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年下美少年になつかれました  作者: ほのお
高校二年生編
1/28

春は、年下美少年仔猫発見の季節

春、夏、秋、冬と物語は進みます。

 四月の始業式。

 ぽかぽかの陽気……ではなく、少し肌寒い中で高校生活二年目がはじまった。


 新学期初日のHRも無事に終了し、せっかくだからランチついでに喋ろうよと親友二人と向かった学食で、季節の限定メニューを美味しく頂き、食後のコーヒーを味わう。


「んー。美味しかった。私は午後からの入学式の準備があるから、ここでお別れだね」

 一年生の秋から生徒会に所属している親友その一

こと和子が、荷物をまとめ出す。

「お疲れさま。私は今日発売のCDをゲットしに、商店街に行くけど明子はどうする?」

 親友その二こと栞が私の顔を覘きこむ。

 自分はどうしようかな……と、しばらく悩む。

「あれれ? もしかして、明子ってばお暇ちゃんなのかな?」

 うーん……と、思案していると、和子も嬉しそうに私の顔を覘きこんでくる。


 ――なにやら、嫌な予感がする。


「季節外れのインフルエンザで生徒会役員が数人休んでて、人手が足りないんだよね。明子くん、ちょっと生徒会のお手伝いなんかしてみない?」

「ちなみに、なんの」


 面倒くさそうな内容だったら、速攻で断ってやろう。


「校内の見回り。毎年、迷子になって入学式に遅刻する新入生がいるから、その対策」

「あぁ、誰かさんみたいに」

「そういえば、和子って入学式に遅刻してたよね」


 栞と共に、和子がしてほしくないとある話題を口にする。

 春野和子という我が親友は、昨年度の入学式に遅刻した生徒の一人である。

 広いとはいえ、そこまで複雑ではない校内で、迷子になるという感覚がイマイチ理解できないが、本人の手前黙っておくのがちょっとした優しさであろう。


 ちなみにその時に、前任の生徒会長に拾われたのがきっかけで、和子は生徒会絡みの仕事をするようになったらしい。今では生徒会書記という肩書をもつ、生徒会の中心人物の一人なのだ。

 そして、遅れてこそこそと講堂に入ってきた和子の隣に座っていたのが、私こと央守明子である。これが仲良くなったきっかけだったりする。


 入学式に遅刻するような愉快な子が隣にいたら、思わず声かけちゃうよね?

 どこを彷徨ったのか知らないが、卸したての制服に葉っぱとか付けてるんだから、興味を持つなという方が難しいと思うのですよ。


「…………昔の話は忘れてちょうだい」


 和子が遠い目をした。

 きっと、生徒会室でもこの話題でいじられまくられてるんだろう。いじりたくなる気持ちはよく分かる。たぶん、来年の入学式でも私は和子にこの話題を振る自信がある。


「いいよ。見回りというか、校内を散策して新入生が困ってたら助けてあげたらいいんでしょう?」


 迷子ネタでからかわれている愉快な親友のため、昼食後の腹ごなしも兼ねてお手伝いしましょうか。


「ありがと、助かる」

「何か問題があったら、和子のスマホを鳴らすね」


 鞄を持って校内をまわるのも邪魔くさいので、スマホだけを制服のポケットに入れて、鞄を和子に託す。


「生徒会室で預かってもらってもいいかな? 後で取りに行くから」

「了解。式の途中でも、連絡係として誰かしら生徒会室にはいるから、見廻りが終わったら回収してね。式が始まって30分くらいしたら、適当に切り上げて帰っても構わないから宜しく!」

「はいはい。任されました」







 さーて、どこから回ろうかな。


 うちの学校で、新入生にとって物珍しいものといえば、校舎の裏手にある温室だろうか。

 あそこは、校長の趣味で結構珍しい植物とかもあり、そこそこ広いのでみんなの憩いの場所にもなっている、うちの学校の名物のひとつなのだ。

 迷子とか困ってる新入生とかそうそういないであろうと、タカをくくって温室に向かうと、


「…………どうしよう。本当にない」


 明らかに卸したてのぴかぴかの制服に身を包んだ、一人の新入生がしゃがみこんでべそべそと泣いていた。


 ――うわっ、いたよ。本当に。というか泣いてるし。しかも、男の子。

 おーい、僕? 今日から高校生なんだから、人目につかないとはいえ公共の場で泣くのはどうかと思うよ?


「……どこで落としたんだろう」


 ぐすぐすと鼻をすすりながら、男の子は何かを探してる。


「どうしたの、何を落としたの?」


 声をかけると、びくっと立ち上がり、袖口で涙を慌てて拭いている。

 あー、せっかくの制服が汚れちゃうって。ハンカチとか持ってないのかな。


「こら、袖口で拭かないの。これでも使いなさい」


 と、タオルハンカチを男の子の顏に押し付けて、涙や鼻水を拭いてやる。


「う、わ、……ちょっと」

「はいはい、いいから大人しく涙や鼻水が引っ込むまで押さえときなさい。そのハンカチは入学祝として君にあげるから」


 顔に自前のハンカチをぐいぐい押し付けてやると、男の子は抵抗をあきらめ、ハンカチを素直に受け取った。

 私よりも身長が低いため上目使いで睨みつけてくるが、迫力なんてものは一切なく、すこぶるかわいい。


 おや。

 よく見ると、この子、すごく顏が整ってるなー。


 ここまでの美少年を間近で見たのはじめてかも。うちの兄貴も顏は整っているが、それとはまた違う系統の美人さんである。

 髪の毛も色素が薄いのか日本人特有の黒髪ではなく、亜麻色。涙で濡れている瞳は少しつり目がちで、こちらに警戒する様子は毛を逆立てた猫みたいだ。

 私があまりにも観察してるのがばれたのか、男の子はぷいっと顔をそむけた。


「ごめんごめん。男の子の泣き顔なんて珍しかったから、つい眺めちゃった。悪かったね」


 わしわしと頭をなでておく。

 こんなにキレイな顔してたら、毎回出会う人出会う人に見つめられていい迷惑だろう。きっと、色々と苦労してるんだろうな。

 ……今は、涙や鼻水でそのスペックが台無しになってるけど。

 めげずに頑張れよっと意味も込めて、さらに頭を撫でくりまわしておく。


「いい加減、やめてください!!」

「おおっと、少しは元気になった?」


 ようやく涙もおさまったのか、男の子が私の手を振り払ってきた。


「じゃあ、最初の質問にもどるね。何を落として困ってるのかな?」


 ぶすっとした顔してるけども、目元や鼻が赤くなっていて、本当にかわいい。

 私が泣かせたわけじゃないけども、世の中の男性がかわいい子を泣かせたくなる衝動が少し理解できたかもしれない。

 あれ、好きな子だっけ? まあ、いいや。


「ほら、入学式まで時間がないよ? ここは素直に先輩を頼っちゃいなよ」


 突然現れた私に、未だ警戒心を解かないので、タイムリミットが近づいていることを知らせてやる。

 時間は有限なんだから素直になれよ、少年。探し物に必要なのは、人手だろう?



「困りごとはなんだい?」



 むうぅーっと、少年はしばらく悩んだ末、先輩である私に助けを求めてきた。


「………………財布を無くしたんです」


 あー……。

 それは、ちょっと泣いちゃうかも、かな。

 ふらふらとこの温室に迷い込んで、散策して、ふと気づいたら財布がなかったわけか。


「失くしたのは、この温室で?」

「はい。ここに入る前はありました」


 ふむ。明確な回答があるということは、何かしらの用件で鞄の中身をチェックしたのだろう。


「よし、私は奥から入り口までを見て回ろう。君は入り口から奥の逆方向で攻めようか。あと、どんな特徴の財布?」


 恥ずかしそうに、某有名猫キャラの財布ですと呟く姿は、またいっそうかわいかった。キャラクター名でなく、色とか形状の特徴をいえば伝わるのにねー。







 二人掛かりでの捜索の末、財布は無事に見つかった。少年はほっとしたのだろう、また微妙に涙目になっている。泣き虫さんだなあ。

 腕時計を確認すると、入学式まであと少し。ここでの案件も無事に解決したし、ささっと校内をまわってお役御免となりますか。


「では、私はこれで。入学式まで時間がない。頼むから、遅刻なんてしないでくれよ?」

「あ、ありがとうござましたっ!」


 いえいえ、困った後輩を助けるのは先輩の役目ですから。

 次の場所へ向かうべく、少年に背を向けると、ぐいっと制服の上着をひっぱられた。


「待ってください」

「ん? もしかして、体育館の場所が分からないとか?」


 迷子でもあったのか、この子は。

 和子さーん、ここに貴女の仲間がいますよー。


「違います。あの、先輩の名前をお聞きしてもいいですか。ついでにクラスも。今度お礼にいきます!」


 ――恩返し、ね。義理堅い子だなぁ。でも、


「悪いね、そこまでしてもらうのは恐縮なのでお断りさせてもらうよ」


 この子の美少年っぷりをみるかぎり、必ず校内で騒がれる有名人と化すに違いない。

 そんな注目集めるような子とは、できれば関わりたくないというのが本音。学校生活にある程度の刺激は必要だが、好きこんで衆目を浴びたいとかは思っていないので。

 それに、立場上できるだけ目立ちたくないんだよね。

 「君と仲良くなると注目の的になりそうだから御免こうむる!」と、心のままに伝えたら、きっと泣いちゃうだろうしな。

 うーん。

 ここで会ったのも、何かの縁なのだろうし、少しは妥協というものをしますか。


「そうだね。ヒントなしで私を探し出してごらんよ。その時、お互いにちゃんと挨拶しようじゃない」


 面倒事は先延ばしにしよう。

 今日の出来事をあっさり忘れて、新生活を送る可能性もあるだろうし。

 君の興味が薄れることをお祈りしときます。


「……分かり、ました。頑張って探します」


 いやいや、頑張らなくていい。むしろ、頑張るな。

 これから色々とオリエンテーリングやらで新入生は忙しいんだから。そっちに集中してくれ。

 一般的には、一年生にとって上級生の教室があるフロアへの立ち入りは中々勇気のいる行為だと思うんだよね。

 頼むから、二年生のフロアには侵入しないでくれよ。


 そして、今度こそ少年と別れる。


 なんか変な子と出会っちゃったなー。でも、かわいかったからいっか。

 と、呑気にその仔猫ちゃんとの出会いを締めくくる。


 それが、新学期初日の出来事。








 新学期がはじまって、しばらく日にちが経過した。

 新入生絡みのイベントも一段落つき、落ち着いた校内。


 新1年生の中に、それはそれは顔の整った美少年がいるらしいと噂が耳に入った。


「ごめん、栞。その情報をもう少し詳しく」

「んーとね、名前は木屋蔵人くん。身長は160センチ。色素が薄いみたいで、髪の毛は染めてないのに亜麻色なんだって」


 それ、あの子の事かな。

 外見的特徴はどんぴしゃだし、あの美少年っぷりなら、早々に噂になっちゃうであろう。


「誰もが見惚れる美少年なんだけど、滅多に表情筋を動かさないし、話しかけても必要最低限のことしか喋ってくれないんだって。今のところ、クラスの女子から氷結の美少年って呼ばれてるんだって」


 氷結の美少年。


 ……誰だ、そんなアレな呼び名考えたの。そんなの付けられたら恥ずかしくて学校来たくなくなるな、うん。

 美少年という単語に反応してしまったけど別人だったかな。例のあの後輩くんはどちらかというとふんわりかわいい雰囲気だったし……ということは、今年の新入生には、他学年に噂になるくらいの美形くんが何人もいるのか。レベルが高いな。一度でいいから、美人さんや美少年たちに囲まれてきゃっきゃっうふふとされたいものである。


「どうしたの、明子。知り合いの子だったりするの?」

「そうかなって思ったんだけど、なんか違うみたい」


 本日も、生徒会で色々と雑用を抱えている和子を置き去りにし、栞と下校するべく昇降口に向かう。

 部活に向かう生徒や、おしゃべりに花を咲かす生徒たちで賑わう放課後の廊下。



「見つけた」



 ふと、耳に聞こえた不穏な台詞。

 声がした方に顔を向けると、入学式に出会った少年がこちらを見つめていた。


「あちゃー、まだあきらめてなかったか」


 そろそろ飽きたかなと、思っていたのだけど。油断したな。


「ほら、明子。あの子が例の氷結の美少年、木屋蔵人くんだよ」


 ぼそっと呟く私の耳元に、栞が件の人物の正体を教えてくれる。


「え? あれが、氷結の美少年?」


 いや、あの子は入学式の日に温室でべそべそ泣いてた仔猫ちゃん……と、栞に説明する暇もなく、




 ――――どすっ

 ――――ごつんっ




「きゃあああああああああああ――――っ!!! 明子、大丈夫!!??」


 こちらに勢いよく抱き着いてきた美少年に、私は廊下に押し倒されて後頭部を強打した。

 一瞬にして視界が反転し、後頭部にいきなり受けたとんでもない衝撃に、私は意識を失った……らしい。

 えぇ、目が覚めたときは保健室のベッドの上でしたから。


 …………痛いなんてものじゃなくて、目から星とかビームが出そうなくらいの衝撃でしたよ。




和子は「イケメン拾いました」、栞は「親友いわく、おいしい設定らしいです」の主人公です。読まなくても全然平気ですが、ご興味ある方はよかったらどうぞー。

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