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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ―  作者: 紫風 剣新
一年編
8/67

第七伝「鳳凰剣」

第七伝です。この話では剣がキーワードとなります。私も一度でいいから剣を振り回してみたいな。

 四人がバケツを持ち続けること数分後。さすがに苦しくなってきたようで、四人は目をパチクリさせたり、持ち手を変えながらなんとか我慢していた。

「あら、あなたたち本当に持っていたんだね、素直な子たち」

 声がした。

 目はもう半分つぶっているようなもので誰がいるのかわからなかった。

 目を開けた。

 アリサが教室の前の廊下でバケツを持ちながら耐久レースしている4人の前に立っていた。こっちを見ながらニコニコしている。苦しむ生徒たちを後目に笑っている。悪魔だ。四人全員がそう思った。

「にしても、あなたたち仲良いよね。この数日間何してたか怪しいけど、水に流してあげる」

 やっとお許しが出た。4人はまるでずっと水中に潜ってきたように大きな息をつき、水一杯のバケツを床にたたきつけるようにして置いた。その反動で水が少しバケツからこぼれ落ちた。

「ひどいですわ。生徒にこんなことやらせるなんて」

 凛が両手をふーふーさせてアリサに文句を言っている。非力な女子ににはこの試練は厳しすぎた。 

「言い忘れてたけど、昨日からグループ学習を始めたんだよ。あなたたち以外はもうグループ出来てるから自動的にあなたたち4人が同じグループ。そういうことだからよろしくね★」

 龍の嫌な予感は的中した。やはり、俺達は取り残されていた。休むということは、こういうところで支障が出るのだと。

「この4人のグルーブなのですかー!? 進様はともかくとして厳しいですわ!」

 凛はまるで梅干を食べたように嫌な顔をする。そんなに俺のことが嫌なのか。龍は、全身からショックを受けた。

「まったくだ、俺はこいつらを許していない」

 進も同じ考えのようだ。

 みんなどれだけ俺のことが嫌いなんだよ!

 龍は自分が何かしでかしたのかと、急いで過去の記憶というページを大急ぎでめくった。

「ししょー、ナイスアイディアっす」

 良かった。剛だけは肯定的のようだ。龍は過去の記憶のページをゆっくり閉じる。

「先生、このグループでお願いします」

 友達のいない龍にとってこれがベストな班編成だった。この時ばかりは、積極的に嘆願した。

「だから、なんであなたが仕切っているのですの?」

 凛は龍を小動物を睨むように睨みつける。怖い、怖い。

「あなたたちが何を言おうと決まりは決まりだから。よ・ろ・し・く・ね★」

 どうやら俺達が何を言おうと決定事項のようだ。

 否定的だった凛も、やれやれといった面持ちで堪忍する。

「まあ、どのグループになったとしても足手まといになるだけだからどこでもいい」

 雷連進。この男だけは、冷たい目を教室の扉にお見舞いしながら、全てを悟ったように表情を変えることはなかった。

 こうして一撃龍、雷連進、光間凛、鉄剛の個性的すぎるグループが誕生するのであった。

 四人は今度こそ堂々と教室に入る。

 教室はいつも以上にガヤガヤしているように思えた。友達同士ではなかったはずの生徒同士が立ち話で花を咲かせている。

 取り残されている。四人は心の奥底にその感情をぐっとしまいながら、それぞれ自分の席に着席した。

 アリサはそんな四人を微笑ましく見つめながら教壇の上に立ち話し始めた。

「それではみんな揃ったところで今日の授業の内容を説明しまーす。みんなに質問だけどこの中でお父さん、お母さんがバトラだって人?」

 意外にもこの質問にほとんどの生徒が手を挙げた。

「ほぼ全員の人がそうだよね。ということでみんなのお父さん、お母さんの家にいって班員のみんなでインタビューしてもらいまーす★」

 教室がざわつく。

 今なんて言った?

 インタビューなんて面倒臭すぎる……。

 龍はそう思いながら顔にあるすべてのシワを眉間に寄せた。

「なんでそんなことわざわざやるのですの?」

 こういう時の凛は実に心強い。凛は鋭い質問をアリサに飛ばした。

「いい質問だね。みんなのお父さん、お母さんである先輩の闘士に話を聞けば、自分の将来像ができると思うの。ね、単純で分かりやすいでしょ?」

 なるほどね。

 確かに、自分達の身近な存在である父親や母親に聞けば自分がどういうバトラなるべきかはっきり分かる。そういえば、母さんは元々バトラだったって聞いた。どういうバトラだったのかすごく気になる。これを機にたくさん聞こう。それに、行方不明になった父さんのことだって。

 龍はさっきまでの険しい表情とは打って変わって、眉間から一切のシワが除かれ、期待に胸を膨らませた。

「それでは早速インタビュースタート★ 班員の親には班員全員でインタビューするんだよー★」

 インタビュースタートだ。

 生徒たちはゾロゾロとバラバラな足音を立てながら教室から出て行く。もちろん、龍、進、凛、剛の4名も例外なく教室を離れた。


「それでどこの家から行く?」

 あてもなく、道端に緑を誇張する草花が一列に並んでいる道を歩く龍達4人。

 龍はしびれを切らしてこの質問をする。

「じゃあお前の家から!」

 それはそれは返答が早かった。

 剛がそんなことを言うもんだから、あっさり目的地は決まった。


 川沿いの住宅街。

 そんな住宅街にある、家を造った材木が前面に誇張する家。ガラス張りであるがカーテンで中の様子が見えない窓。侵入者を頑なに拒む黒い扉。これが龍の家だ。

「着いたよ」

 これが我が家だ。

 そう自慢するように龍は手全体を使って自分の家を指す。

「ここがあなたの家ですの?貧乏くさいですわね」

 ムカっ……。

 誰だそんなことを言ったのは?

 俺の悪口はいいけど、家の悪口は許さない。

 凛が祈るようにして謝ってきた。反省してるのかしていないのか分からない表情で。まあ許してやる。

 龍は不機嫌になりながらも、我が家のドアに手を伸ばし、バックに入れている鍵を取り出しカチャカチャ言わせながら解錠する。

「よーし、入るぞ!」

 剛は家主を差し置いて家の扉に手を伸ばし入ろうとする。

「勝手に入らないで!」

 さすが家主。ここでビシッと言う。扉も背筋を伸ばし、ピリピリする空気を演出している。

「いいよ入って」

 龍以外、芸人のように綺麗にずっこけた。

 先ほどまで、沈黙を決め込んでいた扉も拍子抜けしているようだ。

「どっちなんですの!?」

 華麗なる凛のつっこみ。扉も拍手しているようだ。

「お前つっこみに向いてるな」

「勝手に決めないでくださる?」

「フン、どうでもいいな」

 凛と剛と進はくだらない話をしながら龍の家にお邪魔した。龍はその光景を保護者のように微笑ましく見つめる。

 これが友達なんだ。

「ただいま」

 龍は家に帰ってきたときと同じような調子で言った。しかし、まだ午前中。

「おかえりなさい、あら今日は早かったのね」

 母が自慢の白のうさぎ柄のエプロンをつけ、不思議そうな顔をしながら、ドタバタと足音を立て息子を迎える。インタビューとは毛頭思っていないようだ。

「今日は戦校の課題でインタビューをしにきたんだ。そこで今日は班員を連れてきた」

「こんにちは。お邪魔しておりますわ」

「どーも」

「お邪魔します」

 続々と班員が龍の母の目の前に姿を現した。家がこんなに賑やかになったのは初めてだ。

「あらー、ついに龍にお友達が……お母さん嬉しいわ」

 母は単純に嬉しかった。

 我が子は今まで友達、いや人すらも家にあげることはなかった。心配だった。我が子に友達が一生できないのではないと。 

 でも、出来た。戦校に通わせて本当に良かった。涙すら込み上げてきた。

「今まで友達いなかったのですの? 呆れましたわ」

 またしても凛からの鋭いツッコミ。

 ただ、このツッコミは龍にとっては鋭すぎた。龍の体はツッコミという鋭利な刃物によって硬直していた。

「そーなのよ、この子は交流ってものを知らないのよ」

 やめろ!やめてください。お願いします。これ以上俺を傷つけないでください。

 龍は凛と母の鋭すぎるやり取りにすっかりテンションが下がってしまった。

「龍、少し明るくなったかしら?」

「まあね、戦校にいってよかった気がする」

 自分でも気づいてた。戦校に通う前と通い始めた後の劇的な変化に。

 ここでは難だからということで、母は皆をリビングに連れ出した。

 リビングといってもそんなたいそうなものではない。錆びついた台所と、シンプルな木製の机と椅子が置いてあるだけだ。

 ちょうど人数分の椅子があったので、4人はそれぞれ椅子に座った。

 母は冷蔵庫の中になるお茶を取り出し、人数分にコップを注ぐ。コップを四人に配ると、こっちを向いて腕を後ろに回し、ニコニコしながら立ちすくんでいた。

「ところでインタビューで何かしら?」

「はい、バトラの先輩である親御さんに闘士になるにあたって大事なことを訪ねたいのですが」

 こういう時に頼りになるのは人見知りをしない社交的で常識人の凛であった。

「あ、そういえば母さんもう引退しちゃったから闘士じゃないや」

 龍は思い出したようにして答えた。

「えっ?」

「おいまじかよ!?」

 龍の一言により小さなリビングが揺れる。

「ごめん、言うの忘れてた」

 そう、これは現バトラの先輩方の新鮮な話を聞こうという企画である。言うならば龍の母は”規格外”である。

「いつも思うけど、あなたネジが一本抜けてますわね」

 母を目の前にしても凛の容赦ないツッコミは鋭かった。

「ごめんなさいね」

「それではお父様がバトラなのですね?」

 父。このワードは我が家においてはタブーだ。

 唱えるだけで一瞬にして気分が沈む魔法のワードだ。このワードは会話が不自然になろうが、出来るだけ発しなかった。

 でも、凛は言ってしまった。

 悪気がないというのは分かっている。凛は我が家のルールを知る由もないのだから。

 そうは分かっていても、龍と龍の母の目が曇ってしまった。

「ごめんなさいですわ、つい余計なことを」

 凛は人一倍空気が読める女。すぐに察し申し訳なさそうな顔をして謝った。

「いいのよ気にしないで。インタビューとか大それたことはできないけどこれだけはあなたたちに伝えたいことがあるわ。それは……」

 それは何だ?間違いなく母さんはこれから大事なことを言う。龍は思った。全員がそう思った。

 リビングはしずまりかえった。台所の蛇口から出る水滴の落ちる音がかすかに聞こえるだけだった。

「闘いが終わったらかならず自分の居場所に戻ってくるのよ」

 龍は母の言葉を即座に理解した。

 父は結局自分の居場所には戻ってこなかった。残された者にとってそれはどんなに辛いことか。理解できないわけがなかった。

「これぐらいしかできなくてごめんね」

「いえいえ、貴重なお話ありがとうございました」

「あなた、言葉づかいもきれいで立派ねー、とても龍と同い年とは思えないわ。是非、うちのお嫁に来てほしいわ」

 こういうことは冗談でも言ってはだめだ。どういう顔をしていいか分からない。とりあえず龍はなぜか拳を握りしめながら「おい!」と母に言って見せた。

「おほほ、御冗談を」

 凛は冷静に受け流した。でも分かっている。内心は冷や汗だらだらだ。

「ところで龍、あなたに受け取ってほしいものがあるの。少し待ってて」

 ふと龍の母はこんなことを言ってリビングを出ていってしまった。龍には心当たりがまるでない。


 各々がお茶をすすりながら母の戻りを待っていた。

 龍は落ち着きが無くなり、用もないのに時計を見たり、台所を見ていたりした。

 ガシャンガシャン。

 遠くの方から重たい金属を引きずりながら歩いているような変な音がした。生まれてから十余年この家に暮らしている龍だったがこんな音は聞いたことない。

 母がリビングに戻ってきた。ただ、母は妙なものを持っていた。

 剣だ。

 剣をあまりこの眼で見た事が無かったが、明らかに大きい。子どもくらいの大きさはあるだろう。柄は鉄の上に龍の髪色のように赤と黒の紐が巻かれてある。鍔は透明な赤い円形のプラスチックのようなもの。多分、プラスチックより丈夫なものだろう。刃先は皮膚に浮かび上がる血管のように線状に輝いている。その輝きは、血液のような紅色だ。剣から生命力が伝わってくる。血管のような紅色の線が鼓動のように伝わってくる。

 かっこいい。

 まさか、家にこんなかっこいい剣があるなんて。龍の目は剣の刃先のように輝いていた。

「これよ、この剣は一撃家に代々伝わる剣”鳳凰剣”よ。この剣には”鳳凰”の力が宿ってるのよ」

 生まれてから今までずっと母と一緒に暮らしていたが、龍は全く母が何を言っているのかわからなかった。でも、なんとなくすごいということだけは分かった。

「話に全然ついていけないよ、なんだよ鳳凰って?」

 龍の質問を受けると、母は鳳凰剣と呼ばれる大きな剣をチラチラ見ながら語り始めた。

「昔話でもしようかしら。みんなも聞いとくといいわ。昔々このあたりには鳳凰という化け鳥が住んでいた。しかし、この地を開拓しようとした闘士が鳳凰を追い出してしまったの。これに怒った鳳凰は人々を襲った。それを鎮めたのが我々の先祖。先祖は鳳凰を自分たちの土地に閉じ込め、鳳凰の力の一部をこの剣に封印した。その鳳凰の力が我々のスペシャルである炎のもととなっているの」

 龍の母はコップ一杯に注いであったお茶を一口で飲み干して、なおも説明を続けた。

「残念ながら直接一撃家の血を受け継ぐのは父であって私は違う家の生まれ。彼と結婚しただけだから私は厳密には一撃家の血は無いの。でも龍、あなたは由緒ある一撃家の血を持つ父の正真正銘の子よ! つまり、あなたも一撃家の血を脈々と受け継がれている! だからこそ、この剣をあなたに託すの」

 全然知らない単語が母の口からたくさん出た。ずっと一緒に生活してきてこんなことは初めて聞いた。正直、今の話を全て飲み込むなんてできい。 

 でも、龍にとっては十分だった。今まで何も期待されてこなかった人生。母が初めて自分を信頼してなにかを託した。それだけで十分だった。

「ありがとう母さん、もう迷いはない! この剣と共に突き進んでやる!!」

 それは新しい龍の新しい決意だった。

「やっといい眼をするようになった……みんな、こんなどうしようもない息子だけどよろしくお願いします」

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