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D・M  作者: 足立 和哉
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1.れんげ温泉

 十月十三日朝六時、前日まで降っていた雨も夜中までには止み、北陸自動車道の路面は乾いていた。若干の雲が浮いているものの、空は青く高かった。車窓から見える立山連峰の山頂付近には雲がかかっているため、まだその雄大な姿を見せていないが、今日は絶好の山登りの日になるはずだった。平均時速百キロメートルをキープしながら新潟方向に向けて走っていると、朝日インターチェンジを通過して間もなく前方の山の麓にトンネルの黒い穴が二つ見えてくる。そこから上越ジャンクションまで実に二十六本ものトンネルが断続的に続く。

 トンネルに入ると一転してオレンジ色の世界に変化するが、徐々にその明るさは弱まっていく。そして出口付近になると外の真っ白な明るさが眼に飛び込んでくる。さらに進むと北陸自動車道のトンネルの中では最長の四千五百六十メートルもある子不知トンネルに入る。朝早く起きたため眠気がまだ抜けきっていない体にはこのトンネルは長過ぎる。眠気防止にハードディスクに録音した小うるさいジャズ音楽を流す。さらに黒い包装の口の中が痺れる感じのガムを頬張る。

 寺地トンネル、高畑トンネルと続き岩木トンネルを抜けると、突然、視野が開けて姫川の河口に広がる糸魚川平野に出る。

 姫川を渡って直ぐの糸魚川インターチェンジで北陸自動車道を下りて、国道一四八号線との交差点に出る。そこを山側に向けてハンドルを切る。やがて道路の両側の人家は疎らとなり、前後にも車のあまりない快適なドライブになる。

 ふと右上前方を見上げると奥に見える山がやけに白い。積雪?そうだ。昨日の平地での雨は、山では雪となり、山頂付近では積雪になっているようだ。これは迂闊だった。雪に対する備えをしてこなかったのだ。防寒対策はしてきたものの例えばアイゼン、これが無いと厳しいかもしれない。しかし積雪といってもまだら模様にも見える。今日、明日は確実に晴れの天気予報だった。秋の移動性高気圧も本州を覆いだしている。日中の太陽の光で多少の雪ならば溶けるはずだ。そう信じて、行ける所までは行ってみようと決断する。ここまで約一時間の道のりだったが、その時間だって無駄にしたくない気持ちも強く働く。

 しばらく進むと姫川温泉方向へ左折する道が出てくる。国道と別れ、その細い道を走る。JR平岩駅の手前にある山間に向かう県道五〇五号線に入り、さらに小一時間程度山岳道路を登っていく。所々、車のすれ違いもできないような狭い場所がある。季節的に紅葉が真っ盛りで、それに見とれて運転していると崖下に落ちかねない場所さえある。やがて車を置ける最も山深い場所、れんげ温泉が近くなる。

 ふと気が付くと所々の道路脇の空いたスペースに車が停めてある。ひょっとして先にある駐車場がもう満車なのか?不安が頭をよぎる。駐車場に着くと、はたして午前七時半だというのに満車状態で、無理矢理狭いスペースに停めている車もある。不安が的中してしまったようだ。リュックサックを背負った登山客も多いが、カメラと三脚だけを手にした客も多い。車窓から見えていた紅葉は確かに素晴らしかった。紅葉狩りにだけ来た客も多くいて、そのため駐車場も早いうちから一杯になったのだと納得した。しかし車はここには止められないので、来た道を引き返し、歩けば十分程度ほどの、車が二、三台止められそうな道路脇の空き地に自分の車を停めた。

 今日はれんげ温泉から白馬岳を目指して登り、登頂後に白馬山荘に一泊する予定だ。白馬岳は二九三二メートルの山で、非対称性の特異な形状をした山である。また白馬大雪渓で有名な山でもある。白馬大雪渓からの登山路を白馬岳への南側からのルートとすると、今回選んだれんげ温泉からの登山路は北側からのルートに相当する。両ルートの中間あたりには栂池自然公園からのルートがある。さらに後立山連峰の一秀峰、白馬岳には他にも様々な縦走路から続くルートがある。

 私は一泊二日用の荷物を詰め込んだリュックサックを担いで車を置いた場所から出発した。まずはれんげ温泉の駐車場までの退屈な林道歩きから始める。予想通り十分ほどで駐車場を通り過ぎ、その先にあるれんげ温泉のロッジ風建物の裏手にある登山口に着く。この付近には露天風呂が点在しており、れんげ温泉に入浴料を払えば自由に利用できる。時折り、その温泉からの硫黄臭が登山者の鼻をくすぐっていく。

 駐車場には車がたくさんあったが、紅葉狩りに来た人達を差し引いても実際に登山道を歩く人は、その車の数よりはるかに少ない感じだ。

若者たちのグループはゆっくりペースで歩く私を追い抜いて行くし、私よりゆっくりペースの高齢者のグループは私が追い抜いて行く。そのような繰り返しを何度かしながら登る。登り始めの傾斜は意外に緩やかである。最初から急登で始まる薬師岳などとは違い、比較的落ち着いたペースで登る事ができる。


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