で分かってはいるが、どうも気味が悪い。

「もうしばらく、このまま登山を続けてください。恐らく、明日にはお話できるはずです。一通りの体験をあなたにはしてもらわねばなりません。まだ、その一通りが終わっていないのです」スーリンは淡々と話を続けた。

「ここから三国境まではビルダ親子が同行しますが、その後は、なるべく自力で行ってください」

「これまでも自力で歩いてきたし、カメラのファインダーを覗かない限り、ルコスだって見えないし、更に言えば私に実害がある訳でもないでしょう」私は少々苛立っていた。

「そうでしょうか?少し脚が痺れて痛い思いをしたのではなかったですか?それは多くのルコス達があなたに憑り付いた結果なんですよ。あなたは普段は何も感じていないかもしれない。しかし、放置しておくといつの間にかルコスがあなたの体に付着して離れなくなってしまう。ルコス達を取り外せる段階をなるべく長くキープしておく事が大切なんです。こう言っても、今のあなたには未だ分からないかもしれません。ですから、明日、お話できるまで繰り返しになりますが、この山で起こる不思議な出来事を一通り味わっていて欲しいのです」スーリンは半ば諭すように私に言った。

「その辺りは君達に任せるよ。ずっと訳が分からないまま過ごすとしよう」私は少しやけになりながら登りを再開した。

 行先を見上げると、いつの間にか登山道を覆っていたガスが晴れて、稜線の向こうに青い空が広がっていた。しかし風の勢いは収まっておらず、くるくると近くの天候が変わっていく。

やがて三国境と書いた標柱の場所に着く。三国境は丁度、昔でいう越中、越後、信濃の三国の境に位置している。腕時計を見ると午後十二時四十分である。小蓮華山から約四十五分程度だったが、それ以上の長い時間に感じた。三国境の標高は二七五一メートルで、白馬岳山頂方向と雪倉岳へのコースへの分岐点となる場所である。雪倉岳や朝日岳のすそ野に雪は無く紅葉が見える。遠く姫川が糸魚川平野を貫いて日本海に注いでいる辺りは長閑な秋晴れの風景となっている。

しかし周りを見ると一転して冬の風景だ。ハイ松の葉の先に雪が付いたのがそのまま凍り付いて張り付いている。何だか痛々しささえ感じさせる風景だ。

「では、私達は雪倉岳に向かいますから、気をつけて登山を続けてくださいね」ビルダの声がした。

 振り返るとビルダとプチタを背負ったカーゴライが私に手を振りながら雪倉岳への雪で白く覆われた登山道を下って行く姿が見えた。スーリンはいつの間にか居なくなっていた。再び地下にでも潜ったのだろう。


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