表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンキラー  作者: あびすけ
第二話 真祖・クシャルネディア討伐編 後編
42/150

11 狂戦の前 2





 クシャルネディアは微笑む。


「貴方たちの力じゃ多頭獄犬ケルベロスを一撃で葬ることはできないわ。あの子たちは眷族の中でも中層奴隷ミデュラドに属していた。ただの人間が、そうやすやすと滅殺するこの出来る存在じゃないわ」そこで彼女は言葉を切り「地獄に堕つ五芒星ヘル・ペンタグラムかしら?」


 狂暴な陰がクシャルネディアの全身を染めていく。


「あの集団に属する超越魔物トランシュデ・モンストルが紛れ込んでいるのかしら?」


 彼女の声に極低温の殺意が混ざる。


 魔眼を持たなくとも視認できるほど濃く、暗い魔力が空間を埋め尽くしていく。


 メンバー全員の意識に戦慄が走る。


 本能の奥の奥を犯されるような、心臓を鷲掴みにされるような恐怖が全身を覆い尽くす。


「これほどとは・・・」


 ロイクは奥歯を噛み締める。


「ヤベぇな、漏らしそうだ」


 冗談のように言うが、アニーシャルカの口調に余裕はみられない。


死の三姉妹ブラッド・シスターズとは、比べ物にならんな)


 動きを封じられたバルガスの肌を冷や汗が伝う。意思や精神力ではどうにもならない、原始的恐怖。


 捕食者の前で竦み上がる獲物の気分を、全員が味わっている。


「わかるわよ。貴方たちの気持ち」クシャルネディアはアニーシャルカの頬を撫でる。「絶対的な食物連鎖、圧倒的な存在を前に自分が餌に成り下がる恐怖、どうにもならないという絶望・・・恐ろしいわよね」


「オメーみたいな化け物に、わたしたちの気持ちが理解できるとは到底思えねーな」


「貴方たちはドラゴンを知らないものね」


 全面戦争を経験した種族は、ある二つの恐怖を経験している。竜血族ドラグレイド、そして異種族殲滅用生体兵器ドラゴンキラー


「私たちの種族の多くは戦争中、ドラゴンに補食されたわ。血魔ヴァルコラキは奴等にとってたんなる餌でしかなかった。血縁を喰い荒らされ、友を殺され、全てを奪われた。だから私はね、自らが絶対的な捕食者になると決めたのよ。眼に映る全ての種族を餌にするために、ただひたすらに血を求め、血を糧に、血を貪った。そうして数百年が過ぎ、いつしか超越魔物トランシュデ・モンストルにまで登り詰めていた。弱者でいることは耐え難い苦痛よ。力が必要なの。全てを圧倒する力がね。でなければ」


 クシャルネディアは月を見上げ、心の中で呟く。


 でなければ『あの人』との誓いを果たせないものね。


 彼女の脳裡に残像のような光景が甦る。


 両親を喰い殺したドラゴン。


 弄ばれる幼少の自分。


 苦痛と絶望。


 迫り来る死。


 ざらついた声。


 灰色の髪。


 赤い瞳。


【No.11】の刻印。


『強くなって俺を助けてみろ』


 クシャルネディアが力を求めた本当の理由は、その言葉の中にある。


 血魔ヴァルコラキとは血に生きる種族だ。まして彼女は【始まりの血】と呼ばれる全ての血魔ヴァルコラキの起源にして頂点。その祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキが自らの血に誓いをたてた。それがどれだけの重さを持つのか、他種族には理解できないだろう。真祖の血の誓いは絶対であり、クシャルネディアが滅びるまで消えることはない。


「こうして目の前にして、オメーがとんでもねえ魔物なのは十分わかったぜ。わたし等に勝ち目はねー。だが、アンタの予想通り、こっちにも化け物がいる」重い舌をなんとか動かし、アニーシャルカはあくまで軽口を叩く。「どっちが強いかね」


「それは楽しみね。それで貴女の言う『化け物』は何処にいるの?」


 その時、アニーシャルカたちの背後の空間に亀裂が走った。闇棺ハイドアンドシークの闇が漏れだす。裂け目は一瞬で広がり、空間が内側からぜる。同時に男が飛び出す。着地に失敗し、地面を転がる。初老の男だ。血にまみれている。


「姿が見えないと思ったら【永えの檻メラ・ハウラ】で遊んでいたのね、ロートレク」


「クシャルネディア様・・・」


 ロートレクはよろよろと立ち上がるも、力が抜けたように崩れ落ち、四つん這いになる。


「ずいぶんと削られたわね。死にかけてるじゃない。一体『何』と遊んでいたの?」


「お気をつけください、クシャルネディア様・・・あれは・・・あれは人間ではありません。かといって我々のような魔物とも違う・・・奴が一体何なのか、私にはわかりません。しかし、間違いなく危険な存在です。奴は」


「逃げるなよ。俺を殺すんだろ?」


 亀裂の向こうから、ざらついた声が響いた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ