秋の後日談2~美少年メイドはスカートめくりを拒否る~
秋話後の、文化祭絡みのお話です。
文化祭を前日に控えた秋の日。
明日からの祭に備えて、何でも屋が招集された。
「さて、明日から二日間が今学期の山場の一つよ。みんなそれぞれの役割は分かってると思うけど、気を抜かないようにね」
リーダーからの発破かけに各々了解と返事をする。
「特に、央守さん」
「え、私? 大丈夫ですよ、しっかりがっつり役割を果たしますって」
名指しで注意されてしまう理由はよく分かってるが、私も何でも屋の一員である。そんな不安な眼差しで見ないでほしい。
「まーねー。央守の例のアレ、アンタが嫌がったらアタシが代わりに請け負いたかったもの」
「今回の祭の目玉のひとつだから、アレは」
文化祭で私が請け負っているお仕事の一つに、とてつもなく個人的に楽しみにしているものがある。
それ関係の依頼が殺到し、どうしたもんかと悩んでいたのだが色んな方面の助けを借りて、某人物にとってもそこそこいい結果になるのではと思う。
……でないと、絶縁されてしまうかもしれない。
「そういえば、これ極秘情報なんだけど、ガーターベルトにドロワーズ着用するらしいよ?」
――――な、なんだと!!?
「うっわー。本格的ねぇ。乙女の執念を感じるわー」
「つーか、嬉しいか、その情報?」
「え、だって、アッキーってば身悶えてるし」
衝撃の新情報に、悶える私を周りはとてつもなく生暖かい目で見守っている。
「女子ってこういうの好きだよね」
「俺には理解できん」
うっさい、黙れ。
だって、絶対に可愛いに決まってるし!
あー、もう、明日がすっごく楽しみ~。
「うん、本当に頼むわよ、央守さん。鼻血吹いたとか情報入ってきたら、後でしめるからね」
「はーい。お任せあれ」
そして、迎えた文化祭当日。
私の目の前には「男女逆転☆カフェ~スウィートハネムーン~」という看板。
今回の文化祭で、前評判のスゴさで断トツの1位を冠した出し物である。
一年生のクラスの出し物が、上級生を抑えトップに名乗り出た一因が某有名美少年の女装である。名前の通り、男子はメイド、女子は執事のコスプレをして給仕してくれるというコンセプトカフェ。
そう、こちらは蔵人くんのクラスなのである。
厳正なるくじ引きの結果、給仕担当を引き当てた彼は現在メイドの恰好で、みんなの好奇の視線に晒されているに違いない。
「では、かわい子ちゃんを助けに参りますか」
教室の入り口に近づくと、受付担当の子がお出迎えをしてくれる。
「いらっしゃいませ。申し訳ございませんが、当店は完全予約制となっております。チケットの掲示をお願いします」
出迎えてくれたのは、男子生徒なのに普通に執事の恰好をしている眼鏡くんだ。胸元にあるネームプレートには支配人という文字。ということは、彼がこのクラスの代表というわけか。
前評判の凄まじさに、急きょ生徒会から完全予約制にしろと指導をいただいたこの出し物に参加するには、入手困難を極めたチケットの掲示が必要である。
「はい、どうぞ」
支配人役の子に、チケットを掲示する。
そこに記されているシリアルナンバーを確認して、眼鏡くんは私の顔を凝視する。
「え、先輩が?」
「内緒だよ? じゃあ、店内に案内してくれるかな」
口元に人差し指をあてて、静かに微笑む。
記されている番号は000。
依頼人にはこの番号で来店する人間が何でも屋だと伝えてある。
うわー、マジかよという呟きは何に対しての驚きなのだろう。
窓際の席に案内され、メニューを渡される。
眼鏡くんに、担当給仕は誰がいいのかをきかれる。
写真入りのメンバー表を眺めると、蔵人くん以外にもパッと見、男子生徒とは分からないくらいかわいい子が何人かいる。女子生徒らのメイクの頑張りのおかげであろう。
……まあ、中にはネタにしかならない化け物も混じってるけど。
「予約を入れてるから、ご存知だよね?」
「はい、承っております。クララ、こちらへ」
名前を呼ばれてテーブルに来たのは、いわゆるメイド喫茶などでよく見受けられるふりっふりのメイド服に身を包んだ蔵人くんだった。
黒色の膝上のワンピースにフリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレス、同じく白いフリルの付いたカチューシャの組み合わせのガチのメイドさんである。ドレープが多く膨らみをもったスカートから覘く足は白色のニーソックスを着用し、誰かの指導の賜物なのだろう、じゃっかん内股である。
上から下まで満遍なく眺め上げる。
「うわー、予想はしていたけど、ここまで可憐な美少女メイドにな「ご注文はお決まりですか、お嬢さま?」
私の感想をぶった切って、見た目の割に笑顔の怖いメイドさんがオーダーをきいてきた。もう少し愛想よくサービスしてほしいとか思うのはダメだろうか。
まあ、女装という情報が流れてからの学内の盛り上がりを鑑みると、開店してからずっと好奇の目に晒されてたのだろう。不機嫌オーラがすごいし。
でもですね、仮にも客商売だろう、もうちょっと、こう……と求めるのはワガママだろうか。
「えーとね、コーヒーとこの特製カツサンド。あとは、これ」
メニューの下の方に記載されている、このカフェの目玉メニューを指し示す。
「…………へえ、それを、注文されるんですか」
蔵人くん改め、クララちゃんは絶対零度の視線を向けてくる。
うわー、すっごい冷たい眼差しで見つめてきちゃって、お姉さんビックリだぞ。
「うん。このメイドさん限定メニュー『スカートめくり0円』もお願い」
ネタとして掲げられているメニューを読み上げると、店内にいた他の客たちが一斉に騒ぎ出した。
「え。あれ頼む人いたの?」
「つか、女子じゃん、アレ」
「木屋くんのスカートとか興味あるけど、絶対無理。あの氷の眼差し受けてまでめくれないって」
「あれって、例の先輩じゃない?」
ははは、騒げ騒げ。そんな喧騒に負ける私ではない。
この話をきいて、絶対にめくると決めてこの場所に挑んできているのだ。
美少年メイドのスカートをめくる機会とか、この時を逃したら一生ないに違いない。
「お嬢さま? ここの注意書き、読まれてますか」
クララちゃんが指し示した箇所には『ただし、メイドの許可が必要です』との一文。
「うん。めくっていい?」
確認済に決まってるじゃないか。だからこうしてお伺いをしているのだ。
おねだりする私の真意を図りかねているのか、クララちゃんはさらに険しい顔でこちらを睨みつけている。
もう少し、したたかになったらいいのにねーと、とある提案をこちらから示す。
「ギブ&テイクといこうじゃない。君のおねだり、可能な限り叶えてあげるよ」
「え」
クララちゃんが私のことばに驚く。
「な、なんでもいいんですか? 本当に?」
「おうよ」
だから、さっさとそのスカートの中身を差し出しなさいな。
悪いようにはしないから。たぶん。
「…………………………………………分かりました。ど、どうぞ」
長考の末小さく呟き、私の方へ近づいてきてくれる。周りの客たちも私たちの一挙一動に注目しまくっている。
ぺらりと、ちょびっとだけめくって昨日仕入れた情報を確認する。もちろん、クララちゃんのプライバシーのために、私にしか見えない絶妙な角度をキープしてからの行為である。
「うっわ、マジでガーターベルトにドロワーズ……」
誰か知らないけど、グッジョブ!!
しかも、某有名ブランド物とみた。
ささっと、スカートを戻し、赤くなっているクララちゃんの顏も脳内メモリーにきっちり保管する。
かーわーいーいーっと心の中で絶叫しておく。
やべぇ、私の中の何かが炸裂しそうだ。
さて、個人的に大変満足したところで仕上げと参りましょうか。
まわりにも聞こえるようにわざと声量をあげる。
「もう、クララちゃんてば本当にかわいいっ。支配人!」
「なんでしょう、お嬢さま?」
「この子、気に入ったのでお持ち帰りを希望したいな。あなたの許可が出れば、お持ち帰り可能なんだろう?」
メニューのさらに下に記されているもう一つのネタ。
『気に入ったメイドは支配人の許可が出た場合にのみ、お持ち帰り可能です』
「さあ、この子のお値段を教えて?」
どこの有閑マダムかという風情で支配人に問いかけをする。ぶっちゃけ、ノリノリである。
後から色々言われるのは分かっているので、ここは大いに悪ノリしてやろうじゃないか。
「お嬢さま、このクララは当店一番人気のメイドでございます。例えいくら積まれましても許可は出せないのです」
ネタはネタ。
支配人は決められた台詞で断りをいれる。普通ならこれで終了するのだが、私にはそれをひっくり返す武器と役割がある。
「ふーん。なら、これならどう?」
と、用意していた封筒を取り出し、支配人役の後輩に突きつける。
「中身を確認してもらっていいかな。きっと、あなたが喉から手が出るほど欲しがっているモノだよ」
中身を取り出し、内容の確認をすると支配人役の子は素で驚愕していた。
「こ、ここまでの情報って」
「その書類はほんの一部。クララちゃんを譲ってくれるのなら、私の調べ上げた全部の情報を提供しようじゃない」
中身は野球部マネージャーを務める彼からのオーダーで集めた他校の詳細な各種データベース。
今回の依頼に関しては、彼にも結構な協力をいただいてるので、そのお礼兼何でも屋の正体に関する口止め料でもある。
眼鏡くんは小さく、マジかよ……何でも屋半端ねぇと呻くと、
「わ、分かりました。ここまでのものをご用意された貴女さまにクララをお譲りいたしましょう」
支配人の一言にざわめく店内の客と、給仕役や裏方の生徒たち。
その騒ぎをまるっと無視して、クララちゃんの手を握る。
「せ、先輩?」
「走るよ」
店内を二人で飛び出し、静止する声を振り切って校内を走る。
追っ手を撒くために、秘密通路を使いながら第二校舎の屋上入り口へとたどり着く。
「よし、ここまでくれば大丈夫でしょ」
横で息切れしている美少年メイドを取りあえず放置して、任務完了の連絡を入れる。
「あ、もしもし? 私です。無事に美少年メイドの救出終わったので、アナウンスをお願いします。え? いえいえ、そんなことしてませんて、それしたら犯罪じゃないですか。失礼な、鼻血もふいてませんからっ! はーい、後はお願いしまーす」
通話を終わらせてしばらくすると、ピンポンパンポン~♪と学内アナウンスが始まった。
「本日は文化祭へのご来場、誠にありがとうございます。先ほど、一年B組にて突発イベント『美少年メイド誘拐』が開催されたことをご報告いたします。このように、文化祭運営委員会では一部の生徒の方にご協力いただいて、パンフレットにはないイベントや寸劇を予告なしに学内各所で行います。ぜひ、皆様楽しみにしておいてくださいませ。次回の突発イベントは今から一時間以内に第一校舎内にて開催予定です」
「え、これって」
アナウンスをきいた蔵人くんは私の方に目を向け、説明を求めてきた。
「はい、お疲れさま。これ着替えね」
支配人役の子より預かっていた着替えを蔵人くんに押し付ける。
「さっきの眼鏡くんからのご依頼で、君を教室から攫ったんだよ。文化祭のイベントを利用してね」
依頼の内容は、くじ運のない友人を上手いこと早急に給仕役から解放してあげてほしいというささやかなお願い。
「いい友達をもったね。最近不安定だったの、この件絡みじゃないの?」
「ノーコメントです」
蔵人くんの女装姿の写真が欲しいとか、チケットが欲しいとかいう依頼が殺到した中で、目についた友人を助けたいという依頼。
クセのある子だから友人関係とかどうなってるんだろうと実は心配してたけど、クラスに味方といえる仲間がいるのだと安心したのだ。
「先輩も、ありがとうございました」
小さく呟かれたお礼の言葉にどういたしましてと返しておく。
「でも、スカートめくりのくだりっていらない、ですよね」
蔵人くんがふと、顔をあげる。
「ん?」
「あれ、必要でしたか?」
じーっと、見つめてくる後輩の冷たい視線に目を逸らす。確かに、いたいけな美少年を助け出すだけなら、あのスカートめくりは不要な行為だったであろう。
しかし、目の前に極上のメイドさんがいて、許可が出たらめくっていいとか、中身がガーターベルトにドロワーズとかきいてたら、人としてめくるのは当然の行為だと思うのです!
「先輩?」
えへへと笑って、蔵人くんから距離をとる。
「ごめんね?」
と謝って、その場からダッシュで逃げ出す。
背後の方で蔵人くんが何やら色々文句を言っているが聞こえませーん。たまには私だって、本能のままに美少年に萌え萌えしたかったんですー。
いいじゃない、その代わり君のおねだりも叶えてあげるんだからさ。
ま、内容によったら、ごめん無理とお断りしちゃうかもだけどね。
重複投稿先の某カクヨムさんでは、この話だけ異様にアクセス数が多いという。
……タイトルって、大事なんだと思った一件であります(笑)