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D・M  作者: 足立 和哉
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13.登場人物・登場物質の紹介(2)

 一旦、ここで登場人物や登場物質の働きを解説しておこう。

ルーミン:

 本名をメトホルミン。ビグアナイド系と呼ばれる飲み薬の一つ。この薬はインスリンに頼らずに血糖値を下げる薬になる。肝臓は取り込んだブドウ糖を分解してエネルギーに変える働きがある一方で、その働きを逆回転させてブドウ糖を生み出す働きも持っている。この働きは「糖新生」と呼ばれ、血糖値を上げる方向に働くため、糖新生を抑えれば血糖値は下がる。メトホルミンはこの糖新生を抑える働きがあるため糖尿病治療に用いられている。その他にも筋肉や脂肪組織でのブドウ糖の取り込みを早めたり、消化管からのブドウ糖の吸収を遅らせたり、インスリン抵抗性を改善したりと“四つ”の作用を合わせ持っている。インスリンが関与しないため、この薬の単独利用では低血糖を起こしにくい。欧米などでは糖尿病患者への第一選択薬として推奨されているくらいだ。

 この薬の最大の問題は、肝臓で処理されるはずの乳酸がそのまま貯まってしまい、乳酸が血液に流れ込んで起こる「乳酸アシドーシス」がある。血液が酸性に傾いて、当初は吐き気やおう吐、腹痛、筋肉痛、だるさ等が見られるが、重症化すると死亡に至る場合もあるので注意が必要だ。特に腎臓や肝臓の機能が低下している人には注意が必要になるため、それらの機能が低下しやすい高齢者への投与は慎重にならいといけないし、更に七十五歳以上での新規の投与は推奨されていない。


ビルダ:

 本名をビルダグリプチンという。DPP-4阻害薬と呼ばれる薬の一つ。DPP-4の働きを抑えて、GLP-1の働きを長持ちさせる薬になる。本文中ではビルダがGLP-1のカーゴライが背負っているDPP-4のプチタを預かり、カーゴライの仕事をやりやすくさせる。カーゴライは夫役、プチタは子供役としている。


カーゴライ:

 本名はグルカゴン・ライク・ペプチド1という。略してGLP-1と呼ばれる。人の体の中にあるホルモンの一種で、人が炭水化物でんぷんを食べた時に小腸は刺激を受ける。その時に小腸の細胞の一つでL細胞と呼ばれる部分から、このホルモンが血液中に放出される。このホルモンは血糖値が高い時は膵臓のベータ細胞の専用の受容体を刺激してインスリンの放出を盛んにさせて血糖値を下げるが、血糖値が低い時はベータ細胞への刺激が弱くなり血糖値をほとんど下げない。血糖値の様子を見ながらインスリンの放出量を調整するホルモンと言える。しかし、このホルモンはジペプチジルペプチターゼ4(略してDPP-4)という酵素によって数分で分解されて効果を失ってしまうという欠点がある。

そのためDPP-4の働きを弱める薬が必要になり、それが妻のビルダになる。


プチタ:

 本名をジペプチジルペプチターゼ4といい、略してDPP-4と呼ばれます。前出のGLP-1を分解する酵素になり、本文中では父親のカーゴライに背負われ、カーゴライの仕事をできなくする設定にしている。


パルート:

 本名をアスルパルトという。インスリンの構造の一部を人工的に変えてインスリンの効果を直ぐに発揮できるように改良されたインスリンだが、形はほぼインスリンと同じと考えてよい。効果の出るのが超早いため超速効型インスリンとも呼ばれている。従って、インスリン本体であるスーリンの兄弟の設定としている。

 本来、人のインスリンは一日中チョロチョロと分泌される基礎分泌のインスリンと食後すぐの血糖値上昇を抑え込むために分泌される追加分泌のインスリンの組合せで構成されている。

 アスパルトは食直前に皮下に注射して食直後の血糖値を下げるので、人のインスリンの追加分泌に相当する。インスリンの追加分泌が不足している糖尿病患者さんに毎食直前に皮下に注射してすぐに血糖値を下げると血液中からすぐに消えてしまう。今回、外から注射される様子を飛行機やヘリコプターから降りてくる描写にし、パルートは現れるとすぐに仕事をしてすぐに消えてしまう存在にしている。


クラル:

 本名をグラルギンという。パルートと同様に人のインスリンの構造の一部を人工的に変えて一日中インスリンの効果が続くようにしたインスリンの類似品。類似品といってもほぼインスリンと言っても良いくらいに形は似ているので、スーリンやパルートの妹役に設定している。効果が長く持続する所から持効型インスリンとも呼ばれている。糖尿病患者でインスリンの基礎分泌が足りなくなってしまった人に利用されるインスリンになる。一日一回朝食前または寝る前のどちらかに皮下に注射する。クラルも注射のためヘリコプターから降りてくる描写とし、下山時はずっと主人公に付き添う存在とした。


キセナ:

 本名をエキセナチドという。GLP-1受容体を直接、刺激する注射薬の一つ。前述したようにGLP-1はDPP-4によって、直ぐに分解されて効き目が無くなるが、エキセナチドはGLP-1の構造の一部を人工的に変えてDPP-4による分解を受けにくい構造にしている。血糖値に応じてインスリン分泌を調整する働きが長く持続できる。皮下注射なので飛行機から降りてくる登場の仕方に設定している。


ラグリフ:

 本名をイプラグリフロジンという。SGLT2阻害薬と呼ばれる薬の一つ。血液中のブドウ糖は腎臓から排泄されるが、大部分が腎臓の尿細管という部分で吸収されて再度血液の中に戻されるため、健康な人の尿中にはブドウ糖がほとんど存在しない。尿細管でブドウ糖を吸収する部分にはSGLT2と呼ばれる輸送体が存在している。正式な名称はソジウム・グルコース・トランスポーター2と呼ばれ、尿側から血液側に向かう方向にブドウ糖とナトリウムを移動させる専用の穴のようなものだ。

 イプラグリフロジンは、このブドウ糖とナトリウム専用の穴を塞ぐため、ブドウ糖が血液側に後戻りできなくなります。つまり血液へのブドウ糖補給の一つの経路が断たれるため血糖値が下がっていく。逆にいうと尿中のブドウ糖の量が増えるので、尿糖の値は増えて糖尿病が悪化したように思われるが、実際には血糖値は下がっており、良い方向に向かっている事になる。ブドウ糖が尿中に増えると、それを薄めるために水も体外へと出やすくなる影響から、尿量が増加して脱水症状を引き起こしやすくしたり、ブドウ糖は細菌の栄養分にもなるので膀胱炎や性器感染を引き起こしやすくなる。これらが特徴的な副作用である。本文では白馬大池の中央付近にSGLT2が存在している設定になっており、ルコスが地下や水中の中から地表へ飛び出してきている。


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