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魔法少女サキ/煌動装甲アルファライザー  作者: カブメント
第三話 [暁を征く]
14/20

sector.3

 車まで戻ると、ジャックが荷台の上であぐらをかいて待っていた。手にはファイルを持ち、神妙な面持ちでそれを読んでいる。


 機関銃を紐で荷台に固定し、戦闘の終了を示していた。


「おおアキラ。おかえり」


「正義のヒーローに、初日から強化兵殺しをさせるなんてな」


「スッキリした顔で何を言うか」


 アルファライザーを纏っているかのように体が軽い。今まで我慢してきた栄養素を摂取すれば、調子が良くなるのは当然だ。


「見てみろよ、今回出てきた強化兵の目的が少し分かった」


 ファイルを開いて見せるジャック。白黒で印刷された紙には、小さくてトゲの付いたものが写されている。トランジスタにそっくりだ。


「何だこれ?」


「ギフトの休眠装置だとさ」


 ろくに生物の特性を把握されていないギフトに対し、そんな道具を作っている連中がいるとは。


「意外と構造は単純で、あいつらの出してる声を信号化したやつを、皮膚に刺して流し込むものらしい。叫んだら一斉攻撃する号令だけじゃなく、活動を停止するものもあるようだ」


「じゃあ、でっかいスピーカーを用意してそれを流せば――」


「どうなんだろうなぁ。それをやらないってことは、スピーカーじゃ再現できない何かがあるんじゃねえか?」


 運用が面倒そうな道具を使ってでも、動きを止める理由といえば。


「じゃあ、目的ってのはギフトの研究か?」


「まあ、それだよな。まさか剥製として飾るなんて酔狂な野郎は……探せばいるか」


 酔狂な野郎といえば、ダカツの顔が浮かぶ。縦長の人間離れした瞳孔に、ジャック以上の薄笑いを常に纏っている。


 ジャックは少し不思議そうな顔で、資料を指先で叩いて言った。


「でもこの資料、【タタラ】が作ったにしては情報量が少ねえな。敵対勢力に間違いはないが、拠点やスポンサーに関する情報が抜けてる。いつもだったら、犬派か猫派の個人情報まで載ってるのに」


「タタラ? もしかして、そいつはダカツを名乗ってたりしてなかったか?」


 俺が知ってるアイツの名前は、ダカツとその他諸々の偽装戸籍名だけだ。


「ん? ああそうか、その名前もよく使ってたな。タタラってのは、一応本名みたいな扱いだ。漢字だと【近衛このえ たたら】って書く」


 資料の隅っこに、ボールペンで走り書きをする。意外と字がキレイだ。ダカツがひた隠しにしたものが、こうもあっさり知られて悔しかろう。


 いや、今はタタラだ。今度会ったら、真っ先にフルネームで呼んでやる。


 そんな野郎が投げ落とした、頑丈なナイフのことを思い出す。抜き身にして、木目調の硬質樹脂ハンドルの方を向け、ジャックに渡した。


「そうそう。これを貰ったんだが、俺とジャックが喜ぶ品らしい」


「ん?」


 ナイフを受け取り、その腹をそっと撫でた。そして内ポケットから、安っぽいナイフを取り出す。


「お、おい!」


 頂き物のナイフ目掛け、安物ナイフを叩き落とす。刃と刃がぶつかる甲高い悲鳴が響いた。


「ふむ」


 ジャックのナイフはポッキリ折れ、タタラが寄越したナイフは何ともない。


「遂に加工に成功したか」


 すました顔でナイフを眺めているが――


「ジャック! ここ! ここ!」


 自分の額を指差し、そこを探るように促す。なぜなら、ジャックの額に折れたナイフが突き刺さっていたからだ。


「言うな……恥ずかしいだろ……」


「お、おう……」


 さりげない動作で破片を引っこ抜き、何事もなかったように続ける。


「このナイフの鋼材は、【デトネーション・メタル】ってやつでな。人工ダイヤの製法の一つに、爆発を利用するものがある。それに近い感じで、合金に強い圧力を加えてやると、その原料が出てくるんだ」


 額から垂れた血を、素早く腕で拭った。もう傷は見えない。


「非常に強度の高い粉末を得ることはできたが、強度を維持して塊に戻す方法は長年見つけられなかった」


 ジャックは折れなかった方のナイフを俺に返す。


「これはお守りに持っておけ。滅多に壊れないナイフってだけで、かなりのポテンシャルだ」


 受け取ったナイフの刃は部分的に白くなっていたが、指先で軽く拭うとやはり傷一つない。折れたナイフの、削れたカスだけが残っていたのだろう。


「このカッチカチの金属で、戦車の装甲でも作るのか?」


「それも悪くないが、とりあえずアルファライザーの関節に組み込む。今回の戦闘で使えなかったのも、摩耗と割れが原因だ。装甲部分は引き続き、【軽量複合装甲】を使う。ダメージ吸収に関しては、そっちの方が優秀だしな」


「じゃあ、今度からは使いまくれるってことか!」


 これは素直に嬉しい。一回しかアルファライザーで戦ってないにもかかわらず、強化イベントを体験できるとは。


 ジャックは一緒になって、無邪気に喜んだ。


「ああ! 今まで不可能だった、設計図だけの兵器も作れるぞ!」


 そこで、黒い槍のことが引っかかった。


「ん? でもよ、あの黒い槍の鋼材じゃダメなのか? あっちも凄そうな金属だったが」


 顔の前で手を振り、ジャックはそれを否定した。


「あー、【エールデ・ブルート】な。コッチは機械向きの金属じゃねえんだ。重い、他のパーツが削れる、精密な加工ができない、熱に関する問題がある。悪口を挙げたらキリがないぜ。なんとか刃付けする方法が見つかったんで、試験的に強化兵の装備を製造してる段階だ。発見自体は第二次大戦中だったな確か。偶然、Uボートが海底鉱脈に激突したのがきっかけだ」


 座ったままだったジャックは立ち上がり、荷台から飛び降りる。資料を小脇に抱え、運転席側の方へ歩き出した。


「こういう話は、アキラのお友達も喜びそうだし、帰ってからじっくり話そう」


「そうだな」


 今度はジャックの運転で、その場を後にする。流石に連戦は応えたので、シートのクッションがとても心地良い。


「はっは、流石に疲れたか」


「強化兵には、このしんどさが分からないだろうな」


「そんなことはないぜ? 滅多に死なねぇから、苦しみは倍増だ。アルファライザーを使う限りは強化兵みたいなもんだし、いずれ分かるさ」


 九条のとんでも再生医療を経験した身としては、強化兵の苦痛をなんとなく知っていた。あの治療は、気分のいいものではない。


 荒れ道を抜け、両側が林の下り舗装路を進む。


 ジャックがカーナビからテレビに切り替えると、今朝のアナウンサーが出てきた。


「魔法少女サキ! またまた人々を華麗に救いました!」


 これは今日の映像だ。しかもテツが映ってる。


「お、しっかり撮れてる。謀略部流石だな」


「カメラ回してるやつなんて見た覚えがないぞ」


「そりゃあ、忍者みたいなやつが集まってるチームだし」


 編集や撮影は見事なもので、俺が素手で戦おうとしたシーンや、ジャックとギルバートの戦闘シーンはばっさりカット。顔もいい感じにぼやけて、日常的な付き合いがなければ気づかないだろう。


 続いて魔法少女が現れ、空中戦。最後に、俺がアルファライザーを纏うシーンが放送される。謎の変身ヒーローなんて呼ばれて、ちょっと気分が良かった。


「え、おいっ! これいいのか!?」


「ああ、これでいいんだ。アルファライザーは、魔法少女に一極化した希望を正す目的もある」


「一極化した希望?」


 裏があると思っていたが、スケールのデカイことをしようとしているぞコイツら。


「人間は、魔法少女を待つようになってしまった。まるで、唯一神のような扱いをしている連中すらいる。生存まで信仰心に頼ろうとすれば、人間は腐ってしまう」


「希望を分散させて、魔法少女の影響力を抑えるのか」


「とりあえずはそんな感じだ。アルファライザーの現代的な火器でギフトを殺せば、正規軍の士気も上がるってもんよ」


 少女に振り回される世界なんて、脆くて儚い。世界は、鋼と火薬に翻弄されているくらいがお似合いだ。


 俺の戦闘シーンを横目に、先の見えない行く末を考えてみたが――何も出てこなかったので、考えるのをやめる。


 とりあえず戦おう。戦ってから考えればいいんだ。


 俺達の地上波デビューが終わり、次のニュースが流れる。見出しには「剣の魔法少女現る!!」なんて書かれていた。


「おいジャック、なんだコレ?」


「ああ? 知らねえぞこんなの」


 二人で画面に詰め寄り、食い入るように見る。


 霧深い海上で撮影された映像だ。ビーチチェアやら、なんちゃって海外セレブ。木の床が映っていたので、豪華客船の甲板だと予想できる。


 そこにいる人々は、濃霧に飲まれることを面白がっているようだ。


 撮影者がぐるりと一周撮ろうと、カメラを動かしていく。


 半回転したところで、空中に縦長の黒い影。それが気になったのか動きを止め、ズームさせた。


 タイミングを見計らったように、そこから一人の少女が出てくる。長い銀髪をなびかせ、作り物のように美しく、愛らしかった。


 滑るような空中移動は、人間のそれではない。


 もし強化兵だったら、下品に羽ばたいたり、変な汁を噴出させて空を飛んでいただろう。


 少女の上品な紺色のドレスは、控えめに金細工で装飾され、所々白いフリルをあしらっている。黒い生地やリボンも使われていて、それが全体の印象を引き締めていた。


 右の手を横に突き出すと、背の丈程もある剣が、静かに具現する。


 刃幅は少女のウエストをゆうに超え、凝った意匠は実用性もクソもないと思った。


 映像はそこでぶつ切りにされ、コメンテーターが「新たな救世主の登場ですね」なんて抜かす。


 この少女は、人を助けるなんて意識はない。冷たく、静かな破壊の感情を秘めていた。表情を見るだけで、少女らしからぬ想いが流れ込んでくる。


 ジャックも同意見らしく、俺の耳元で呟いた。


「コイツ、敵になるぞ」


「ああ。――ところで、運転手は誰だ?」


「オレだな」


 画面に二人して顔を近づけて、そのどちらも前を見ていなかったのだ。


「バカヤロォー!!」


 俺の叫びも虚しく、重厚な車体はガードレールを余裕で突き破る。尻が浮いて、何とも言えない浮遊感が二人を襲った。

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