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ドラゴンキラー  作者: あびすけ
第二話 真祖・クシャルネディア討伐編 後編
32/150

1 猛者たち


 二日後の正午。第二区画西部に建つ豪邸。ここはアレハンドロという超大物商人の邸宅だ。洗練された調度品で飾付けられた広い一室。ロイクとミーシャの目の前に、十一人の王国ギルド登録者が集まっている。エルフ族の奴隷を入れれば十三人。彼等は三つのグループを作り、各々固まって大きなソファに腰かけている。


「これで全員?」


 十闘級魔法剣士アニーシャルカは室内をぐるりと見回すと、部屋の中心に立つロイクに声をかける。彼女の隣には犯罪集団【ダムド】所属の八闘級狩人バルガス、六闘級冒険者リアン、五等級魔術師カルネがいる。その背後には双子のエルフ奴隷魔術師が立っている。


「いや、あと一人いる」


 ロイクは開く気配のない扉を眺めながら呟いた。


「しかし、中々どうして癖の強い面子を揃えたもんだ」


 低い声が響く。ルガル傭兵団の副団長、ネルグイだ。白髪の混じり始めた短髪を軽く掻き、スキットルを口に運ぶ。四十代前半といった所か、お世辞にも整っているとは言い難いゴツゴツした顔には皺が目立ち始めている。徹底的に虐め抜かれた肉体は筋肉に覆われ、服の上からでもその張り詰めた肉体が感じられる。


 その隣には肉の塊のような男が三人座っている。怪力三兄弟と呼ばれる男たちだ。


【ルガル傭兵団】は十闘級傭兵ソロモンを団長とした、五十人以上が所属する大型傭兵団だ。少数精鋭が好まれる王国ギルドの中にあって、これだけ大人数の組織も珍しい。金で命を売り、剣を片手に戦場を駆け抜ける傭兵どもを纏め上げるのは並大抵のことではない。報酬、待遇、それだけで付いていくほど単純な奴等ではない。ルガル傭兵団に入る者共は皆、団長のソロモンに魅せられ入団するのだ。かつてユリシール王国とジュルグ帝国間で勃発した国境紛争の折り、王国側に雇われたソロモンは一人で118人の帝国兵士を斬り捨て、帝国最強騎士団と呼ばれる【ジュルグ帝国第八殲滅騎士団】を相手に一歩も引かず、それどころか五人を斬り伏せ騎士長と斬り結び生き残ったといわれ、傭兵たちの間では伝説のような存在になっている。齢五十を迎えた彼だが、いまだ【最強の傭兵】と呼ばれている。残念ながら今回ソロモンはいないが、彼の右腕と呼ばれる副団長・九闘級傭兵ネルグイと『三人揃うと手がつけられない』と言われる怪力三兄弟、七闘級傭兵のアルスルン、バドマ、デルグルがいる。


 ソロモンばかり目立つが、このネルグイも国境紛争で帝国兵士を75人斬り伏せ、殲滅騎士団と剣を交えている。並みの使い手ではない。


 ネルグイは鉛のように重たい視線をバルガス、次いでアニーシャルカに注ぎ、口元を歪めた。


「まさかお前たち二人に会うとはな。少し見ない間にデカくなりやがって」


「アンタだってもうすっかりオッサンじゃん。お互い様でしょ」


「まったくだ。老けたもんだな、ネルグイ」


 二人は辛辣な調子でそういうが、その言葉尻には親しみのような物が窺える。


 バルガスとアニーシャルカが生まれ育った傭兵団とは、ルガル傭兵団の事だ。まだユリシール王国に根を下ろす前の、世界各地をあてどもなく放浪していたルガル傭兵団の中で産声を上げた二人は物心つく前から剣を握らされ、ナイフ捌きを叩き込まれた。そんな二人を指導していたのが若き日のネルグイだ。彼は二人を厳しく鍛え、十歳になる頃には戦場に立てるよう仕立て上げた。「恐怖を噛み殺せ。そして躊躇わず殺せ」耳にタコができるほど聞かされた言葉を二人は思いだし、すっかり老けたネルグイの顔を見て苦笑した。月日の流れるのは早い。


「ソロモンが寂しがっているぞ。奴は特にお前たち二人に目を掛けていたからな。戻ってくる気は無いのか?」


「イヤよ。あの爺すぐ報酬ピンはねするしさ、それにわたしは縛られるのイヤなんだよ」


「俺も戻るつもりはない。あんたにもソロモンの親父さんにも世話になったが、どうも傭兵は性に合わない」


「そう言うと思ったよ。全く昔から可愛いげの無い奴等だ」


 ネルグイは嘆息たんそくする。


「旧交を温めるのはそれくらいにして、さっさと仕事の話をしません?」


 そう言ったのは弧影猟団こえいりょうだん・団長のボリスだ。猛禽類のような眼をした若い男だ。額から首筋にかけて三本の傷跡が走っている。がっしりした体格ではないが、しっかりと実戦向きの筋肉が肢体に付いている。彼はソファに深く腰掛け、視線をロイクに向ける。


「用があるから俺たちを呼び出したんでしょ?話を先に進めるべきじゃないですか?」


「ボリスくん、確かに君の言うとおりだよ。だが、まだ全員揃っていないんだ」


「約束の時間はとっくに過ぎてるでしょ?遅れる野郎が悪い。違います?」


 そう言うとボリスは集まった面々を眺め回す。


「俺たちだって暇人じゃない。貴重な時間を割いてここに来てるんだ。遅刻している野郎に配慮する必要はないんじゃないですか?」


 両隣に座る側近のブルーノとカルロッテが、その言葉を肯定するように頷いた。ブルーノはボリスより些か歳上の、壁のようにのっぺりした大男だ。どんな状況でも動じない、重量感が全身に詰まっている。カルロッテは黒髪を肩で切り揃えた色白の女だ。剃刀で切れ目を入れたような細い眼をしている。


弧影猟団こえいりょうだん】は九人の狩人で構成された猟団だ。主にモンスターの討伐・捕獲を生業としている。特に珍味と名高い危険度8の石眼巨鳥コカトリス、ゲテモノ食材として有名な巨大百足ガデルムカデ、妙薬としてその毒牙が重宝される毒土蜘蛛ダム・ダチュラなど、高値で取引されるモンスターを討伐、あるいは捕獲し売り捌いている。今回呼ばれた三人は弧影猟団の中でも最強といわれる団長、九闘級狩人のボリスとその側近、八闘級狩人のブルーノとカルロッテだ。彼等三人は危険度8の中でも上級吸血鬼エルダーヴァンパイアに次いで恐れられる凶暴なモンスター、黒鎧百足ペゾディアン・ガデルムカデを捕獲した経歴がある。全長十メートルを越える巨体と、その全身を覆う黒い外骨格はあらゆる刃物を弾き、弱点の炎魔法すら受け流す。さらに巨体百足ガデルムカデを凌ぐ劇毒を大顎に持ち、その毒は多頭獄犬ケルベロスさえ恐れるといわれる。これは全ての生物に言えることだが、殺すよりも生け捕りにする方が遥かに難しい。殺さずに無力化するためには知識と経験、何より技量が必要だ。黒鎧百足ペゾディアン・ガデルムカデを捕獲した逸話いつわは彼等の実力を確固たる物だと証明した。故にロイクから声が掛かった。


 この部屋の中で、弧影猟団の三人だけが独特な空気を纏っている。獲物を追い立て、罠を張り、ジリジリと追い詰めていく彼等弧影猟団は、傭兵や戦士の荒々しさとは別の、研ぎ澄まされた刃物のような鋭利さを漂わせている。


「言ってることは正しいんじゃない?一人の為に時間を無駄にするってのもさ、スゲー馬鹿らしいし」


 アニーシャルカは怠そうに言う。


「おれたちも、そう、思う」


 七闘級傭兵の三兄弟、長男のアルスルンがアニーシャルカに被せるように口を開く。四角い輪郭、小さな眼、潰れた鼻。山のような筋肉に覆われた頑強がんきょうな肉体。次男のバドマ、三男のデルグルも全く同じ容姿をしている。


「おれたち、傭兵は、金で、動く。無駄な時間は、過ごしたくない」


「進めちゃっていいんじゃない?」


 ロイクの隣に立つミーシャが言う。翠色の髪をポニーテールに結んだ精霊使い。


「もともと彼は明確な返事をしてなかったし、来るかわからない相手を待っててもしょうがないよ」


「そうか・・・そうだね」


 ロイクは一歩前に出ると


「始めよう」


 集まった面々を見ながら、よく通る声を出す。


「まず、詫びるよ。仕事の内容を明かさず呼び立てるなんて非礼を許してほしい」


 ロイクは頭を下げる。女のように繊細な金髪が揺れる。


 集められた十三人は彼に視線を注ぎ、口を閉じている。奇妙な静寂が室内を充たしている。


「だが、仕事の内容、そしてその報酬の額を聞けば、君たちのような命知らずはきっと気に入ると思う」


 その時、扉の開く音が静寂を切り裂いた。


 自然、全員の視線が扉に集中する。


 この屋敷の使用人メイドが扉を開け、その背後から一人の青年が部屋に入ってくる。メイドは彼に一礼すると、部屋から退室し扉を閉めた。


 乱雑に切られた灰色の髪と、血のような赤い瞳。布で作られた服を着ただけで、武器のような物は所持していない。ふらりと散歩に出掛けた平民のような出で立ちだ。サツキだった。


「悪いな。道に迷った」


「気にしないでくれ。来てくれて感謝する。適当に腰掛けてくれ」


 ロイクが促すとサツキはソファの一番右端に腰を下ろした。今日の朝、サツキは羊皮紙ようひしを獣人族のシャルルに見せた。「第二区画のアレハンドロって人の住所だと思います」文字を読みながら彼女が言った。比較的早めに娼館を出たはずだったが、王都に来てまもないサツキは道に迷い、なんとか第二区画入り口にたどり着いたはいいが王国騎士に止められた。「ここは貴様のような者の来るところではない」威圧的な態度で迫られたがロイクから渡された羊皮紙を見せるとすぐに通してくれた。「この紙自体が第二区画への通行証になっているみたいです」というシャルルの言葉を思い出したのだ。王国騎士の一人に羊皮紙の場所を問うと、屋敷まで案内してくれた。礼を言い、サツキは王国騎士と別れた。


 彼の隣には弧影猟団こえいりょうだんの三人がいる。団長のボリスはサツキの顔を眺め「見ない顔だね」と笑いかけた。


「だろうな」


 サツキは抑揚よくようの無い声で答えた。


「これで全員揃った」


 ロイクが大きな声を出し、手をひとつ叩いた。全員がロイクを見、彼の言葉に耳を向ける。ロイクは少しの間沈黙すると、不意に口を開いた。


「真祖・クシャルネディアを討伐する」


 その言葉に、室内がざわつく。


「本気でいってんの?」


 アニーシャルカが薄笑いを浮かべる。


「本気だ」


 彼は決然けつぜんと頷く。


 ネルグイはスキットルを煽り、酒をすべて胃に流し込むと、ロイクを見る。


「クシャルネディアの領域は王国が【禁足地】に指定し、干渉を切断しているはずだ。王国騎士団は傍観を決め込み、王国魔術探求団はあの地を恐れ、王国ギルドも形だけクシャルネディア討伐のクエストを用意しているだけだと聞く。危険度9、その中でも最上位に位置付けられる【祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキ】を、俺たちで殺すだと?」


「ロイクさんって十闘級の中ではかなりマトモな人だと思ってたんですけど、案外そうでもないんですね。そこにいるアニーシャルカさんよりブッ飛んでるかもしれない」


 ボリスは肩をすくめながら、笑う。


「おいおい初対面の、それも目上の人間に失礼な事いってんじゃねーよ。あんたのその言い方だとわたしの頭がイカれてるって聞こえるんだけど?」


「噂を聞く限り頭がイカれてるとしか思えないんですけどね。一人で上級吸血鬼エルダーヴァンパイアに喧嘩を吹っ掛けるような人間は、マトモとは言えないでしょ」


「正確には下級吸血鬼ローヴァンパイア五体と上級吸血鬼エルダーヴァンパイア一体に喧嘩を吹っ掛け、しかも仕留めた」


 バルガスが割って入る。


「こいつはイカれている。だが腕は立つ」


「だってさ、報酬は金貨七千枚だぜ?断る理由がねーだろ。下級吸血鬼ローヴァンパイアなんてわたしからしたら雑魚だし、それに自分の実力を測るためにも一回上級エルダーり合っときたかったんだよ。まあ、肋は折れるわ腕は砕けるわ、おまけに内臓潰れるし、正直死にかけたけどさ、わたしは上級吸血鬼エルダーヴァンパイアより強いって事が証明されたわけ。だいたい十闘級に正常な人間がいるわけねーだろ。全員異常者で、それがニュートラルなんだよ。だから真面目そうな顔してそこに突っ立ってるロイクだって実は頭の中はブッ飛んでんだよ。でなゃきゃ『真祖ぶっ殺しに行こうぜ』なんて言い出すわけねーだろ?」


「散々な言われようだね」


「勘違いしないで、これでも褒めてんのよ?祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキに喧嘩売ろうなんて、なかなかクールでイカした考えよね。そういうの、嫌いじゃねーよ」


「しかし、なぜクシャルネディアを討伐する?」


 ネルグイは何かを考えながら呟く。


「正確なことは知らんが、クシャルネディアがこの国に干渉してきたことはこれまで一度も無かったんじゃないのか?確かに王国騎士団が相当数喰われたらしいが、それは真祖の領域に攻めいったからだろう?こちらが何もしなければ向こうも動かないんじゃないのか?いったい誰がこんな仕事を依頼した?騎士団か?ギルドか?それとも個人か?」


「そんなの簡単な話じゃないですか」


 ボリスが皮肉げな口調で言う。


「【禁足地】は人や異種族の手の入ってない場所で資源が豊富にある。特に禁足地の山の中には金鉱石と銀鉱石、それに高純度の魔水晶が取れる鉱脈があるんですよ。それを手に入れたい人間がいる。しかし真祖の領域で大規模な採掘作業をするなんてのは自殺行為、しかし宝の眠る鉱脈を放っておくなんて馬鹿げている、なら取る道なんてものはひとつですよ。真祖を殺せばいい。ここはアレハンドロの屋敷ですよね?アレハンドロといえば文字どおり鉱業でひと財産堀当て、貴族とも繋がりのある超大物商人じゃないですか。そんな男の屋敷に集まってるって事は、つまりそう言うことでしょう?」


「その辺りは想像に任せるよ。私が言えるのはひとつだけだ。この依頼は凄まじい危険を伴うが、そのぶん成功報酬も大きい」


「いくらです?」


「ひとりにつき金貨五万枚」


 それを聞くと、アニーシャルカは口笛を吹き、ダムドの三人は息をのみ、ルガル傭兵団の四人は身を乗りだし、弧影猟団の三人は眼を見開いた。サツキだけが感情の読めない表情をしている。


「どうする?」


 ロイクは室内を見回しながら静かに言う。


「俺たち傭兵は」ネルグイが口を開く。「危険な仕事だろうが凶悪なモンスター討伐だろうが金さえ積めば受けると思われてる。だが俺たちも人間だ。割りに合わない仕事は当然引き受けない。今回の真祖討伐、祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキを殺すなんてイカれた仕事、本来なら絶対に引き受けない。だが、五万となると話は違ってくる。とてつもない大金だ。命を賭けるに値するほどのな。俺たち四人は引き受ける」


「ありがとう。できればソロモンにも来てもらいたい所だけど」


「そうしたいのは山々だが、あいにく団長はオルマ国に行っててな、当分帰ってこない。変わりに空いてる奴等を全員連れてくるか?」


「いや、それはよしてくれ。依頼人の用意した資金にも限度があるが、何より大勢で行って『転化』でもされたら厄介だ」


『転化』とは真祖が異種族の死体を低級吸血鬼ローヴァンパイアとして生まれ変わらせる事を意味する。


「ひとつ聞きたいんですけど、これを成し遂げれば俺も十闘級に上がれますよね?」


 ボリスは冷笑的な態度を消し、真剣な表情でロイクに聞く。


「確実に闘級は上がるだろうね。真祖討伐を成功させたとなれば、間違いなく君は王国で九人目の十闘級だよ」


「なるほど。おまけに金貨五万枚もついてくる。断る理由が無いですね」


「スゲー面白そうだし、わたしも当然引き受けるよ。あんた等も受けるでしょ?」


 アニーシャルカはダムドの面々に言う。カルネとリアンはバルガスに視線を向ける。彼が『受ける』と答えるなら、彼等も受けるのだろう。バルガスは考える。真祖クシャルネディアといえば、あの【三姉妹】が恐れていたほどの相手だ。だがこちらには十闘級が二人、自分の師のネルグイ、確かな実力を持つ弧影猟団、そして何より・・・


 バルガスは一番端に座っている、赤い瞳の男に眼をやる。


(まさかこんな所でまた会うとはな)


 確証はない。断言はできない。しかし、ダークエルフの村で上級吸血鬼エルダーヴァンパイアを一瞬のうちに灰に変えた力。最高級の魔眼にヒビを入れるほどの魔力。


 異種族殲滅用生体兵器ドラゴンキラー


(あの男なら、あるいは真祖すら・・・)


 バルガスは思考をまとめる。


「そうだな。俺たちも受けよう」


 その言葉に、カルネとリアンが頷く。


「サツキくん、君はどうする?」


 真祖討伐と聞いても眉ひとつ動かさないサツキに驚きつつ、ロイクは話しかける。


「引き受けてくれるかい?」


「構わない。金も無いしな」


「そうか」ロイクは笑顔を浮かべ「ありがとう」と頭を下げた。ロイクの表情とは反対に、ミーシャの顔は強張っている。いまだクエスト案内所で味わった恐怖が抜けていないのだろう。


(しかし、真祖か)


 サツキは考える。


(こいつ等は真祖がどういう存在か分かっていないのだろう)


 彼は目の前の者達を眺める。


 真祖にも階級がある。下位の存在は上級吸血鬼エルダーヴァンパイに毛の生えた程度の力しか持たないが、上位の存在ともなれば他とは隔絶した魔力を有する。もし彼らが言うようにクシャルネディアという真祖が最高位に属する【祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキ】なら、ただの人間が相手にできるような存在ではない。さらに真祖とは血を吸えば吸うだけ力が増していく特性を持つ。血液に含まれる魔力を取り込み、自分の魔力に変えていくのだ。種族全面戦争の頃は餌となる生物が不足していたが、ドラゴン族が消え、異種族殲滅用生体兵器ドラゴンキラーが滅んだとされる現代では真祖の天敵になるような存在は少ない。餌は豊富にあり、敵はいない、真祖にとって理想的な環境だ。もしクシャルネディアが祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキであり、何百年にも渡り新鮮な血を飲み続けてきたのだとすれば


(想像を絶する魔力を手に入れているだろう)


 サツキは嗤った。目覚めてからこっち、どうしようもない雑魚ばかりを相手にしてきた。いい加減うんざりしていた。325年前の、あの戦場での感覚を取り戻さなければならない。肌がチリつき、骨が軋み、血と死の臭いで満たされたあの感覚を呼び覚まさなければならない。その為には、有象無象の雑魚では駄目だ。強大な力を持った魔物を相手にしなければならない。


「愉しくなりそうだ」


 サツキのその呟きは、空気に溶けて消えていった。






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