文化祭の後日談~結局は惚れているということ~
『生徒会副会長 木屋蔵人(二年生)』
文化祭の翌々日、掲示板に貼りだされた新生徒会メンバーの告知文には、しっかりと我が彼氏さんの名前がある。
いつの間にやら目をつけられ、知らないうちに仕事を覚えさせられ、自覚のないままに候補者試験を受けさせられ、見事に合格して副会長に就任された蔵人くん。
「あれ、アッキーてば、こんなとこで何してんの?」
新生徒会の面子の他にも貼り出されている、各委員会の新しい代表者や部活の新部長の名前をついでに眺めていると、盛沢に声を掛けられた。
「いやー、本当に蔵人くんが副生徒会長になっちゃってるなーと確認してるとこ」
「木屋はなんて?」
「……現実を未だに受け止めきれてない感じ?」
振替休日だった月曜日。
定番のデート場所でもあるファーストフード店でも、心ここにあらずといった感じだったし。
副会長よりも、何でも屋の代表という役目のプレッシャーが半端ないと震えていたかな。
さりげなく色々と査定されていて、これって生徒会の仕事なのかと疑問に思いながらも、密かに何でも屋関係の仕事をさせられていたという蔵人くん。
自分の鈍さにも大いに嘆いたな。どうも、目の前の仕事をやっつけることに一生懸命になって、仕事の内容のおかしさに気付けていなかったらしい。
……だから、普段から周りに目を向けろと言い含めてたんだけどね。
「まさか、オレ以外の奴が木屋に負けるなんて思わなかったし」
「私もきっちり三勝してくるなんて予想外だったよ」
蔵人くんの初戦の相手でもあった盛沢は、不貞腐れている。
「結局なんの勝負したわけ?」
こいつが蔵人くんに負けたのは知っているが、何の勝負をして負けたのかが大変気になる。
私以上に体力バカな奴に、蔵人くんはどうやって勝利をおさめたのだろう?
「言いたくありませーん。学校中を彼氏とおいかけっこして、楽しみまくった誰かさんとは全く違う内容だったのは確か」
「いや、楽しんだのは確かだけどね」
あれはですね、最初から蔵人くんとの思い出の場所を周ってやろうと企んでいたのですよ。
時間がもう少しあったのなら、食堂とか、お互いの教室とか、中庭とかもっと周っていたのです。
全力で校内を駆け巡る私に付いて来れるかが、最大のポイントだったのだが、なんとか食らいついていたので及第点といったところだったけど。
「しかも、なに? ずっっっっっと呼んでもらえてなかったからって、下の名前で呼ばれただけで自分から捕まりに行くとか意味分かんないし」
「あっはっはっはっ。…………なんで、そこまで詳細を知っているのかな?」
おっかしいな、その情報は誰にも公開した記憶はないんだが。どこで拾ってきやがったのかなー?
「いやいや、現役の何でも屋を舐めてもらっちゃ困るんだよね、元、何でも屋さん?」
「やだ、盛沢ってば、私に喧嘩を売りたいわけ? なんで文化祭で売って来なかったのさ、思う存分叩きのめしたのに」
「個人的趣味に奔ったかるたなんかで勝負されたら困るじゃん? それに、あれって最後に流れたアナウンスが一番の肝だったよね」
盛沢の言う通り、文化祭の最終ラウンドの終わりを告げる鐘の後に、閉幕を告げるアナウンスと共に、とある発表もあった。
――生徒会室までたどり着き、見事に黒岩居元会長を打ち破った生徒を新しい生徒会長にする旨。
そして、それに合わせて、生徒会の新規メンバーと各委員会の代表者を校内放送で発表したのだ。
それぞれ役目をもった生徒に課せられた後任の選出を、他の三年生の代表者たちを巻き込んで、文化祭でやってのけたのだ、あの二人は。
狙いを定めた生徒の器量の最終確認と、断られないようにするための校内放送と掲示板での告知。
全校生徒に周知される形で指名された生徒には、逃げ場がないという鬼仕様である。
毎年、この後任の選出はなかなか決まらなくて苦労させられるらしいのだが、文化祭……二学期ぎりぎりまで仕事を請け負う代わりに、こんな舞台を用意して役職の人員の引継ぎをするとか、すご過ぎるし。
巻き込まれたであろう共犯者たち……各委員会の委員長や、部長、生徒会役員などの苦労が目に浮かぶし。
なにより、有無を言わさず次代の重要な役職に任命された後輩らは、涙したであろう。
…………蔵人くんとか、ね。
かさねくんに関しては、一学期の終わり、早々に引継ぎをしてしまったので関係なかったが、この文化祭の絡みがあったので、元副会長様は私への辺りが一時期冷たかった。
なぜに文化祭まで待てないのかと。んな事言われましても、私にも都合というか、タイミングというかあったわけだし。
「で、新しく生徒会長に任命されたのって、どんな子なの?」
「え? 盛沢も知らないの?」
盛沢とお互い、きょとんと見つめ合う。
新生徒会長の名前は、宇佐美優真。学年はかさねくん達と同じ一年生。
はっきりいって、今回の文化祭ではじめて知った名である。
蔵人くんに確認しても、生徒会や委員会などに一切係ったことないのない子で、なんで黒岩居元生徒会長がその生徒を選んだのか分からないらしい。
「知らなくて当然だと思うよ」
声が聞こえた方を振り返ると、かさねくんがやっほーと挨拶してきた。
「かさねくんは知ってる子?」
「同じ学年だもん、明子姉とかよりは知ってるよ。……どーも、盛沢せ、ん、ぱ、い」
新生徒会長についてきこうと思ったが、かさねくんと盛沢の間にある微妙な空気に、二人の様子を静かに見守る事にする。
盛沢は、春にかさねくんに負けてしまったのがいたく気に入らなかったらしい。二年生であるにも関わらず、わざわざ三年生側にまわり、最終戦の相手になると名乗りをあげてまで、かさねくんに喧嘩を売りにいった間柄である。
どんな内容の戦いをしたのかは知らないが、勝敗は知っている。
「かさりん、文化祭ぶりだね」
「……その妙な呼び方、止めてもらえませんかね」
私や蔵人くんにすら敬語を殆ど使用しないかさねくんが、渋々盛沢には敬語で話しているという事態。
うん、風の噂で聞き及んでいたが、本当にかさねくんが負けてしまったらしい。
春先の勝負はかさねくんが不意打ちで勝利をおさめた。しかし、今回は盛沢がどんな手を使ったか分からないが、かさねくんに上下関係を認識できるくらい見事に勝利したのだろう。
「本当にかさねくんが負けちゃったんだね」
「ちょっと、アッキー。その発言どういうこと?」
「私の目算では、かさねくんが勝つと思ってたからね」
私のことばに、かさねくんが明子姉……と小さく感動しているので、軽く二の腕を叩いてなぐさめておく。
いや、本当に今回ばかりは感が働かないな。蔵人くんは一勝くらいしかできなくて、かさねくんは盛沢に勝つと思ってたのに。
「かさねくん。勝負の内容はともかく、反省点は分かってる?」
「…………大丈夫。次があったら、絶対に負けないから」
「ん。分かってるならいいや。次はきっちり仕留めてやりなさいね。二度と立ち向かってこれないくらい、徹底的に」
かさねくんが力強く頷くのを見てから、盛沢に視線を向ける。
「というわけだから、今後も可愛い私の後継者をよ、ろ、し、く、ね」
文化祭を逃してしまった今、盛沢と本気で喧嘩をする機会はないといってもいい。
ならば、私のくすぶる闘志をかさねくんに委ねるしかあるまい。今回は敗北したが、かさねくんがこのままで終わるわけはない。
「本人でなくて、後輩に自分の鬱憤晴らすの手伝わせるとか、どうなのさ」
「盛沢と遊びたい思いはあるけど、さすがにこれからは受験に集中したいからね」
勉強はきっちりしてるけど、油断は禁物ですから。試験が終わるまでは堅実に勉強モードを保つ心づもりなんだよね。
「え? アッキーって進学組なの?!」
「明子姉ちゃん、本当に大学行くの? 先生騙すために受験勉強してたんじゃないの!?」
…………おい。私、春先から大学とかさ、模試とかのパンフレット見てたじゃん。勉強もしてましたよね。何でも屋を夏休み前に引退したのも、受験に集中したいからだと伝えましたが。
「ちょっと待って。なんで二人してそんなに私が進学するのに驚いてるの?」
「だって、昔から高校を卒業したら自転車で日本一周するって言ってたじゃん!?」
「二年生の頃は、進路調査表マジめんどくさい、とか言って未提出を貫いて先生たちにくっそ怒られてたよね?」
あぁ、確かに。
進学するのも、就職するのも、そんなに急がなくていいかなーと、日本一周とか、四国お遍路の旅とか、本気で考えてたんだった。
家族にも、先生たちにも猛反対喰らって、大変だったなー。
一、二年くらい自由気ままに色々と旅できるくらい資金は貯めてあるので、成人して社会のしがらみに巻き込まれる前にって昔から計画してたんだよね。
けれど、
「遠距離恋愛は無理だなっーて、思ったんだよね」
学校を卒業するくらいはいいが、長期間離れ離れになるのはちょっと想像ができなくて進学を視野に入れた。腰を据えて大学探しをしてみると、隣町に面白そうな学校を見つけたのでそこに進学を決めたのが今年の春。
学校のレベルも、私の脳みそでも射程圏内だったのと、学校案内を読み込んでみるとものすごく好みな学部もあったので、受験モードに切り替えたのだ。
進学するつもりはなくても、勉学に関しては兄貴の厳命もあって手を抜いてなかったのが功をなし、夏と秋の模試の結果は上々だった。
春に、担任に進学することを告げた翌日。
蔵人くんのところに私の担任を請け負った歴代の先生たちが、ありがとうと涙しながらお礼を言ってきたと蔵人くんがげっそりしてたのがいい思い出になってたりする。
ちなみに、副担任と学年主任もお礼を言いに行ったらしく、どんだけ迷惑かけてたんですかと蔵人くんに怒られたもの思い出のひとつである。
「あのアッキーに、そこまで言わせるなんて……」
盛沢が、不気味な物を見るような目で私を見つめている。
かさねくんは、じいっとこちらを無表情で見ているし、二人して本当に失礼な態度とりやがるな。
いいじゃないか、好きな人と離れたくないとかいう理由で進学決めても。
「明子姉ちゃん」
呼ばれたので、ん? と首を傾げて続きを促す。
「木屋には、自分から寄ってくんだね」
かさねくんがきゅっと、制服の袖を掴んでくる。
「……やっぱり、アイツ嫌い」
「こらこら。んな悪態ついてても、さりげなく好きでしょうが。甘えてるの、知ってるよ?」
盛沢には聞こえないように、ひっそりと囁く。
かさねくんは、ばれてたのが恥ずかしいのか、唇をとがらせている。
嫌いと、軽口を叩きながらも、なんだかんだと懐いていることに気づいていないのか、気付かないフリをしているのか。
「今は、指名されたばかりで戸惑ってるから、慣れるまで蔵人くんのことお願いね」
役割は蔵人くんの下に当たるけど、何でも屋としては先輩になるかさねくんに、今はビビりまくっている仔猫ちゃんのことを託しておく。
私が出張るよりは、かさねくんにフォローしてもらった方が、きっといいように転ぶはずだし。
「明子姉がいうなら、仕方ないから面倒みてやってもいいけど」
不本意丸分かりの表情に苦笑してしまう。
「うん。頼んだよ」
なじみの後輩に蔵人くんのことを頼んだり、離れたくなくて近くの大学に進学したり、自分でもなにやってるのかなーと思うけども、答えは分かっている。
要は、惚れているのだ。
しかも、ベタ惚れと思われてもいいくらいに。
最初はよく分からない変な後輩になつかれただけだったが、同じ時間を過ごすうちに、いつの間にか近くにいてほしい存在に変わっていた。
恋に落ちる瞬間とやらには気付けなかったが、いつの間にか人並みに恋というものに落ちていた。
高校入学当初は、恋愛とか自分にはまだまだ関係なさげな話と思っていたのに、分からないもんだと実感する。
文化祭という秋の一大イベントも終わり、高校生活もあとわずか。
残り少ない貴重な時間を、できるだけ君と過ごしたい。
どこまで叶うか分からないささやかな願いを胸に秘め、自分の教室に向かった。
これにて文化祭を含む、秋の季節の話すべて終了です。
冬の話のあと、エピローグで完結の予定です。




