28 死線
【28】
耳を劈く怨嗟の大絶叫と共に、戦いの幕が切って落とされた。
赤紫の奔流が押し寄せる。地を這い、神殿の壁面を登り、中空を游ぎ──見るも悍ましい貓鬼の大群が、七人の魂を貪り喰おうと、全方位から襲い掛かってくる。
と、一匹の貓鬼の額を、白い光の矢が射貫いた。続けざまに二回三回と光の矢が宙を走り、次の瞬間には無数の光の矢が、掲げられた杖の先端から全方位に向け、散弾のように放たれる。
範囲攻撃に優れた中位光魔法〈光矢の炸裂〉。
杖を手にしているのは、当然オーギュスタ。
光の矢に貫かれた貓鬼たちは、地面に叩きつけられた卵のように、呆気ないほど簡単に破裂する。光の矢は次々と貓鬼の額を撃ち抜く。破裂、破裂、また破裂。散発的な呪いの破裂が七人の周囲で巻き起こり、赤紫色の魔力が薄靄のように周囲に立ち込め、
その靄が消え去る前に、ふたりの亜人が貓鬼に向かって走り出す。
一筋の銀髪と、漆黒の体毛が、風に靡く。
しなやかな褐色の肢体を持つ暗色の耳長族の戦士ディアナと、隆々たる体躯を誇る黒豹族の闘士レオパルド。
ふたりは貓鬼の大群の手前で得物を振りかぶり、
ディアナは速度を乗せた槍による刺突を、
レオパルドは体重を乗せた荒々しい一撃を、
悍ましい呪いの軍勢目掛け、全力で叩き込む。
『貓鬼に物理攻撃は一切通用しません。魔力には、魔力を。貓鬼を殺すには、魔力による攻撃が必須となります』
ディアナの槍は貓鬼の大群を深く刺し貫き、レオパルドの幅広剣は呪いの軍勢を一刀両断し──次の瞬間、貓鬼たちは苦痛の叫びを上げ、一斉に破裂する。ふたりはすかさず武器を構え直し、渾身の二撃目を放つ。
貓鬼の群れが、次々に破裂する。
「ありがと、オーギュスタ」ディアナは双槍で貓鬼を薙ぎ払いながら声を上げる。「これでアタシたちでも、コイツ等を殺せるッ」
「ディアナの云うとおりだッ」呪いの軍勢を迎え撃ちながら、レオパルドが強く頷く。「まったく、いつもいつも君には世話になってばかりだな」
「お気になさらずに」険しげに表情を歪めながら、しかし口元に微笑を浮かべ、オーギュスタはふたりに頷き返す。「私たちは仲間です。一切の遠慮は無用です」
貓鬼を斬り払うふたりの得物、その刃は、白く耀いている。
〈属性付与〉だ。ディアナとレオパルドの得物には、オーギュスタによって光魔法が付与されている。白き刃を以て、ふたりは次から次へと貓鬼の軍勢を屠り去る。
そんなふたりの戦い振りを尻目に、ロイクは孤軍奮闘する魔法剣士の背に声を掛ける。「アニーシャルカ、もしかして君もアレができたりしないかい?」
「貴様はこの女を過大評価し過ぎだ」彼女の代わりに口を開いたのは、ツァギールだ。じろりと横目でロイクを睨み、「少し考えればわかるだろ。この女が他者へのエンチャントなど修得しているわけがない。訊くだけ無駄だ」
「テメーの云うとおりだぜ、猟犬ッ」声を荒げながら、アニーシャルカは迫り来る貓鬼の軍勢を次々と斬り払っていく。赤紫の薄靄の中で乱舞する斧刀は紫電を帯び、振るわれる度に刃の周囲を蒼い稻妻が走り抜ける。〈属性付与〉は非常に初歩的な魔法だ。ある程度魔法の知識がある者ならば、容易に扱うことのできる単純な下位魔法。しかし、エンチャントを他者に付与するとなると、話は変わってくる。付与する相手の魔力の性質、流れ、癖を読み、自分の魔力を完璧に同調させなければ、他者へのエンチャントは成立しない。「わたしはな、人に合わせるのが大っ嫌いなんだよッ」不愉快げに吐き捨て、アニーシャルカは二刀を大きく振りかぶる。斧刀から蒼い魔力が噴き出し、長大な雷の刃が形成される。
属性付与を応用した中位魔法〈雷魔人の剣〉。
「テメー等、いつまでそこでくっちゃべってるつもりだ?」長大な雷の刃で周囲を薙ぎ払いながら、アニーシャルカは猛々しく吼える。「いいからさっさとこっち来て手伝いやがれッ なんでわたしひとりでこのクソ貓どもを相手にしなきゃなんねぇんだッ!」
「そうは云ってもねアニーシャルカ、私たちの攻撃は、彼等には通用しないらしいんだよ」
「なら盾になれッ わたしを守って死ねッ!」
苛立ちに、アニーシャルカは一瞬、ロイクに視線を向け、
その刹那の隙を狙い澄ましたように、一匹の貓鬼がアニーシャルカに躍り掛かる。
危機を察知したアニーシャルカは素速く振り返り、
「余所見をするな雷刃」
氷のような声と共に放たれた神速の剣撃が、アニーシャルカの喉笛に喰らいつこうとしていた貓鬼を、一刀両断する。真っ二つとなった貓鬼は破裂し、霧と化し、消滅する。立て続けに湾曲剣が、鋭い軌跡を描く。迫り来る貓鬼の群れが、連続して消滅する。
雷の剣を振るいながら、アニーシャルカは傍らに立つ男を見やる。「そういうもんがあるなら最初から使えよ、猟犬」
「効果があるのか見極めていた」云いながら、ツァギールは押し寄せる呪いの軍勢を次々と斬り払っていく。猟犬が左手に握る湾曲剣、その刀身が、あたかもエンチャントを受けているかのように碧色の焰に燃え上がっている。──そう、ツァギール自身、この品物が貓鬼に通じるのか半信半疑だった。これは、対魔法攻撃用に特化した魔道具。魔法の一種とは云え、霊体生物である貓鬼に、果たして幾ばくの効果が期待できるか……だが、アニーシャルカの戦い──貓鬼の消失反応、魔力残滓の様子──を悉に観察し、ツァギールは確信を得た。呪いはやはり魔法の一種、ならばこの品物は貓鬼に対しても有効だ、と。
ツァギールは剣で呪いを斬り払い、その勢いのまま身を捻り、背後のロイクに布製の小袋を投げつける。
「使え」
受け取ったロイクは小袋の口を開け、
「なるほど、〈妨害術〉かッ!」
得心したように叫び、すぐさま小袋をひっくり返す。魔力を反射する特殊な魔水晶を細かく砕き、その砕片を焰硝と混ぜ合わせ作られる対魔法戦者御用達の魔道具〈塵〉。ロイクは小袋の中身を大剣に振りかけ、鋒を床面に打ちつける。摩擦により〈塵〉が発火し、碧色の焰が勢いよく大剣を包み込む。中位魔法程度であれば難なく相殺することの出来るこの焰ならば、なるほど、霊体である貓鬼を討ち払えるのも頷ける。ロイクは大剣を担ぎ上げ、ここまでの自身の不甲斐なさを払拭するかのように、凄まじい勢いで呪いに斬り込む。
瞬く間に、四方八方、あらゆる場所で赤紫の炸裂が巻き起こる。
ディアナの鋭い双槍の舞いが、レオパルドの力強い幅広剣の斬撃が、アニーシャルカの乱舞する二刀の雷刃が、ツァギールの湾曲剣の神速の連撃が、ロイクの激烈な大剣の一撃が、生者を喰らおうと牙を剥く呪いの大群を、烈しく燃え上がる焰のような勢いで、次々と屠り去っていく。さすがは十闘級、さすがは元第八殲滅騎士団、さすがは聖銀級。これほど大量の呪いを相手取り、彼等は一歩たりとも退かない。各人が各様の、極限まで磨き抜かれた絶技を以て、貓鬼の軍勢を押しとどめている。もしもこの場にいるのが彼等でなければ、おそらく数秒と経たずに喰い殺されていたことだろう。──しかし、襲撃は四方からだけ押し寄せるのではない。此処はもはや呪いの中心地。呪詛の唸りが、怨嗟の絶叫が、上方で鳴り響く。頭上から、貓鬼の大群が雪崩れ落ちてくる。
上空の貓鬼を迎え撃とうとオーギュスタが杖を掲げ、
「気にするな、オーギュスタ」
言葉と同時に、一同の頭上を、凄まじい突風が吹き抜けた。
数百にのぼる風の刃が、頭上を埋め尽くす生頸の大群を、バラバラに切り刻む。
中位風魔法〈風百刃の飆〉。
重ねて、突風。風の刃。乱舞する精霊。呪いの軍勢が、吹き飛ばされる。
術式剣に飆を纏わせたヴォルフラムが、オーギュスタを一瞥する。「上は俺に任せて、お前はお前の役目に集中しろ。いいか、一瞬も途切らすなよ」
ヴォルフラムの言葉に、オーギュスタは力強く頷く。
長杖の石突きで地面を打ち鳴らし、彼女は〈力場〉を展開する。
オーギュスタは後衛魔術師だ。彼女の得意とするのは攻撃魔法ではなく、援護に特化した支援魔法。〈力場〉とは範囲支援魔法だ。探知術のように自らの魔力を周囲に散布し、範囲内に留まる人々を増強によって強化する。オーギュスタが力場に付与したバフは、血液中の魔力濃度を高めることで身体能力及びスタミナを高める〈強化術〉と、魔力によって細胞を賦活させることで一時的に自己回復力を底上げする〈治癒術〉のふたつ。範囲内にいる六人はその効果を即座に実感し、猛烈な勢いを得て、綿々と襲い来る貓鬼の軍勢を、さらなる猛攻を以て迎撃する。
即席の戦陣はいまや、押し寄せる濁流を堰き止める防波堤となって、両軍の勢いはここに来て拮抗した。そう、どう考えても絶体絶命としか思えない状況から、七人は完全なる拮抗状態を作り上げたのだ。
さすがは十闘級。さすがは猟犬、さすがは聖銀級。
この世界において、この七人は最強の冒険者たち。そう、その事実に間違いはない。……だが、それはあくまでも人間や亜人──人界という枠組みの中での話だ。
一体、どれだけの間、一同はこの拮抗状態を維持していたのだろう。そう長い時間ではあるまい。いくら彼等が歴戦の猛者だといえど、いくら力場によって能力が強化されているといえど、体力と魔力には、限界がある。
前衛として貓鬼の侵攻を押しとどめていた五人──ディアナ、レオパルド、アニーシャルカ、ロイク、ツァギール──の陣形が、ジリジリと後退する。最前線で剣を振り続けている彼等の表情は険しく、その全身は噴き出した汗にしとどと濡れ、動き続ける四肢は、絶え間ない酷使に小刻みに震えを来している。ヴォルフラムも同様だ。荒い息を吐き、激しく拍動する心臓の痛みを堪え、彼はひたすらに上空からの猛攻を迎撃し続けている。しかも、それだけではない。紅い羽根において彼の役割は、遊撃手。猛攻を凌ぎつつ、ヴォルフラムは五人の戦況を見極め、適宜風魔法による援護──〈風切り〉による攻撃と〈精霊の風盾〉による防禦──を行っていた。彼の身に蓄積した疲労は、五人に引けを取らぬほどに重く纏わりついている。だが、この場にいる誰よりも困憊しているのは、間違いなくオーギュスタだ。苦しげに眉根を寄せたその顔に、幾筋もの汗が伝う。後衛として陣形の中心に陣取る彼女は、一見安楽そうに見える。しかしその立ち位置とは裏腹に、彼女に伸し掛かる重圧は並大抵のものではない。非常に高度な技術を要求される他者への〈属性付与〉。三つ以上の術式を組み合わせた〈力場〉の形成。さらにはヴォルフラム同様、彼女も適宜光魔法による援護射撃を行っている。複数の魔法の同時併用は、魔力の消費量を増加させ、かつ術者の肉体と精神に多大な負担を強いる。しかもそのすべてを一瞬も途切らすことが出来ない。いくら後方支援に特化したオーギュスタといえど──いや、オーギュスタだからこそ、いまだ立っていられるのだ。
陣形が、さらに後退する。
雷剣を振り回すアニーシャルカが呶鳴る。「クソッ、このままじゃ押し切られるぞッ」
大剣で呪いを薙ぎ払うロイクが、頷く。「同感だッ このままじゃジリ貧だよ、どうにかしないとッ」
「どうにもならないだろう」高速の連撃で貓鬼を殺しながら、ツァギールが吐き捨てる。「僅かでも隙を作れば、陣形が崩潰する。そうなれば僕たちは終わりだ」
「まったく、どれだけいるわけッ?」双槍の舞いを演じながら、ディアナが悪態をつく。「殺しても殺しても次から次へと……蛆みたいに湧きやがって、本当に腹立つッ」
「当てが外れたな、ヴォルフラムッ」幅広剣を振るいながら、レオパルドは精霊使いに吼える。「こいつ等がくたばる前に、どうやら俺たちが先に力尽きそうだッ」
「らしいな」振り抜かれる術式剣。吹き抜ける突風。荒い息遣いで答え、ヴォルフラムは額の汗を拭う。貓鬼の攻撃が途絶えるまで、ひたすらに殺し続ける。一同が生き残る為には、それしか道がなかった。だが、貓鬼の猛攻は一向に弱まる気配を見せない。どころか、烈しさを増している気配すらある。アニーシャルカの云うとおり、このままでは押し切られる。ロイクの云うとおり、どうにかしなければならない。そう、どうにか……
「オーギュスタッ」背後の魔術師の名を、ヴォルフラムは大声で呼ぶ。「結界を張るくらいの余力は、まだ残ってるか?」
「はい」苦しげに、オーギュスタは声を絞り出す。「その程度の余力ならば、なんとか……ですが、これ以上の魔法の同時併用は、私には出来ません。もし結界を張るのであれば、属性付与と力場を、解くことになります」長杖を強く握り締め、彼女はヴォルフラムに顔を向ける。「その上、今の私の魔力量では、結界を長時間維持することは出来ません。あくまでも、一時凌ぎにしかなりませんよ」
「問題ない。幾らか時間を稼げればそれでいい」
レオパルドがヴォルフラムに訊く。「何か策があるのか?」
「噫」ヴォルフラムは真剣な声色で云う。「だが、これは賭けだ。負ければ全員死ぬ」
「賭けでもなんでも、何もしないよりはマシじゃない?」ディアナが云い、
「違いねぇ。どのみち、このままじゃ全員お陀仏だ。オメーの賭けに乗るぜ」そうアニーシャルカが応え、
「全くその通りだ。私も乗らせて貰うよ、ヴォルフラム君」ロイクが云い、
「選択の余地は無さそうだな」不快げにツァギールは舌打ちする。
ヴォルフラムは頷き、オーギュスタに訊く。「結界の準備は?」
「魔力は、すでに練り上がっています。展開自体は、いつでも可能です。しかし、周囲に貓鬼が多すぎます。このままでは、結界の中に貓鬼が入り込んでしまいます」肩で息をしながら、オーギュスタは一同をぐるりと見廻す。「結界を展開するためには、せめて一時的にでも、周囲の貓鬼を減らさなくては」
彼等の会話は、そこで中断を余儀なくされる。
周囲を埋め尽くす呪いの奔流が、大きく波打つ。怨嗟の大合唱が耳を聾する。
防禦陣形が、更に後退する。
一同の顔が険しげに歪む。ここに来てさらに勢いを増す貓鬼の猛攻。これでは、結界どころの話では──
と、一本のナイフが、空を裂くように投擲された。
高速で飛来したナイフは、ロイクの足下に深々と突き立つ。矢継ぎ早に、さらに三本のナイフがツァギール、ディアナ、レオパルドの足下に突き刺さる。
ナイフはすべて、淡い紫電を帯びている。
「仕方ねぇ、貓鬼はわたしが減らしてやるッ」正面の貓鬼を下段から斬り払うと同時に、アニーシャルカは紫電を纏った斧刀を頭上へと抛り投げ、すかさず腰裏から曲剣を抜き放つ。弧を描く刃の側面で鮮烈に耀く、蒼い魔方陣。「オメー等、巻き添え喰うなよッ!」
突き立ったナイフ、中空の斧刀、そして高々と掲げられた、魔力の漲った曲剣の意味するところを瞬時に悟った一同は、示し合わせたように、一斉に後方へと飛び退く。
アニーシャルカは眼前に迫る呪いの軍勢に中指を突き立て、
「派手にイこうぜ」
にやりと嗤い、勢いよく曲剣を振り下ろす。
「ぶっ散れ」
瞬間──炸裂。
対象に雷を付与する下位魔法〈帯電〉。その〈帯電〉を起点として上位雷魔法〈雷霆〉を発動する、アニーシャルカの考案した独自魔法。
上位連鎖雷魔法〈連鎖雷霆猛爆〉。
眩い閃光。落雷の如き轟音。解き放たれた大放電が、四方上空、凄まじい電熱を以て、範囲内のすべてを、悉く灼き尽くす。
「今だッ」
ヴォルフラムの掛け声に、
「はいッ」
オーギュスタは力強く応じ、結界術を発動する。
アニーシャルカは崩れるように膝をつく。肩で息をし、大量の汗に毛先を濡らし、突き立てた曲剣で上半身を支える。躯が重い。四肢が悲鳴を上げている。体力と魔力をかなり消耗した。周囲の銘銘も、彼女と同じような状態だ。ロイクは大剣に凭れ、ツァギールは片膝をつき、ディアナは座り込み、レオパルドは両膝に手をついている。何とか呼吸を整え、アニーシャルカは周囲をぐるりと見廻し、忌々しげに吐き捨てる。「クソッ、冗談キツいぜ」四方上空、眼に映るすべての空間が、結界の防禦反応により烈しく歪んでいる。色彩は、毒々しい赤紫。荒れ狂う結界越しの外界を埋め尽くすのは、貓鬼、貓鬼、また貓鬼。限界まで眼を見開き、怨嗟に咽喉を涸らし、歯牙を剥き出した呪いの大群が、一同を取り殺そうと結界に喰らいついている。額の汗を乱暴に拭い、アニーシャルカは足下に唾を吐く。「まったく、最低最悪の戦いだ。こんなことになるなら、あの女の命令なんか無視して、王都で飲んだくれてりゃ良かったぜ」
「まだ死ぬと決まった訳じゃない」
頭上から投げかけられた言葉に、アニーシャルカは顔を上げる。
煙草を咥えたヴォルフラムが、こちらを見下ろしている。「俺たちは、まだ終わってない」
「策があるんだよな」
「噫」
「分の悪い賭け、か」
「そうだ。お前も一口乗っただろ?」ヴォルフラムは右手に握られた一本の瓶を差し出す。受け取ったアニーシャルカは怪訝げに精霊使いを見る。紫煙を吐き出し、ヴォルフラムは云う。「オーギュスタの魔力増強剤だ。さっさとそいつを飲め。聞いてただろ、この結界はそう長くは持たない。悪いが休んでる暇はない。賭けの中心は俺とお前だ」
一息に中身を飲み干したアニーシャルカは瓶を抛り捨て、「何やる気だ」
「ぶっ放す」ヴォルフラムは吸い差しを踵で踏み消し、「俺の策戦は至ってシンプルだ。極大魔法だ」術式剣をアニーシャルカの曲剣に宛がい、ヴォルフラムは勁い眼つきでアニーシャルカを見つめる。「お前の極大魔法に俺の極大魔法をエンチャントして、あのクソ貓どもにぶっ放すぞ」




