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ドラゴンキラー  作者: あびすけ
第三話 魔獣狩りの人狼編 前編
55/150

9 ユリシール・ギルド(ここまでの登場人物 一覧)

ここまでの登場人物。



【ジュルグ帝国】

ガルドラク・・・最強の人狼。別名【魔獣狩り】。


アウグスト・・・亜人ギルド【亜人の坩堝デミ・シェイカー】の支配人マスター上級鬼人ハイ・オーク


ザラチェンコ・・・ジュルグ帝国第八殲滅騎士団 騎士長。しかしその正体は・・・


【ユリシール王国】

アニーシャルカ・・・王国ギルド十闘級魔法剣士。別名【雷刃ブロンテー・エッジ


ロイク・・・王国ギルド十闘級戦士。


ネルグイ・・・王国ギルド九闘級傭兵。【ルガル傭兵団 副団長】


バルガス・・・王国ギルド八闘級狩人。【犯罪集団ダムド】の一員。


カルネ・・・五等級魔術師。【犯罪集団ダムド】の一員。


リアン・・・六闘級冒険者。【犯罪集団ダムド】の一員。


バンホルト・・・裏のクエスト案内所【トパーズ】の支配人マスター


ジェラルド・・・王国上級騎士。奴隷産業を支配する王国闇市場ユリシール・ブラック・マーケットの大物。


地獄に堕つ五芒星ヘル・ペンタグラム

イビルヘイム・・・死霊魔導師リッチ。魔導を極めし者。


ベルゼーニグル・・・悪魔デモン。蠅の王。


ジュリアーヌ・・・魔女。別名『獄炎の魔女コラフェルヌ・マギス』。


レヴィア・・・水精魔ウィンディーネ。水氷と海獣の支配者。


ザラチェンコ・・・魔人。冷酷無比な魔法剣士。


【竜殺しと殺戮の剣】

サツキ・・・No.11の異種族殲滅用生体兵器ドラゴンキラー


クシャルネディア・・・真祖最高階級【祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキ】。一本目の殺戮の剣ゾルゾンザ・エッジズ


竜血族ドラグレイド

黒竜ゾラペドラス・・・竜血族ドラグレイドの頂点に立つ圧倒的存在。サツキの宿敵。


五統守護竜ガルゾディ・ドラゴンズ・・・黒竜を護る五体の最上級竜ハイ・エルダードラゴン












「全員揃ったようだな」


 初老の男はそう言うと、円卓を囲う強者どもに視線を這わせる。精悍な顔の強戦士、冷たい眼をした女魔法剣士、傭兵団を束ねる伝説の傭兵・・・円卓に座するは八人。ユリシール王国ギルド、最高闘級を持つ者たち。


「それでは、これより十闘級会談を行う。多忙な諸君に貴重な時間を裂いてもらい、王国ギルドを代表して感謝を表明する」


 初老の男は頭を下げる。彼は王国ギルドの総支配人グランド・マスターだ。苦労を重ねてきたのだろう。深い皺の刻まれた顔に、白髪の目立つ髪。しかし彼の声は老いを感じさせない、ハキハキとした活力に溢れている。


 第四区画 王国ギルド本部、その地下には支配人ギルド・マスター以上の役職の者と、十闘級のみが入ることを許される特別な部屋がある。ここは王城に備え付けられた王家専用避難室シェルターなみに頑丈な作りをされており、完璧な防音・防遏ぼうあつ性能を誇り、また物理結界と魔術結界により外部から完全に隔離されている。


 王国ギルド最大戦力である十闘級はその偉業の数だけ様々な恨みを買っている。王都内部、隣国、点在する小国、闇ギルド・・・そんな彼等が一ヶ所に集まった場合、何らかの大規模攻撃に晒される可能性がある。その為、この部屋は最高峰の護りで固められている。


「よう、ネルグイの野郎が世話になったらしいな」


 日に焼けた浅黒い肌の男が口を開いた。全身が強靭な筋肉に覆われた熟年の男だ。顔、首、腕・・・あらわになっている場所に無傷な肌はなく、大小様々な傷跡がみられる。年齢のわりに豊かな白髪を後頭部で束ね、馬の尾のように垂らしている。


 ルガル傭兵団 団長 十闘級傭兵ソロモン。


「まったくよー、あのアル中オヤジ、腕が鈍ったんじゃねーの」


 応えるのはソロモンの正面に座る女。動きやすさを重視した剣士服と、それとは対照的に首や手首にジャラジャラと垂らしたアクセサリー。剣士の特性と魔術師の特性を兼ね揃えた冷たい目の女。


 王国唯一の十闘級魔法剣士アニーシャルカ。


「お前が腕を上げただけだ。・・・ロイク、あんたにも礼を言う」


「私は感謝されるほどの働きをしてないですよ。むしろ謝罪しなければならないくらいだ。そちらの三兄弟には悪い事をした」


 アニーシャルカの右隣でロイクは自嘲する。


 彫りの深い精悍な顔立ちの好男子。十闘級戦士ロイク。


「おいおい死ぬのも傭兵の仕事なんだしさー、気にすんなよ。何よりアイツ等は納得してオメーの仕事を引き受けたんだ。そりゃつまり死ぬ覚悟は出来てたって事だろ。お前は考えすぎなんだよ」


 アニーシャルカはロイクの肩を抱く。


「傭兵団を抜けたアンタが傭兵語るのを聞くと、なんだが苛つくんだけれど」


 気だるそうに発言したのは革鎧に身を包んだ隻眼せきがんの女だ。頬にいびつ髑髏ドクロの刺青を入れ、ショートボブの髪はどぎついピンク色に染められている。右眼周辺に酷い傷跡があり、眼窩に【魔眼】が嵌め込まれている。彼女の魔眼は【犯罪集団ダムド】のリアンが持つ視力補佐を目的とした物ではなく、攻撃魔法特化型の武具魔眼だ。ルガル傭兵団に次いで巨大なアマダロス傭兵団の団長、十闘級傭兵のアストリッド。彼女の束ねるアマダロス傭兵団の実力はルガル傭兵団に勝るとも劣らないと評判で、特にアストリッドは騎士団の干渉できない汚れ仕事を積極的に引き受ける為、様々な小国の革命軍や極右極左組織などからの仕事が絶えない。王国内での評価も高く、異種族廃絶運動後、他国の領地に住み着いた亜人デミの追跡殲滅任務を引き受けたことで、貴族や元老院の民族主義者(ナショナリスト)などの一部過激派から重宝されている。


「ていうかアニーシャルカ、いい加減ワタシの傭兵団に入ってよ。アンタが入ればうちの株はさらに上がるんだよ」


「なんでオメーの株をわたしが上げなきゃなんねーんだ。ばらすぞ」


「そういう血の気の多いところが、ワタシの傭兵団向きなんじゃない」


「わたしは属すのが嫌いなんだよ。金さえ払えば暗殺だろうが拷問だろうが引き受けてやるよ」


「素行の悪い下女どもが。少しは王国ギルド十闘級の意味を考え、その重みをしかと受け止め、王国の為に品性を身に付けろ」


 二人に軽蔑の眼差しを向けるのは、王国騎士団 第二王女 近衛師団隊長にして王国ギルド十闘級騎士のギデオンだ。黄金色の鎧を着込んだ巨躯の男。のっぺりした面長の顔に表情はなく、しかしアニーシャルカとアストリッドを睨む瞳には負の感情が渦巻いている。差別撤廃を掲げる第二王女ベルティーナの近衛兵である彼は、いまだ闇ギルドに荷担するアニーシャルカや、過激な『超人類至上主義者』の側に付くアストリッドが気に食わない。王国騎士団でありながら、ギデオンは異種族廃絶運動に批判的であり、事実大量虐殺には一切関わらなかった。王国騎士団は彼を煙たがっているが、第二王女の厚い信頼と十闘級の肩書きにより、ギデオンを追い出すことはできない。


「貴様等のような存在がいるから王国ギルドは第四区画に追いやられるのだ」


「アナタはいつも突っかかって来るけど、本当にウザイ。だいたい王都の奴隷市場を仕切ってる王国騎士団が、ワタシを非難するなんてお門違いじゃない?」


「アレはジェラルドが勝手にやっている事だ」ギデオンは苦虫を噛み潰したような顔をすると、吐き捨てるように呟く。「ああいうグズが王国騎士団の評判に傷を付ける。貴様もだアニーシャルカ。よもや十闘級が闇市場ブラック・マーケットに関わっているなど・・・恥を知れ」


 ジェラルドは闇ギルドと結託し奴隷市場を支配している王国上級騎士だ。彼は騎士団上層部に賄賂をばらまき、罪を逃れている。さらに顧客には多くの貴族や豪商が名を連ねており、ジェラルドに手を出そうにも様々な圧力により告発は頓挫する。それでも折れない正義感ある者は、謎の死を遂げる。ジェラルドは王国騎士団の闇その物であり、その彼に手を貸しているのがアニーシャルカだ。


 ギデオンからすればジェラルド同様、彼女は憎むべき存在だ。


「恥を上回るのは金だけだ」アニーシャルカは飄々と言う。「わたしに良心を期待すんな。そんなもん生まれた時から持ち合わしてねーよ」


「そういう事だ」ソロモンは首を振る。「こいつに倫理観を期待するだけ無駄だ。ガキの頃から何も変わってない」


「金の亡者の傭兵どもめ」


「いい加減マジでウザイよ。アンタの古臭い騎士道精神を第四区画で振り回すのやめてくれる?ここは糞の掃き溜めで、死人アンデッド一歩手前みたいな奴等しかいないわけ」


「そういう考え方が第四区画をさらに酷くするのだ」


「なあギデオン?もういいじゃねえか。こんな女に何言っても意味ねえよ。股と同じでオツムもゆるいんだ」


 嘲るように言ったのは鋭い雰囲気を纏った剣士だ。恐ろしいほど美形だが、つり上がった両眼と嘲笑に歪められた口元が彼に非情の気配を与えている。腰に吊るされた二本の両刃剣グラディウスは使い古され、残忍な光を放っている。悦楽の双剣ツイン・ソードと呼ばれる殺人鬼、十闘級剣士ドーグ。


「何をいう。貴様もこの外道どもとさして変わらん。快楽殺人者が」


 苛立たしげにギデオンはドーグをなじる。


性差別主義者セクシストのお出ましだ」


 アストリッドは彼を見て吐き捨てる。


「おいおいアストリッド、俺は事実を語ってるだけだぜ。全てにおいて男は女にまさっている。そうだろ?」


 ドーグは性差別主義者で有名な男だ。言動の端々に女性蔑視がみられ、その行動にはほとんど女性への憎悪といって差し支えない暴力が含まれる。『足裂き魔』と呼ばれる連続殺人事件が8年前、第三区画を震え上がらせた。被害者は全員女性、殺害方法は絞殺。死体は犯され、両足を膝下から切断されていた。切断の手口は見事で、一撃のもと切断されていた。また切断面をみるに、左脚と右脚では傷跡が異なる。つまり犯人は二本の刃物を用いて両脚を切断していた。目撃者はなく、犠牲者は増え続け、しかし死体が18体を数えたのを最後に、ぷっつりと犯行は止んだ。時を同じくして王国ギルドに一人の青年が登録される。職種は剣士。名はドーグ。彼は双剣を扱い、比類なき剣術によって瞬く間に闘級を登り詰める。だが彼にはある悪癖があった。戦場で女を殺し、死体を犯し、その足を切断するのだ。


 王国ギルドはその事実を黙認している。たとえドーグが『足裂き魔』であったとして、それが何だというのか。ここは第四区画。実力のみが全ての無法地帯。


「先月、ワタシの仲間のミシュラって娘が死体で発見された。犯され、両足を切断されていた。犯人はアンタでしょ?」


「さあな?殺した女の名前なんていちいち覚えてねえからなあ。仮に俺がったとして、だからなんだ?」


「ワタシの傭兵団に手を出してタダですむと思ってる?」


「おめえが俺を殺すってのか?」


「内臓ぶちまけてやろうか」


「十闘級同士が殺り合うのは原則禁止だろ?」


「例外は付き物よ」


「そうだぜドーグ。わたしも前にロイクと殺り合った。なあ?」


「そんな事もあったね」


「前例があるんだ。総支配人グランド・マスターも大目に見てくれるさ。しっかしよー、テメーは本当にクズ野郎だな」


「すっ込んでろアニーシャルカ。だいたいおめえが俺の事をクズ呼ばわり出来るってのか?半年前、ジェラルドを裏切った王国騎士が殺されたよな。生きたまま頭皮を剥がれ、指を全て切断され、性器が雷で潰されていた。ありゃあおめえの仕業だろうが。自分の事を棚に上げてんじゃねえ」


「裏切り者は派手に殺さねーと見せしめになんねーだろ」


「闇ギルドの犬が」ドーグは椅子に深々と背を預ける。「禁足地でくたばっとけよ」


「話は終わってないよドーグ」アストリッドの魔眼が燐光りんこうを放つ。「あの娘の借りは必ず返す」


「やってみろよ。なんなら今ここで」


「はいそこまで」


 彼女の言葉を遮るように、底抜けに明るい声を上げたのは十闘級冒険者のイェスタ。幼さの抜けない少年のような顔立ちの好青年。見た目の爽やかさとは裏腹に性豪として有名な彼は、いつも複数の美女を侍らせ、毎夜快楽と乱交の海に沈んでいる。十闘級の名誉と資金と何よりその色男顔ベビーフェイスでイェスタは愛人窟ハーレムを築き、さらには娼館の経営にまで手を出し始めている。そんな彼だが、実は何よりも『冒険』を愛している。


「まったくさ、君たちは血の気が多すぎるよ。僕はさっさとこの集まりを終わらせて帰りたいんだからさー、勘弁してくれない?可愛い愛人たちと、何より冒険が僕を待ってるんだよね」


「禁足地に行くらしいね」


 ロイクの声。


「うん、そうなんだ。禁足地は広いからね。金鉱脈や魔水晶の発掘作業が始められてるけど、祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキの城館、その奥に広がる森にはまだ誰も足を踏み入れて無いわけだし、冒険者としては血が騒ぐよ。何せクシャルネディアが棲み付いてから200年以上人の入らなかった場所だよ?未知の植物や生物がいても不思議はない、というか絶対にいるよ」イェスタはロイクとアニーシャルカを見る。「君たちがクシャルネディアを討伐してくれてたおかげで王国ギルドの名はさらに売れ、ユリシールは新たな資源が手に入り、僕は冒険ができるってわけだ」


「私たちが倒した訳ではないよ」


「おめえもアニーシャルカもそう言ってやがるが、どういうつもりだ?」ドーグが絡む。「ロイクよ、おめえの剣の腕は知ってる。何せ学生時代、王都剣闘祭の決勝で俺を破ったのはおめえだからな。それまで無敗だった俺の剣に始めて泥が塗られた。そんなおめえの技量を、俺は認めてる。そっちのクソ魔法剣士も、女のわりにやる奴だって事は知ってる」


「一言多い野郎だ」


 アニーシャルカの横やりを、ドーグは無視する。


「だからよ、おめえらがクシャルネディアを始末したってんなら話が分かる。だがおめえらは『ぽっと出の一闘級戦士』がクシャルネディアを倒したと吹聴してやがる。俺には意味がわからねえ。何か企んでやがるのか?」


「意図など無いよ。私は事実を話しているだけだ」


「ネルグイの奴も言ってたな。クシャルネディアを討伐したのは一闘級の戦士だと」ソロモンは思い出したように呟く。「アイツの口ぶりをみるに、嘘だとは思えないな」


「その事で、おれたちは呼ばれたんだろ」


 一度も発言をしていなかった男が、ここで口を開いた。酷く顔色の悪い、無精髭の男。ボサボサの頭髪に、薄汚れた身なりをしている。生気の薄い瞳は虚空を見つめ、頭痛でもするのかこめかみを押さえながら、おもむろに煙草を吸い始める。紫煙を吐き出すと、彼の顔色はいくぶん良くなる。十闘級狩人のザニッチ。すぐに一本を灰にすると、もう一本に火をつけ、紫煙の向こうから喋る。


総支配人グランド・マスター、その一闘級の男のことでおれたちは呼ばれたんだろ?」


「その通りだ」


 総支配人グランド・マスターは頷く。


「王国ギルド一闘級戦士サツキを十闘級に昇格させようと思う。今日集まってもらったのはそのためだ」








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