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ドラゴンキラー  作者: あびすけ
第四話 地獄に堕つ五芒星編 第二部【第四区画】
110/150

10 ヘル・ペンタグラム 下






「興味あるはずないよね」ジュリアーヌがシュラマルを見た。「ていうかなんで此処ここにいるわけ? アンタ等狒狒ヒヒは同族で殺し合うか、技の研鑽にしか興味ないんじゃなかった?」


「知り合いか?」ザラチェンコの問いに、


詠唱術カデンツァの文言を組み立てるために、アタシは夜叉丸ヤシャマルの墓前で狒狒の血をすすってる」ジュリアーヌは長い舌で唇を舐める。「つまりアタシは羅狒魁ラヴァナの眷属、狒狒の名に連なる者。シュラマルとは古い付き合いよ。コイツはこんなところに来るような奴じゃない。コイツは魔獣狩り並にイカれてる。いったいどういう風の吹き回し?」


「私が勧誘したんだ」イビルへイムがくつくつと嗤った。「私の提示した条件に、彼は興味を示した」


「へぇ、珍しいこともあるものね、シュラマル」


「俺の宿痾しゅくあについては知っているはずだ、ジュリアーヌ」シュラマルは右胸を指先で叩く。「俺の余命はいくばくもない」


「幾ばくもないって、まだ二、三十年は生きられるんでしょ?」


「いまだ人の尺度で物事を推し量る、貴様の悪い癖だ」シュラマルは両手に視線を向ける。分厚く、堅い掌。狂気さえ生ぬるい、言語に絶する研鑽を積み重ねてきた者の掌。シュラマルはゆっくりと拳を握る。「俺はこの身が朽ち果てるその前に、この手に握りたい妖刀がある。俺はその刀をもちいて俺の舞蹈を完成させる。わかるか? 猿は踊る。獣だけが、狒狒ヒヒだけが血にまみれた舞台の上で完璧な舞蹈を演ずることが出来るのだ。悪鬼の如き我が剣技、羅刹の如き我が斬術、俺は俺の斬魔剣術を魔技マギの極致へと導く。ゆえに此処ここに来たのだ」シュラマルの視線がイビルへイムに向けられる。「貴様等の首魁が、あの二刀一刃を持っているのだろう? 開祖 夜叉丸様の牙と顎、〈無羅獅鬼鷹ナラシキダカ〉を」


 狒狒の口から放たれたその名が、ヘル・ペンタグラムの間に異様な緊張を生み出した。


「ナラシキダカだって?」キルククリが不快そうに顔を歪めた。「どういうことだ、なんでそんな名前が出てくる?」


「なぜだと思う?」イビルへイムは嗤う。


「まさか、そういうことなわけ?」ジュリアーヌは愉しそうに唇をつり上げた。「あの男・・・が、アタシたちの王ってわけなの?」


「ナラシキダカ、聞いたことがあるな」そう言ったバズロに、


「剣の名だ」ズグが吐き捨てる。その声は冷静そのものだが、しかしその内側には煮えたぎるような嫌悪と敵意が込められている。「凶剣デスブリンガーの一本だ」獰猛に唸り、ズグは猜疑に満ちた視線を死霊に向ける。「この世界でデスブリンガーの持ち主はただ一人。勇者ブレイヴだけのはずだ」


「その通り」イビルへイムは大仰に両腕を広げる。「選ばれし者だけが、あの邪遺物を所持している」


「ブレイヴ、か」ザラチェンコは呟く。その称号には覚えがある。『イイ眼をしているな』あの日、その男は少年にそう言って嗤った。両親は彼を逃がすために聖騎士アルトリウスの前に立ち塞がった。だが、少年はセイリーネスの軍勢に捕まった。魔人は忌まわしき存在。神の血に魔物の血が混じるなどあってはならない。拷問に次ぐ拷問。暴力に次ぐ暴力。いつしかザラチェンコは気を失っていた。目を覚ました時、眼前にその男が立っていた。少年の手足を繋ぐ鎖を断ち切り『逃げていいぞ』と男は言った。少年は男を見つめ、次にその背後に眼をやった。セイリーネスの軍勢の死体が散乱していた。『気にするな。お前がやったことにする』男に促され、少年は歩き出す。手足に爪は一枚もない。両腕は折れている。鞭打たれた躯には幾つもの裂傷が走っている。だが、出血はしていない。彼の中には蛇の血が混じっている。最高位のメドゥーサの魔力を受け継いでいる。恢復力は人間の比ではない。少年は歩いて行く。男が続く。少年は振り返る。『どうして僕を助けたの?』『さァな』男は首を傾げる。『おれのやることに意味なんてないからなァ、その質問に意味はないぞ』だが、そうだな、と男はしばらく考えた後、少年の眼を覗き込んだ。『お前の両親はアルトリウスに殺されたぞ』蛇の眼の内奥ないおうで、憎悪が燃え上がるのを男は見逃さない。『イイ眼をしているな』男は嗤う。『お前を生かす理由があるとすれば、その眼だ。聖騎士に復讐を誓う魔人、面白そうじゃないか。おれは面白いのが好きだ。劇的なのが好きだ。混沌としているモノが好きなんだ』そう言って男は背を向けた。その背に、少年は問い掛ける。『あなたは誰?』その言葉に、男は舌を出した。そこには逆五芒星ヘル・ペンタグラムの痣が浮かんでいた。そして男は名乗った。


「ギグ」ザラチェンコは感慨深げにその名前を繰り返した。「大勇者 ギグ・ザ・デッド」


「神の切り札」ベルゼーニグルが呵々かかと嗤う。「皮肉がきいていてイイじゃねぇか。まさにオレたちの王として申し分ない」


「奴は俺たちの側じゃない」ズグが立ち上がる。鷲の翼が大きく広げられる。獅子の鬣が逆立つ。精霊が騒ぎ出す。常に冷静沈着なはずのズグが、怒気を露わにする。兄に呼応するようにバズロとマシュズも牙を剥く。ズグは額と額が突き合うほどの距離までイビルへイムに迫る。「魔人がいようが魔女がいようが気にしない。貴様が生前人間であったこともどうでもいい。今や貴様等は超越魔物トランシュデ・モンストルだ。しかし、あの男は違う。奴は神の側だ。正真正銘人間だ。勇者を王と崇めるなど、俺たち兄弟を侮辱する気か?」


獅鷲パズズの言うことにも一理ある」キルククリが身を起こす。「なんで僕等が人間に付き従わなきゃならない? いや、そもそもさ、ヘル・ペンタグラムっていうのはギグ・ザ・デッドを殺す為に作られた組織なんじゃないのか?」


「そんなことを言った覚えはないよ」イビルへイムはパズズと妖狐を見やる。「セイリーネスを滅ぼす、私が君たちに約束したのはそれだけのはずだ。その言葉を君たちがどう解釈したのかについては、とやかく言うつもりはないがね」


「誰が王だろうと、アタシは気にしないわ」とジュリアーヌ。「問題なのはアタシたちの上に立つ奴が王として相応しいかどうかでしょ。あの勇者はデスブリンガーに選ばれた。それだけで王の資格としては充分なんじゃない? 奴が神の側にいようがどうでもいいわ」


「俺もだ」ザラチェンコが同意する。「俺はセイリーネスを、いや、アルトリウスを殺せるならそれでいい。それに勇者には個人的な借りがあってね、一度会って礼を言いたいと思っていたところなんだ」


「貴様等は、やはり人間のままか」ゆっくりと、ズグが二人に向かって歩き出す。精霊が蠢き出す。殺意が滲み出る。「俺たち兄弟は、人間と手を組んだ覚えはない」


「だったらなに?」ジュリアーヌが杖を手に取る。「アタシとろうってわけ?」


「俺たちは魔物だよ」ザラチェンコが剣に手をかける。「だが信用できないというのなら、俺たちが超越魔物だとどうしても確かめたいというのなら、仕方ない、少し遊ぶか?」


 三兄弟、魔女、魔人の間の空気が張り詰める。


「ハハッ、いいね」妖狐が愉しげな声をあげる。「超越魔物同士の殺し合いなんてそうそう拝めるもんじゃない。見物だね」


うるさい奴等だ」シュラマルが眉を顰める。「貴様等の殺し合いに興味などない。やりたければ好きにしろ。だが、俺の瞑想を邪魔するな」狒狒は鞘尻さやじりで床を打ち鳴らす。「貴様等全員、俺の間合いだ。首をねられたくなくば、失せろ」


「どいつもコイツも殺しが好きだねぇ」悪魔の金属質な声が響く。「見ろよイビルへイム、コイツ等の血に飢えた顔を。コイツ等は結局のところ闘争と殺戮にしか興味のない、獣以下のクズどもだ。イヤなに、オレは褒めてるんだぜ? これこそが超越魔物だと思わないか? これこそが、ヘル・ペンタグラムのあるべき姿だと思わないか?」


「だとしても、看過することはできないな」イビルへイムは険のある声で答えた。「我々の組織にはひとつだけルールがある。そのルールは絶対だ。なぜならそれを違えてしまえば、ヘル・ペンタグラムは組織として成立しないからだ」


 止めようとイビルへイムが殺気立つ同胞たちの間に割り込もうとした、その時。


 異質な魔力を、ヘル・ペンタグラム全員が感じ取った。


 魔物たちの声が止んだ。


 何かが、近づいてくる。


 いや、何が近づいてくるかなど、彼等にはわかっている。


「おいおい、〈王〉が到着したというのに、出迎えもないのか?」


 男の嗤い声が闇の中に響いた。


 獅鷲の視線が、


 九尾の視線が、


 魔女の視線が、


 魔人の視線が、


 悪魔の視線が、


 狒狒の視線が、


 そして死霊の視線が、部屋の入り口へと向けられた。


 人間がひとり、佇んでいた。隠修士じみた蓬髪ほうはつの男だ。血と瘴気に汚れた聖衣ローブを纏っている。両のまなこは白濁し、露出した皮膚には百足のような縫い跡がのたくっている。男は邪悪な笑みを浮かべながら魔物たちを見ている。腰にいた四本の剣が揺れ動く。男の躯から漏れ出る魔力が室内に満ち満ちる。魔に属する者たちにとって、もっとも忌々しい聖なる魔力、まさしくそれは神の魔力装甲。


 退魔の神聖衣ル・サンクトゥス・マギペゾルガが魔物たちを圧する。


 ギグ・ザ・デッドは楽しそうに部屋に踏み入る。


「我等が王よ」ギグの前に進み出たイビルへイムが、慇懃に頭を下げた。「我々ヘル・ペンタグラムは、貴方の入城を心待ちにしていた。さあ、どうぞあちらに」


 死霊が指を鳴らすと、部屋の奥に玉座が現れた。あらゆる種類の亜人や魔物の骨を用いて組み立てられた、それは異形の玉座だ。


「気が利いてるな」ギグは悠々と魔物たちを横切り、玉座に腰掛ける。月明かりが闇に紛れたヘル・ペンタグラムの面々を照らし出す。忌々しげに牙を剥く獅鷲の三兄弟。不愉快そうに眼を細める九尾。興味津々といった様子で彼を見つめる魔女。肩を揺らし、くつくつと嗤う魔人。歓迎するように腕を広げる悪魔。侍従のように傍らに付き従う死霊。そして冷徹な眼差しで、勇者の一挙手一投足を値踏みしている狒狒。


「よくもまァ、これだけ集まったモノだな」ギグは嗤い、舌を出す。そこには逆五芒星ヘル・ペンタグラムが刻まれている。「これよりお前等はおれの麾下きかに入る。大勇者たるおれの元で戦うことが出来るんだ、少しは喜んだらどうだ?」


「俺たち兄弟は、まだ貴様を王だと認めていない」そう唸ったのはズグだ。剣呑な眼差しで勇者を睨んでいる。だが、先ほどまでの敵意はいくぶん薄れている。それは彼の弟たちも、またキルククリも同様だ。


 この場にいる全員が、勇者の姿を見るなり気づいたのだ。


 この男はすでに人間ではない。


 この男は明らかに〈魔の住人〉だ、と。


 人間の下につくなどあり得ない。そんなことをするくらいなら今この場でヘル・ペンタグラムを敵に回した方がマシだ、ズグはそう考えていた。だがイビルへイムが崇める王が人間ではないのなら、この男が間違いなく超越魔物なのだとしたら、一考の余地はある。たとえ我等の王が忌々しい勇者だったとしても、あのセイリーネスを潰せるならそれでいい。いや、そもそもこの状況、すでに聖都を陥落させたといっても過言ではない。なぜならセイリーネス最大の戦力とは、このギグ・ザ・デッドに他ならないのだから。確かにセイリーネスには勇者の他にも厄介な存在が二体いる。光の騎士団を率いる聖騎士アルトリウスと、魔物でありながら聖都に忠誠を誓った堕天使ベリアル。このふたりは侮りがたい。間違いなく超越魔物に匹敵する力を持っているだろう。だが、この世界の魔物どもがもっとも恐れていたのは、もっとも触れたくなかった存在は、聖騎士でも堕天使でもない。


 なぜ、各地の魔物どもが大人しくしていたのか。


 なぜ、三百年前とは比べものにならないほどの魔力を身につけた超越魔物が、大々的に行動を起こしてこなかったのか、いや起こすことができなかったのか。


 この男がいたからだ。


 神の切り札。


 序列第一層。


 そしてテオスセイル世界連合軍 特級戦力第二位。


 穢れた大勇者ブレイヴ・オブ・デス ギグ・ザ・デッド。


 数秒の逡巡の末、ズグは警戒態勢を解く。


「いいだろう」彼はギグを睨む。「貴様が俺たちの王で問題ない」


 弟たちはズグにならうように頷く。


蘇りし者レヴェナント、か」キルククリが訝しげな視線をイビルへイムに向けた。「奴が死種アンデッドに転化していたこと、どうして今まで黙ってた?」


「セイリーネスが勇者ブレイヴの死を秘匿していたのと同じ理由だ」死霊はたしなめるような口調で口を開く。「話せば君たちは勝手に動くだろう? だが、勇者がいないとはいえ、彼方あちらにはまだベリアルとアルトリウスが控えている。彼等は狂信者だ。超越魔物クラスの力を有した、殉教をいとわぬ神の使徒。恐ろしいとは思わないか。時として誇りや信念を持つ者は、想像を絶する力を発揮する。あのふたりを排除するのは簡単な事ではない。我々には確実な勝利が必要だ。であるならば、団結するべきだと私は判断した。たとえそれが利害関係の一致による、一時的な物であったとしてもだ。それに、もっとも厄介な問題が残っていた。わかるだろう、結界だよ。我々〈魔の住人〉では、セイリーネスの結界を突破するのは非常に困難だ」イビルへイムは闇のローブを翻し、大仰な身振りで玉座のギグを指し示す。「だが、彼なら、我等が王ならば、あの結界を打ち砕くことが可能だ」


「そうだな」ギグは何でもないことのように言う。「おれなら結界を消せる」


「結界が消え去れば、あとは簡単だ」イビルへイムは哄笑する。「我々ヘル・ペンタグラムは全力を持って人間を、天使を、セイリーネスを蹂躙する。好きなように暴れ、好きなように殺してくれて構わない。超越魔物としての力を存分に、思うがままに振るってもらいたい。だが忘れるな。アルトリウスとベリアルは危険だ。出来れば最初に排除することをお勧めする」


 イビルへイムの言葉に、魔物たちは明らかに高ぶっている。


 闇が沸き立ち、室温が上昇する。


 殺意、悪意、憎悪。あらゆる負の衝動が渦巻きはじめる。


 獅鷲たちはたてがみを震わせる。


 九尾は尾の魔力を揺らめかせる。


 魔女はにやりと嗤う。


 魔人は記憶を呼び起こそうと巨刃に触れる。


 悪魔は金属質の声を上げる。


 狒狒だけが、冷めた表情で一同をめている。


「我々は世界を獲る」イビルへイムはゆっくりと拳を作り、ヘル・ペンタグラムの面々を順繰りに見やる。「だからこそ、今一度ヘル・ペンタグラムのルールを思い出してくれ。我々の間で取り交わされた掟は、たったの一つ。仲間割れの禁止だ。先ほどのような小競り合いはもう見たくない。同胞同士で殺し合い、戦力を減らすなど言語道断だ。抑えきれぬ殺戮衝動はセイリーネスに、我々の敵へと向けることにしようじゃないか。もし今後、あのような諍いが起こった場合、その対処は王に一任することとする」


「おれが裁きを下すというわけだ」ギグが言う。


「その為に王がいるといっても過言ではないのでね」イビルへイムはギグに向きなおる。「前に貴方あなたに言ったはずだ。我々は超越魔物だ。そして超越魔物とは他者に従うことを好まない。多少の協力や妥協はあれど、絆や団結などといったものからもっとも遠い地平に立つのが我々トランシュデ・モンストルだ。セイリーネスという共通の敵を掲げることでどうにか組織の体は保ってきたが、しかしそれだけではやはり土台が弱い。であるならば、やはり象徴が必要だ。崇めるわけではない。忠誠を捧げるわけでも、信を置くわけでもない。〈王〉とは恐怖の対象であるべき、絶対的な力の象徴であるべきだ。貴方はくさびだ。我々ヘル・ペンタグラムを恐怖によって繋ぎ止めておく、重要な楔なんだ。掟を破れば罰が与えられる。王に背けば裁きが下される。背教者には、貴方みずからが剣を振り下ろす。これほど恐ろしいことはないと、そうは思わないか?」


「確かにな」ギグは嗤い、「おれの下す罰はひとつだけだ」魔物たちを見回す。白濁した双眸が邪悪に光る。「裏切り者は、ただ殺す。肝に銘じておけ」


 一同に異論はない。


 この男には自分たちを殺すことの出来る力があると、わかっているから。


みなの納得が得られたところで」イビルへイムがギグの方へ一歩踏み出す。「王よ、少し話したいことがある」


「なんだ」


「セイリーネス以外の障害についてだ」


「魔獣狩りか」


しかり。話を聞く限り、あの人狼は危険すぎる。早めに処理したい。それに、クシャルネディアだ」


祖なる血魔ルーツ・ヴァルコラキか」


「それだけではない。是非、貴方あなたの意見を伺いたい事柄がある。神の切り札として、教会の守護者として三百年前の種族全面戦争に参加していた貴方に、テオスセイル世界連合軍 特級戦力にまで数えられた貴方にこそ、聞きたい問題があるのだ」


 ギグは首を傾げ、眼で先を促す。


 イビルへイムは一拍の間を置いた後、


「赤い魔力が目撃された」ギグに視線を据え、イビルへイムは続ける。「数ヶ月前のヤコラルフ、魔獣狩りと何か・・が戦った。その激戦により、帝国の辺境都市は一夜にして崩壊した。あの夜、ヤコラルフには我等が同志ザラチェンコが滞在していた」そこでイビルへイムは魔人に話を向ける。「君はあの時、空が赤く染まるのを見たのだろう?」


「ああ、ヤコラルフのすべてが赤く染まった。そして次の瞬間、レヴィアが死んだ」ザラチェンコはあの夜、もっとも印象的だった光景を思い出す。天を焦がすように立ち上る、赤い魔力の奔流。そのあまりにも禍々しく、赫々かくかくたる光景は、こう表現するに相応しい。「まるで、赤い翼がすべてを覆い尽くしているかのようだった」


「これを貴方ならどう考える」イビルへイムは真剣な口調で勇者に迫る。「生き残りがいると考えるべきかな? 人類の生み出した殺戮者たち、魔導生体技術の極致、生体兵器ドラゴンキラーの生き残りが存在すると、そう考えるべきなのか?」


「赤い翼。興味深い表現だ」ギグは玉座にもたれ何かを考えていたが、不意に身を起こし、イビルへイムとザラチェンコを見据え「情報が少なすぎる」そう言って嗤い、しかし、その眼は嗤っていない。


「知ってる事をすべて話せ。〈奴〉の可能性がある」






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[気になる点] ギグ・ザ・デッドが死んだことはセイリーネスによって秘匿されてたはずなのに、ブラックリストの序列第一層に「穢れた大勇者」としてギグの名前が書かれてるのは何故ですか?
[良い点] ほんッッッッとカッコいいな、この作品。こんな厨二心をくすぐられるラノベが無料で読めるなんておかしいよ。 [気になる点] なんかギグが守護竜に勝てる訳ないとか言ってる人達居るけど序列第二位だ…
[気になる点] ドラゴンキラーの方では夜叉丸だけど、修羅のガキョウの方では夜叉円になっている。 違う作品だし、別人物かもしれないけど。
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